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1-3.もふもふダンジョンの作り方〈公開前3日目〉
28.フェンリルと狼族獣人
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アリーの姿に気づいたのか、リルの視線が向く。なんとなく困惑した雰囲気が感じられた。
『あ、アリー。マスターも見てる? これ、何が起きたのかな?』
「それを聞きたいのは俺なんだよなぁ」
リルはちゃんとコネクトを持って行ってたようなので、話しかける。リルがホッとした様子で尻尾を揺らした。
『僕、この魔物を捕まえただけなんだよ。それなのに、通りがかった獣人たちが、いきなり倒れたの』
「倒れたというか、拝んでない?」
両手の指を組んで、頭を下げている獣人たちの姿を、俺は改めて観察した。
獣人たちの全身から、リルへの畏れと敬いの念が伝わってくる。
「――まさか、狼族獣人にとって、神狼って特別な存在だったりする?」
ふと浮かんできた可能性に、頬が引き攣るのを感じた。
神狼は神の狼と書く。つまり、狼族獣人にとって信仰する対象である可能性は十分あった。
神狼が魔物であることは、その可能性を否定する理由にならない。古竜さえ、大いなる脅威であることから、神と同等に扱われている場所があるそうだから。
狼族獣人たちが暮らすピエモは、イリア国の神殿が奉じる神を信仰していない。神殿の影響力が及ばないくらい、辺鄙な地域だからだ。それゆえ、種族ごとに信仰する神が違うらしい。
ピエモにある多くの人間の街は、傍にある山自体を神と捉えて信仰しているそうだ。エルフなどは、山の中にある大木を主神として崇めている。
獣人の街での信仰については、まだ調査ができていなかったのだが――
「あー……獣人たちに話を聞けるか?」
『僕は獣人と話をできないよ』
「そうだったな」
魔物の中で人と話ができるのは、操人形などの人型の魔物に限定される。あまり種類は多くない。
でも、今リルの傍には適任がいた。
「アリー、頼めるか?」
『ええ。でも、わたくしは操人形ほど上手くないわよ?』
「構わない。話ができればいいから。リルの代弁者みたいな雰囲気で話を聞いてみてくれ」
『わかったわ』
アリーの視界が動く。
闇妖精であるアリーは、テレパス的な能力で人間種と意思疎通できるのだ。
リルの顔の横辺りに浮かんだアリーは、獣人たちを見下ろして問いかける。
『ジュウジン、ナゼ、ヒレフス?』
思った以上に片言! 意味は伝わるからいいけどさ。ちょっと、神託っぽい厳かな雰囲気も感じるし。
狼族獣人たちがビクッと体を震わせた後、恐る恐る顔を上げる。
集団の一番前にいたのは、先ほどの話し合いで中心にいた女性の獣人だった。その女性がアリーとリルの間で視線を移ろわせた後、口を開く。
[……私どもは、狼族獣人でございます。遠き祖先の種族である神狼様を、神として崇めているのです。それゆえ、神狼様の御威光を感じ、拝服せずにはおられません]
予想が当たったー! 全然嬉しくない。
神狼が狼族獣人の神かぁ。でも、獣人の祖先が魔物って、本当なの? 俺がもらった知識には、そんな情報一切ない。
まぁ、本人たちが勝手にそう思う分には自由だけど。
『狼族獣人は、僕の末裔だった……?』
リルが衝撃を受けた様子で固まっている。
でも、気づいてほしい。神狼という種族が狼族獣人の祖先の可能性はあるけど、リルと狼族獣人の間に血の繋がりはまったくない。リルはダンジョン能力で生まれた魔物だから。
「リル、変な庇護欲とかは感じなくていいからな」
『あ、そう?』
念の為に注意してみたら、あっさりと受け入れられた。
リル、雰囲気に流されるところあるよな。俺が言えば、すぐにわかってくれるけど。
『マスター、これからどうする?』
アリーが改めて俺に問いかけてくる。
その質問に、俺は「うーん」と悩むしかなかった。
狼族獣人が神狼を信奉しているなら、ここでリルと会ったことは大きな問題にならない可能性が高い。誰にも知らせるな、と頼めば、狼族獣人たちは即座に頷いてくれそうな雰囲気がある。
そうなると、より良い結果を欲しくなるわけで――
「人間側の事情を詳しく知りたいな。イリア国のこととか。エンドのことについても、認識をすり合わせておきたい」
俺は言いながらウンウンと頷いた。我ながら、良い提案だ。
『わたくしが、それを彼らに聞くの? 正直、難しい内容の意思疎通は上手くできる自信がないわ』
アリーが困った様子で言う。
確かに、先ほどの片言での問いかけを考えたら、アリーの心配は当然だろう。
少し考えた後、俺は心を決めた。
「俺が話そう」
『あら、いいの?』
『ええ!? マスター、大丈夫?』
アリーとリルがすぐに心配してくれた。
現地の人と話すことにはリスクがある。俺が倒されてしまったら、ダンジョンもそこで暮らす魔物たちも、すべて消えてしまうことになるのだから。
