限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第十二章 弥生(三月)

358.三月二十六日 昼 ホームパーティー?

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 テレビか何かでこんな光景は見たことがあった気がする。それは何かの授賞式だとか勲章授与だとかそういう特別な式典だろう。

『ちょっと夢ちゃん、なんで私たちこんなとこ来ちゃったのよ。
 他にも子供がいるからってホッとしてたのがバカみたいだわ……
 八早月ちゃんもあらかじめ教えておいてくれたら良かったのに』

『ホントなんでこうなっちゃったんだろうね、場違い感が凄すぎる。
 なにがなんだかわからないけどもうなるようになれの心境だよ。
 どうぜ逃げられるわけじゃ無いし諦めよ?』

『アタシお腹が鳴りそうで怖くて仕方ないよ…… どうしよう』

『ほら、そろそろ呼ばれる番が来るわ、歩いて頭下げるだけだから平気よ。
 みな気をしっかりもってね、特に美晴さんはもう少しの辛抱だわ。
 私はあそこのグラタンを狙っているのだけれど美晴さんはどれかしら』

 確かにお腹が空いているのは間違いないが、心配しているのは空腹自体ではなく、壇上でお腹の音が響いたら恥をかくと言うことだ。すなわち八早月の心配は微妙にずれている。

 さらに言えば、そのうち一人は尋常ではないほどに緊張しているのだが、それも無理の無い話である。確かに八早月は事前にもう少し詳しく教えておくべきだっただろう。

『続きまして、瑞間女子学園、中等部卒業および高等部入学、遠山紀子殿
 続きまして、瑞間女子学園、中等部、第三学年進級、野々村佐知代殿』

 司会の声が会場内へ響くと、壇上最後方に並んでいる中から呼ばれた者が前に出て頭を下げ、観客の拍手を受けてからまた戻ると言うのを繰り返していく。一体これは何の茶番なのだろうかと夢路は半ばあきれていた。

『続きまして、九遠学園、中等部卒業および高等部入学、四宮直臣殿
 同じく九遠学園、中等部卒業および高等部入学、桧山新太郎殿
 続きまして、金井中学校卒業および九遠学園、高等部入学、糸井向日葵殿
 同じく金井中学校卒業および九遠学園、高等部入学、若菜晴彦殿
 続きまして、長久中学校卒業および九遠学園、高等部入学、佐々岡眞子殿』

 順番からするとこの次のグループと言うことになるのだろうが、パニックに近い精神状態となっている綾乃は大丈夫だろうか。隣に立っている夢路は自分が冷静なだけに綾乃が気になって仕方ない。

 だがどうすることもできないまま、前のグループをたたえる拍手が鳴りやんでしまった。つまりいよいよ中等部の番なのだ。

『続きまして、金北小学校卒業および九遠学園中等部入学、尼崎かなえ殿
 同じく、金北小学校卒業および九遠学園中等部入学、坂本士郎殿
 同じく、金北小学校卒業および九遠学園中等部入学、藤平美香殿
 続きまして、金井小学校卒業および九遠学園中等部入学、梅田劉生殿
 同じく、金井小学校卒業および九遠学園中等部入学、山田希美殿』

 新入生紹介の後少々息継ぎが入り、司会の男性がコップの水の一口飲んでから再びマイクを口元へ近づける。

『続きまして、九遠学園、中等部、第二学年進級、櫛田八早月殿
 櫛田八早月殿は九遠エネルギー代表取締役、櫛田手繰様のご息女にございます。
 また、ご存知のように同社取締役、九遠寄時様の姪御様でもございます』

 今までと違いわざわざ紹介文を挟むとは、さすが本家直系筋であり九遠エネルギーの社長令嬢である。もちろん会場内にはひときわ大きな拍手が鳴り響いた。

 だがこの特別扱いを嬉しいと思う者がどれ程いるのだろうか。もちろん今紹介されたお嬢様・・・も唇をかみしめるようにしかめっ面を作っている。

『続きまして、九遠学園、中等部、第二学年進学、板山美晴殿
 同じく、九遠学園、中等部、第二学年進学、山本夢路殿
 続きまして、九遠学園、中等部、第三学年進学、寒鳴綾乃殿』

