限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
349 / 376
第十二章 弥生(三月)

345.三月十九日 午後 体育館での諍い

しおりを挟む
 今週末、三月二十二日は中等部の卒業式が行われる。そのため今週は火曜木曜の二日間が午後の授業の代わりに予行練習へと充てられていた。なぜ隔日なのかと言えば理由は明確で、当日の感動が薄まらないよう九遠学園の予行練習は卒業生と一、二年生が別々で練習すると決まっているからである。

 すなわち本日と明後日は一、二年生、明日と明明後日やのあさっては三年生が練習する日と言うことだ。

「そもそも練習をすること自体が興ざめの原因ではないのかしら。
 まあ授業が無くなるのは歓迎だから文句は言わずやるけれどね」

「いやいや八早月ちゃん、すでに文句言ってるってば。
 それにしても四宮先輩が卒業しちゃうなんて部活の楽しみがほぼゼロだよ。
 誰でもいいから眺めるのにちょうどいい部員が入ってくるといいけど無理かあ」

「夢一人になるから部長になるんでしょ? 二年生で部長なんて凄いよね。
 四宮先輩はどうだったのかな、高等部に書道部の一年生いたっけ?」

「いるいる、四人くらいいたから去年までは多かったんだろうね。
 でも一年生がいなかったから今二年生がいないってことだけどさ」

「来年になったら新入生が入ってくるわよ、先日の植田さんという子ね。
 書道好きだと言っていたから体験入部くらいはすると思うわ」

 八早月はあえて植田南の本性については黙っていた。同様に南へ夢路の嗜好についても伝えていない。あまり先入観を持たせるのもどうかと思ったと言うこともあるが、綾乃に口止めされていることが一番の理由である。

 似たもの同士だからと言って気が合うとは限らないわけで、体験入部だけして入らないかもしれない。それを考えたらあまり期待を持たせすぎない方がいいと言うのが綾乃の言い分である。

 そして南へもあまり吹き込んでおくと、体験入部すら来てくれない可能性が出て来てしまう。きっと自然体で出会えた方がどちらにとっても良いだろう。これも綾乃の受け売りだ。

「それにしても部員一人で部活動が成立するのかしら、廃部にはならないの?
 以前夢路さんから借りた漫画では、人数が足りないと人集めをしていたわ。
 最後は幽霊部員と言う物騒な展開にもなっていたでしょう?」

「そう言えばそんなこと誰からも聞いてなかったかも。
 よくよく考えると顧問の先生すら知らないよ! えっ、ビックリなんだけど」

 夢路は新たな気付きに驚いているが、外野からしてみれば今の今まで気づかなかったことに驚きである。

「でもきっと大丈夫だよ、四宮先輩だって勧誘活動してたことないもん。
 だから部員数に決まりなんて無いんだと思う、うん、きっとそうだよね」

「書道部ってすごいね…… そりゃ夢でもやっていかれるわけだよ。
 でも今後は放課後にカギ取りに行ったり返しに行ったりもあるじゃない。
 やっぱ顧問の先生くらいは早めに知っておいた方が良くない?」

 もっともすぎる意見が美晴から出されると、八早月も頷いて同意した。だが夢路はテンでやる気無さそうに力なく笑い返している。直臣が卒業してしまうことでやる気を失ったというのは本音なのだろう。

「でも確かに一人になってしまったらやる気も出なくなって当然よ。
 直臣の観賞については賛同しかねるのだけれど、意欲を持てないのは問題ね。
 いっそのこと辞めてしまったらよいのでは?」

「でも四宮先輩から託されたから放り出すわけにはいかないよ。
 こう見えても私って責任感強い方だからさ」

「じゃあその責任感の強さを活かして予行練習を真面目にやってくれない?
 いつまでも集中しないでおしゃべりされてたら進められないでしょうに。
 もう時間になったんだから早く並んでよね」

