限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第十二章 弥生(三月)

366.三月三十日 午後 アウトドア少女トーク

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 リベンジだと言って磯へ行ってしまった飛雄と板倉を見送ると、待ってましたと言わんばかりに夢路が革新へ迫るかのごとく切り出した。どうやら前々からとあることが気になっていたらしい。

「八早月ちゃんは一緒に行かなくていいの? なんかちょっと気になるよ。
 こっちに来ても向こうへ来ても飛雄君とあんまり遊んでなくない?
 いない時はしょっちゅう名前出す割には塩対応だよね」

「塩はよくわからないけれど、近くにいるのだから一緒である必要もないわね。
 おそらくは飛雄さんも同じだと思うわよ?
 だってこれだけ近いとお互いの位置や行動は手に取るようにわかるんだもの」

「ああ、気配でってことか、なんだか味気ない答えすぎて困るわ。
 綾ちゃんも四宮先輩の気配ってわかるの?」

「えっ、なんで今ここで私と先輩の話!? まって、ちょっと、えっと……
 そりゃわかるよ? あと八早月ちゃんが授業中に居眠りした時とかもね」

「ちょっと綾乃さん、それ以上言ってはいけませんよ!
 一応授業中に寝ていないことになっているのですからね?」

「いやいやそんなのとっくにばれてるし。月曜日は結構寝てるもんね。
 一、二時間目は国語と歴史だから退屈なのかなって起こさないで眺めてるけどさ」

「もう、美晴さんまでそんな意地悪を。そう言えば卒業式の前日だったかしら?
 珍しく休み時間に直臣が綾乃さんの教室まで行っていたわよね。
 騒動になってから距離を置いているようだったから気にはなっていたのよね」

「あーもー! 八早月ちゃんは余計なこと言わないでいいってば! もう!」

 ただ時すでに遅し、瞳が四つ輝いてしまっている。さすがに卒業式直前と言う特別なワードが加わっているからか美晴も興味津々である。もちろん八早月に悪びれた様子は微塵もない。

 対して綾乃は顔を真っ赤にして怒っているふりをするが、これは恥ずかしさで顔が紅潮していることを隠したいだけなのだ。だが怒りを敵意として、つまり悪意を感じ取れる八早月には何の意味もなくむなしい努力だと綾乃もわかっている。

「まったく八早月ちゃんってば油断も隙もありゃしないんだから……
 もう知られちゃってるけど、あの日は卒業式後の食事会の件で来てくれたのよ。
 あの日はずっと視線が痛かったわ…… メールで返してくれれば良かったのに」

「形式とは言え許嫁で親公認なんでしょ? 普通に付き合っちゃえばいいのに。
 アタシみたいに成績落ちたら彼氏のせいだとか言われる心配もないしさ。
 上がった時はなにも言わないのに落ちた時だけ引き合いに出すのやめてほしいよ」

「ハルちゃんも大変なんだねえ。でも私は付き合うほど好きなわけじゃないし。
 そもそも付き合うってのがなんだかわからないんだもん、だってそうでしょ?
 付き合って無くなって遊びに行ったりは出来るんだよ?」

「そう言われるとこまるけどさあ、八早月ちゃんはどう思う?
 どう見ても飛雄君とは付き合ってるでしょ?」

「付き合ってると言うのはいつも一緒にいられる前提ではないの?
 私はまったくそんなつもりはないから違うのだと思っているわ。
 逆に言えば美晴さんは橋乃鷹さんと付き合っていてなにをしているの?」

 この質問はもっともである。言いだしっぺの美晴が付き合ってる男女の定義を示してくれれば、自分が当てはまるのかどうかわかると八早月は考えたからだ。綾乃の場合は少し違うが、定義がわかっていないのは同じだった。

「えっと、いつも一緒にいたくて楽しくて嬉しくて癒されて触れ合いたい感じ?
 でもたまに不安になる方が自分の気持ちがわかるってのもあるかなあ」

「言っていることはわかるけれど定義としては全然理解できないわね。
 きっと概念的な物と言うことではないかしら。つまり逆転の発想よ。
 二人がこのような状態になったら付き合っている状態と解釈すればいいのだわ」

「えー、そんな堅苦しいものじゃないと思うよ? 例えばそうだなあ……
 下らない思い付きとか些細なことでも話したくなっちゃうとか?
 あれあれ、タンスの角に小指ぶつけちゃったとかスマホを顔に落としたとかさ!」

