【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ

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54話 夜空の輝き

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 日が暮れ、辺りがゆっくりと深い藍色に染まり始める中、帝都の市街地は祭典の後夜祭の柔らかな灯りに包まれ、昼間とは異なる、静かで温かい賑わいを見せていた。

 通りには色とりどりの灯が揺れ、香ばしい食べ物の匂いが風に乗って運ばれてくる。

 ソウタとルースは、人目を避けるようにフードを深く被り、その賑わいの中に溶け込むように並んで露店をゆっくりと見て回っていた。

 ソウタは、所狭しと並べられた色とりどりのお菓子に目を輝かせ、まるで子供のように無邪気にはしゃいだ。

 串に刺さった艶やかな飴細工や、湯気を立てる甘い饅頭、きらきらと輝く砂糖菓子など、見たことのない珍しいものが彼の目を惹きつける。

「ルース!あのお菓子、すごく美味しそうだよ!」

 ソウタは、思わず声を弾ませて、隣を歩くルースの袖を軽く引いた。

 その楽しそうな様子を、ルースは優しい眼差しで見つめていた。

 彼の表情には、普段の皇太子としての厳しさはなく、ただソウタの無邪気な喜びに寄り添うような温かさが宿っている。

「そうだな、一つ買ってみよう」

 ルースは、ソウタの指差す方を見ながら、穏やかに応じた。

「うん!」

 ソウタは嬉しそうに頷き、ルースと一緒にその露店へ駆け寄った。

 甘い香りに誘われるように、彼は迷うことなく、ふんわりとした生地に蜜がたっぷりかかった菓子を選んだ。

 口に運ぶと、とろけるような甘さが広がり、ソウタは満足そうに目を細めた。その表情は、まるで小さな幸福を噛みしめているかのようだった。

 少し歩くと、また別のお菓子を売る露店が目に留まった。

 先ほどとは違う、鮮やかな色合いの、花の形をした菓子に、ソウタは興味を惹かれる。

 彼は立ち止まり、じっとその菓子を見つめていた。ルースはすぐにその視線に気づき、ソウタの顔を覗き込むように問いかけた。

「あの菓子が欲しいのか?」

 ソウタは、少し迷いながら答える。

「気になるけど、さっきも買ったばかりだし……そんなにたくさん食べられないから、また今度買うよ」

 彼の言葉には、遠慮と、少しだけ残念そうな響きが混じっていた。

 ルースは、そんなソウタの遠慮がちな言葉を聞き、微笑んだ。

 彼の心には、ソウタの小さな願いを叶えてあげたいという純粋な気持ちがあった。

「欲しいなら今買おう。残ったら私が全部食べるから」

 ルースは、優しい声でそう言った。

 ルースのさりげない優しさに、ソウタは心の中で感謝の気持ちでいっぱいになった。

 もう一つのお菓子を買い、二人はそれを分け合って食べることにする。

 リスのように口いっぱいに頬張るソウタの姿を見て、ルースはくすくすと笑った。

 その笑い声は、夜の賑わいに溶け込み、二人の間に流れる穏やかな時間を彩った。

 甘いものを堪能しながら、ソウタが周囲をキョロキョロと見渡していると、食べ物ではないものを売っている一軒の露店が目に飛び込んできた。


 そこだけは、他の屋台とは異なる、静かで神秘的な雰囲気を纏っていた。

「あの露店はなんだろう?」

 二人が近づいてみると、そこには様々な形をした木製の笛や、キラキラと七色に光る可愛らしい玩具、精巧な細工が施された小さな装飾品などが所狭しと並んでいた。


 その中で、ひときわ艶やかな黒檀でできた美しい笛がソウタの目に留まった。

 その表面は滑らかに磨き上げられ、月の光を反射して仄かに輝いている。

「これください!」

 ソウタはそう言って、その笛を手に取り、嬉しそうに代金を支払った。

 すぐにでも音を奏でたいと思ったソウタは、笛を口に当てて吹いてみようとするが、なかなか上手く音が出ない。

 フー、フーと息を吹き込むたびに、空気が漏れるような音しかせず、美しい旋律は生まれない。

 顔を赤くして何度も挑戦するソウタを見て、ルースは微笑んだ。

「ここよりもっと静かなところに行こう」

 ルースはそう言って、ソウタの手を優しく握り、賑やかな街の喧騒から離れた、少し小高い丘へとソウタを導いた。



 日が暮れてもなお、帝都は後夜祭の華やかな光に包まれていたが、高台の周りは静寂に包まれ、月明かりだけが優しく地面を照らしていた。

 しかし、その頂まで登ってみると、遠くの街の灯りがきらめき、まるで宝石をちりばめたように美しかった。

「綺麗だね」

 ソウタは、その幻想的な景色に見入って呟いた。

「ソウタ、さっきの笛を貸してくれないか?」

 ルースの言葉に、ソウタはすぐに手の中の笛を差し出した。

 ルースは、その笛を口元に寄せると、信じられないほど美しい音色を奏で始めた。

 それは、静かな夜の空気に吸い込まれるように響き渡り、ソウタはただその演奏に耳を傾けた。

 音色は、あまりにも澄んでいて、同時にどこか物悲しい響きも帯びていた。

 ソウタの胸は、その調べに締め付けられるように苦しくなる。

 ルースが吹き終えると、ソウタは心の底から称賛の言葉を贈った。

「ルース、すごく上手だね!」

 ルースは照れたように微笑んだ。

「子供の頃、よく吹いていたんだ。父上が好きな曲だと聞いたから」

 そう言って、彼はどこか懐かしげに、そして嬉しそうに目を細めた。

「だんだん吹かなくなったけど、まだ覚えていてよかった」

 月明かりの下で笑うルースの姿が、ソウタの目に焼き付いた。

 ソウタは、本当にカッコイイな……と心の中でそっと呟いた。


 その時、ドォン!と大きな音がして、空に巨大な花火が上がった。

 ソウタは驚きの声をあげ、そして一瞬で目を輝かせた。

「花火だ……!」

 ルースも、この花火は知らなかったようで、驚いた表情を浮かべた。

 しかし、隣で目を輝かせているソウタの姿を見て、穏やかな笑みを浮かべる。

「ソウタ、楽しいか?」

「楽しい!ルースと一緒に見れて嬉しいよ!」

 ソウタは、満面の笑みで答えた。

 ルースはその言葉に満足そうに微笑むと、自然とソウタの肩に頭を乗せた。

 二人で夜空に咲き乱れる花火を見上げた。


 少し離れた木の上で、レオ・ロウとユノ・セリウスは、二人の護衛にあたっていた。

「ユノ、花火なんて予定にあったか?」

 レオ・ロウが尋ねると、ユノ・セリウスは静かに答えた。

「皇弟様が、急遽要請されたそうです。甥への遅れた誕生日プレゼントだとか」

「粋なことをされる方だ」

 レオ・ロウは明るく笑った。

 ユノ・セリウスも「全くですね」と楽しそうに笑い、夜空を彩る花火と、その光の下で寄り添い合うルースとソウタを、優しく見つめていた。


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