 そう言って叱り口調で割り込んできたのは井口真帆だった。クラスをまとめる委員長と言う立場からすればその強い口調にもなろうと言うものなのだが、当然夢路は反発する。

「まほちんってなんでそんなうるさく言うわけ? 普通に言えば通じるよ?
 それに回り見てみなってば、まだ二年生もそろってないし平気平気」

「そう言う問題じゃないでしょ! うちのクラスが真っ先に整列すればいいの。
 なんで夢ちゃんはいつもいつもひねくれた事するわけ? 信じらんない!」

「そっちこそいつも食って掛かって来てさ、私が何か気に障ることした?
 どちらかと言えば協力的だしめちゃ気遣いしてると思うんだけど?」

 この夢路の台詞を聞いて周囲はやや騒めいた。さらに言えば、二人の小学校時代を知らない八早月ですら呆れ顔である。この一年間見てきたことで判断する限り、夢路が真帆に協力的だったことなど一度もない。どちらかと言えば夢路は、成績以外では問題児とも言えるほど協調性がないのだから。

 クラス運営と言う点に関して言えば八早月は真帆を評価している。確かに気が強く命令口調で指示してくる嫌いはあるが、事あるごとに意見が対立する小さなコミュニティをうまくまとめてきた実績もあり教師からの信頼も厚い。

 だが先日の大泣き騒ぎ以降、立場が悪くなり始めているのもまた事実。決してそんなことは無かったのだが、周囲からは感情的で困ったら泣く女子といったレッテルを貼られつつあった。

 裏を返せばそれくらいクラスの中はくっきりと二分、いや三分されており、すでに進級後の主導権争いが始まっている。井口真帆と対立する群れグループでもクラス委員長を擁立する動きがあるらしい。しかし数で勝る真帆陣営をひっくり返すには中立層の取り込みが必要不可欠と言った状況にあるようだ。

 中学校の、しかも全部で二十人しかいないクラスで政治的争いが勃発しているのもなんだか面白いと見る向きもあり、八早月もその一人である。物珍しさからどちらにも加担せず周囲から見ている方が楽しめると考えていた。

 政治的争いと言えば、八畑村にも村長がおり任期満了の際には当然のように選挙が行われるのだが、近代になって選挙制度が確立されてから一度も投票が行われたことがない。遥か昔の放擲ほうてきされた村だった時代より同じ家から選出されており、村人からも世襲や利権などと羨まれてはおらず跡を継ぐ義務があるとさえ考えられている節がある。

 それだけに、本来は戸籍上の大人たちにだけ与えられた権利、群れの長を自分たちで選出するための『投票』を楽しみにしている。小さな中学生のクラス委員と言えど、八家筆頭とは異なり世襲でも実力主義でもない、まさに個人の能力と人脈を合わせた政治力が問われる戦いなのだ。

 だがこうしていつものように諍いを起こしていることが、いつまでも許容されるわけではない。

「こらっ、お前たち、まーた言い争っているのか? ちゃんと委員長の指示をだな――」

 結局一年一組『村』の面々は、クラスをまとめる村長委員長よりも上位の存在である担任に、全員一緒くたで叱られてしまったのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

訳あって学年の三大美少女達とメイドカフェで働くことになったら懐かれたようです。クラスメイトに言えない「秘密」も知ってしまいました。

亜瑠真白
青春
「このことは2人だけの秘密だよ?」彼女達は俺にそう言った――― 高校2年の鳥屋野亮太は従姉に「とあるバイト」を持ちかけられた。 従姉はメイドカフェを開店することになったらしい。 彼女は言った。 「亮太には美少女をスカウトしてきてほしいんだ。一人につき一万でどうだ?」 亮太は学年の三大美少女の一人である「一ノ瀬深恋」に思い切って声をかけた。2人で話している最中、明るくて社交的でクラスの人気者の彼女は、あることをきっかけに様子を変える。 赤くなった顔。ハの字になった眉。そして上目遣いで見上げる潤んだ瞳。 「ほ、本当の私を、か、かかか、可愛いって……!?」 彼女をスカウトしたことをきっかけに、なぜか「あざと系美少女」や「正体不明のクール系美少女」もメイドカフェで働くことに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

負けヒロインに花束を!

遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。 葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。 その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

処理中です...