「もしそんなことが起きたとして私なら玉枝さんを呼んで冷やしてもらいたいわ。
 あと美晴さんは寝ながらすまほを使うならうつ伏せになった方がいいと思うの」

「そうじゃなくてさ…… 綾ちゃんはわかるでしょ?」

「どうだろう、例えば漢字の書きや英単語でケアレスミスしちゃったとか?
 もっと違うことなら、うーん、タンスに小指ぶつけてみないとわかんないかなあ」

「ダメだこの二人…… 零愛さんならわかるよね? 振った経験持ちだしさ。
 付き合えないってわかるなら付き合いたいもわかるんじゃないの?」

「そうだなあ、顔が悪い、服装がダサい、訛ってるは絶対ダメだな。
 あと漁師の長男も親がうるさくて嫌だね、結婚するわけじゃないのにさ。
 性格がどうのとかは付き合うか、友達期間長くないとワカンナイじゃない?
 だからそこは後回しでいいんじゃね? だからまずは見た目ってことで」

「うう、なんかドライと言うか大人と言うか、予想と違ったよ……
 でもその割に彼氏いないんでしょ? カッコいい人いないって言ってたけどさ。
 一人もいないってこと無いよね?」

「そんなの手あかがついてるに決まってるじゃん。田舎なんて人少ないからね。
 幼馴染とかおな小おな中が強いよ。んでおな中男子は碌なのいないとキテル。
 漁師町だから仕方ないんだけど粗暴な男子が多いね、トビは変わりもんだよ」

 結局零愛からも美晴が望む回答は出てこない。こうなったら最後の手段と言わんばかりに隣へ声をかけることにした。はっきり言って毒を以て毒を制すくらいの気持ちである。

「ちょっと夢! 珍しくだまってるんじゃないってば、こういう時こそ出番!
 アタシじゃもう無理だよ、この二人ってばぶっ飛んじゃってるんだもん」

「いつか話を振られると思ってたけど無理だからひっそりしてたのにさあ。
 みんな残酷じゃない? 私なんていつでも誰でもウェルカムなんだよ?
 でもそんな機会は一度もないからね? フラグどころか相手の気配もない。
 そんな私に恋愛観の話題を振っていいと思ってるわけ?」

「あ、ああ、そう、かも、ね…… じゃあマンガとかゲーム的にはどうなの?」

「余計むなしくなるからもうやめて! 夢路のライフはゼロよ!」

「あのさ、まずそう言うマンガネタみたいなのやめた方がいいと思う……
 もしかしたら同好の男子がいるかもしれないけどダサそうじゃない?」

 冷ややかな空気が流れ始めてもまだ、付き合うの定義を決めかねている少女たちである。だがここで余計なことを思い出した夢路だった。ちょうどいいサンプルがいるではないかと言わんばかりに立ち上がり力説を始める。

「そだ、板倉さんはどうよ? 小鈴ちゃんと付き合ってるみたいなんだよね。
 八早月ちゃんもそれくらいはわかってるんでしょ?」

「どうなのかしら、よく一緒に出掛けてはいるみたいだけれどね。
 結局付き合ってるの定義がわからないから当てはまるか判断できないもの。
 でも聞いたときには『仲良くしていただいてます』なんて言っていたわね」

「じゃあやっぱ付き合ってるんだよ、そういうことじゃない?
 仲良くしていただいてるなんてなかなか言えないよ、大人だなあ。
 素直に好きですよ、とか付き合ってます、とか言わないところがカッコよくない?」

「夢的にはそれ付き合ってるって感じるとこ? ウチはわかんないなあ。
 今んとこ関係は悪くないけどまだちょっと距離あるって感じしない?」

「うーん、私は付き合ってるように感じるかな。奥ゆかしさって言うの?
 相手のいないところで勝手なことは言えないみたいな気遣いを感じるよ」

「綾ちゃんも付き合ってるに一票ね。ハルはどう思う?」

「付き合ってるんじゃないの? 違ってたらきっちり否定しそうだもん。
 かと言ってひけらかすような真似はしないんだと思うよ? 綾ちゃんと同じ印象ね」

「よしっ! これで三対一だよ、八早月ちゃんはどっち?」

 何の勝負をしているのかわからないが、当事者でなくなってエンジンが温まってきた様子の夢路は大分興奮している。例によって美晴からハンカチを渡され口元をぬぐいながら八早月の答えを待っている。

「そうね、私にはどちらとも判断できないと言うのが正直なところ。
 だから本人に聞いてくるわ」

 そう言って立ち上がると、一直線に海へ向かい崖から飛び降りた。
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