 どうやら九遠学園中等部が最後だったらしく、これで式典は終わりを告げた。綾乃は最後に紹介されたせいなのか緊張感が解けずに顔をこわばらせたままで最後尾を歩き壇上から降りて行く。

 ここまで来るとこの部外者・・・三人も察しているのだが、壇上で名を呼ばれた子供らはどう考えても九遠家の親類縁者なのだろう。もしかしたら八早月のように何の説明もせず友人を連れて来て晒し者にした者がいるかもしれないが、そんなことをする子供がそうそういてはたまらない。

 もちろん八早月に悪意があるだなどと考えているものはいないが、善意なら何でも許される物でもないだろう。そして最上級に文句を言いたくて仕方ないはずの彼女・・なのに、精神の安定を図るのに精いっぱいなところがいとあはれ、である。


 それでも降壇後に飲み物を貰って一息ついたからか、顔色も良くなりいつもの勢いが戻ってきた綾乃は八早月へ食って掛かった。

「ちょっと八早月ちゃん、これどういうこと!? 明らかに身内の式典でしょ?
 全然ホームパーティーなんて規模どころじゃないじゃないの!
 私たちがあんな扱いされるのは筋違いで心臓が口から飛び出すかと思ったわ!」

「綾乃さんったら一体どうしたのよ、パーティーに来ればご馳走食べ放題よ?
 そのためなら少しくらい我慢できるかと、私は皆へ聞いたわよね?
 確かに注目されて恥ずかしかったかもしれないけれどそれだけでしょう?
 あ、そうね、私が悪かったわ、直臣も九遠家の遠縁だと言っていなかったわ。
 と言っても血縁ではないのよ? あの子の母親と麗奈叔母様がはとこなのよ」

「違う、いや違くは無いけど…… でも違うの、他人てばれたら大変でしょ?
 絶対マズいよ、なんでママたちは平気な顔してるわけ?」

「それは先ほどの子らは身内だけではないからだわ、身内の友人もいるわよ?
 パーティーですもの、招待したいほどの親友なら構わないと言うことね。
 だから私は皆に声をかけたのだもの。去年は一人でつまらなかったわ」

「ダメだ、無駄だよ綾ちゃん、諦めた方がいいって、それに収穫もあったしさ。
 そっかあ、四宮先輩は九遠家の遠縁でもあるんだねえ、こりゃ玉の輿どころじゃないよ?」

「もうっ、夢ちゃんも知らない! 私なんかとってくる、ハルちゃんいこ!」

「綾乃さん一体どうしたのかしら、やっぱりお昼が遅すぎたのね。
 もっと早く終わると思っていたのに見立てが甘かったわ」

「そうだね、遅かったね、手遅れだねー」

 首を傾げる八早月と説明する手間を惜しむ夢路がその場に残されてすぐ、綾乃たちが戻ってくる前に話しかけてくる者がいた。それは先ほど壇上で最初に紹介された男子、いや男性である。その背丈は夢路が知る中では一番高いかもしれない。

「よおチビ、懲りずに今年も来たんだな。しかも友達連れとは情けない。
 まあいくら援軍を呼んでも同じことだけどよ」

「はあ? 相変わらず背ばかり大きくなって生意気だわね、小心者のくせに。
 自分の得意分野でないと虚勢すら張れないのだから情けない。
 今年はぎゃふんと言わせてやるから覚悟しなさいよ?」

「出来るもんならやってみろ、いくら煽られてもチビの土俵には乗らねえから。
 どうせ今年もおれの勝ちに決まってる、こんなチビに負ける要素がないからな」

 今年もおれの勝ち? 負けるはずがない? 今年はぎゃふんと? まさか八早月が勝負に負けた相手だと言うのだろうか。夢路はそんなことはあり得ないと思いつつも、あれだけ大口をたたいて八早月を見下して去っていった、九遠藤樹とうきに興味を示すのだった。
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