【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ

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5話 新たな道

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 魔法帝国軍事学校、医務室。

 模擬弾の直撃を受けたソウタは、医務室のベッドに横たわっていた。左肩には分厚い包帯が巻かれ、鈍い痛みが走る。

 その隣の椅子には、心配そうに彼を見つめるルースの姿があった。

「ルース、大したことないよ。これくらい、かすり傷だ」

 ソウタは、いつものマイペースな口調で言う。内心では、顔を歪めそうになるほどの痛みを必死に堪えていたが、それを表には出さなかった。

 だが、ルースはその言葉を信じてはいなかった。
 彼の顔には、痛々しいほどの心配が浮かんでいる。

「ソウタ様……しかし、私のせいで……本当に申し訳ございません。もし、私がもっと気をつけていれば……」

 無事を確認したあとでさえ、ルースの顔には悔恨が深く刻まれていた。

 その声には、ソウタを庇わせてしまったことへの責任感がにじんでいた。

「だから、君のせいじゃないって。僕が勝手に飛び出しただけだから。大丈夫、心配しないで」

 そう言って、ソウタはルースの頭をポン、と軽く叩いた。
 彼の心は、ルースの好感度が急上昇していることを確かに感じ取っていた。

 このまま看病させるのは合理的だ。そう判断したソウタは、抵抗もせず、ルースに身を委ねる。

 ルースは彼の手を握り、額に手を当て、熱がないかを確かめる。

 その献身的な様子は、「看病」というより、まるで恋人に対する愛情表現のようだった。

 ルースは、ソウタの言葉を聞いてもなお、彼のそばを離れようとしなかった。
 むしろ、看病していられることに喜びすら感じているようだった。

 ⸻

 数日が経ち、ソウタの肩の怪我は順調に回復へ向かっていた。
 だが、医師の診断によれば、完治まではもう少しかかるとのことだった。

「アタッカーの試験が近いのに、これじゃ受けられそうにないな……」

 自室のベッドに仰向けになりながら、ソウタはぼんやりと天井を見上げて呟いた。

 軍事学校では、半年後にそれぞれの専攻を決めるための実力試験がある。

 これまでソウタはアタッカー専攻として訓練を受けてきた。
 だが、彼の心には、ある思いが浮かんでいた。

(正直、僕、アタッカーには向いてないんだよな……僕の真価は、むしろサポーターにある気がするんだよな……)

 彼の中で、確信が芽生えていた。
 情報分析能力、冷静な判断力、それらは、戦場における支援役にこそ相応しい。

(よし。これを機に、サポーターに転向しよう。僕の特性を活かせるし、何より……死ぬ確率も減るはずだ!)

 ソウタはその場で決意を固めた。そして、すぐさま行動に移す。

 彼が向かったのは、軍事学校で最も優秀なサポーターとして知られる、オリオンの部屋だった。


 ノックの音に応じて、中から柔らかな声が聞こえた。

「はい、どうぞ」

 部屋に入ると、オリオンはやや驚いた表情を浮かべた。

「ソウタ君。どうしたんだい? 怪我はもう大丈夫なのかい?」

 彼の気遣う声に、ソウタは少しだけ安堵し、静かに本題を切り出した。

「うん、おかげさまでね。それで、オリオンに頼みがあるんだけど……」

 少し間を置いて、はっきりと言う。

「僕、次の試験でサポーター専攻に転向しようと思ってるんだ。だから、サポーターの勉強を教えてほしいんだ」

 沈黙。
 オリオンは、思わず目を見開いた。

 そして、その顔に浮かんだのは、困惑の色と、微かな苦笑い。

「え、ソウタ君が……サポーターに? アタッカーからの転向って、そんな簡単な道じゃないんだよ?特に、君はこれまでアタッカーとしてずっと訓練してきたわけだし……」

 彼は、優しくもはっきりと、その難しさを指摘した。

 脳裏に浮かぶのは、かつての「勉強嫌いで不真面目」なソウタの姿。

(くそっ、やっぱり……前の黒歴史のせいか!)

 ソウタは、オリオンの反応から、彼の迷いを正確に読み取っていた。

 しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。

 これは、自分の「生存」が懸かっているのだ。

 ソウタは静かにオリオンの目を見つめた。
 その瞳には、いつもの飄々とした表情からは想像もできないほどの真剣さが宿っていた。

「オリオン。僕はね、本気なんだ!確かに、昔の僕はダメだった。勉強も苦手で、アタッカーとしても目立てなかった。だけど……」

 息を吸い込み、言葉を続ける。

「でも、今の僕は違う。この怪我で、アタッカーとしての限界を感じた。僕の能力は、戦場ではサポーターとしてこそ輝く。そう確信してるんだ」

 その声は静かだったが、確かな意志を孕んでいた。

「だから、お願いだ、オリオン。僕にサポーターの基礎を教えてほしい。本気で、サポーターになりたいんだ!」

 深く頭を下げるソウタの姿に、オリオンは心を動かされた。

 あまりにも真摯で、まっすぐな想いだった。
 かつてのソウタとはまるで違う、揺るぎない意志。

(ソウタ君は……本当に、変わったのか……?)

 少しの沈黙のあと、オリオンは静かに微笑んだ。

「分かったよ、ソウタ君。僕にできることなら、何でも教えるよ。一緒に頑張ろう」

 ⸻

 それから、ソウタとオリオンの勉強が始まった。

 当初は半信半疑だったオリオンも、ソウタの集中力と理解力には驚かされた。

 彼の冷静な思考と合理的な判断は、サポーターに必要な複雑な分析を瞬く間に吸収していった。

(ソウタ君は……こんな才能を持っていたのか……)

 その姿を見つめるうち、オリオンの胸の奥には、これまでとは違う感情が芽生え始めていた。

 真剣な表情で座学に打ち込み、難解なシミュレーションを冷静に解いていくソウタ。

 それは、オリオンにとって──誰よりも魅力的で、格好良い姿だった。

 そして今、ソウタは「友人」や「教え子」ではなく、
 一人の人間として、オリオンの心を強く惹きつけ始めていた。

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