おそらく、狼族獣人たちの信奉対象であるリルがいれば、そのような事態が起きる可能性は低いだろうし、万が一起きた場合でもリルとエンドが狼族獣人たちを倒すのは容易だろう。
もちろん、そうなることを未然に防ぐ準備はしておくけど。
「大丈夫。良い魔物がいるんだ」
タブレットで検索し、表示させた魔物を見て微笑む。
そして、不思議そうなリルたちに対して、指示を出した。
「――彼らをダンジョンに案内してくれ」
さて、どんな話し合いができるだろう。
有益な情報をもらえればいいんだけど。
『あ、アリー。マスターも見てる? これ、何が起きたのかな?』
「それを聞きたいのは俺なんだよなぁ」
リルはちゃんとコネクトを持って行ってたようなので、話しかける。リルがホッとした様子で尻尾を揺らした。
『僕、この魔物を捕まえただけなんだよ。それなのに、通りがかった獣人たちが、いきなり倒れたの』
「倒れたというか、拝んでない?」
両手の指を組んで、頭を下げている獣人たちの姿を、俺は改めて観察した。
獣人たちの全身から、リルへの畏れと敬いの念が伝わってくる。
「――まさか、狼族獣人にとって、神狼って特別な存在だったりする?」
ふと浮かんできた可能性に、頬が引き攣るのを感じた。
神狼は神の狼と書く。つまり、狼族獣人にとって信仰する対象である可能性は十分あった。
神狼が魔物であることは、その可能性を否定する理由にならない。古竜さえ、大いなる脅威であることから、神と同等に扱われている場所があるそうだから。
狼族獣人たちが暮らすピエモは、イリア国の神殿が奉じる神を信仰していない。神殿の影響力が及ばないくらい、辺鄙な地域だからだ。それゆえ、種族ごとに信仰する神が違うらしい。
ピエモにある多くの人間の街は、傍にある山自体を神と捉えて信仰しているそうだ。エルフなどは、山の中にある大木を主神として崇めている。
獣人の街での信仰については、まだ調査ができていなかったのだが――
「あー……獣人たちに話を聞けるか?」
『僕は獣人と話をできないよ』
「そうだったな」
魔物の中で人と話ができるのは、操人形などの人型の魔物に限定される。あまり種類は多くない。
でも、今リルの傍には適任がいた。
「アリー、頼めるか?」
『ええ。でも、わたくしは操人形ほど上手くないわよ?』
「構わない。話ができればいいから。リルの代弁者みたいな雰囲気で話を聞いてみてくれ」
『わかったわ』
アリーの視界が動く。
闇妖精であるアリーは、テレパス的な能力で人間種と意思疎通できるのだ。
リルの顔の横辺りに浮かんだアリーは、獣人たちを見下ろして問いかける。
『ジュウジン、ナゼ、ヒレフス?』
思った以上に片言! 意味は伝わるからいいけどさ。ちょっと、神託っぽい厳かな雰囲気も感じるし。
狼族獣人たちがビクッと体を震わせた後、恐る恐る顔を上げる。
集団の一番前にいたのは、先ほどの話し合いで中心にいた女性の獣人だった。その女性がアリーとリルの間で視線を移ろわせた後、口を開く。
[……私どもは、狼族獣人でございます。遠き祖先の種族である神狼様を、神として崇めているのです。それゆえ、神狼様の御威光を感じ、拝服せずにはおられません]
予想が当たったー! 全然嬉しくない。
神狼が狼族獣人の神かぁ。でも、獣人の祖先が魔物って、本当なの? 俺がもらった知識には、そんな情報一切ない。
まぁ、本人たちが勝手にそう思う分には自由だけど。
『狼族獣人は、僕の末裔だった……?』
リルが衝撃を受けた様子で固まっている。
でも、気づいてほしい。神狼という種族が狼族獣人の祖先の可能性はあるけど、リルと狼族獣人の間に血の繋がりはまったくない。リルはダンジョン能力で生まれた魔物だから。
「リル、変な庇護欲とかは感じなくていいからな」
『あ、そう?』
念の為に注意してみたら、あっさりと受け入れられた。
リル、雰囲気に流されるところあるよな。俺が言えば、すぐにわかってくれるけど。
『マスター、これからどうする?』
アリーが改めて俺に問いかけてくる。
その質問に、俺は「うーん」と悩むしかなかった。
狼族獣人が神狼を信奉しているなら、ここでリルと会ったことは大きな問題にならない可能性が高い。誰にも知らせるな、と頼めば、狼族獣人たちは即座に頷いてくれそうな雰囲気がある。
そうなると、より良い結果を欲しくなるわけで――
「人間側の事情を詳しく知りたいな。イリア国のこととか。エンドのことについても、認識をすり合わせておきたい」
俺は言いながらウンウンと頷いた。我ながら、良い提案だ。
『わたくしが、それを彼らに聞くの? 正直、難しい内容の意思疎通は上手くできる自信がないわ』
アリーが困った様子で言う。
確かに、先ほどの片言での問いかけを考えたら、アリーの心配は当然だろう。
少し考えた後、俺は心を決めた。
「俺が話そう」
『あら、いいの?』
『ええ!? マスター、大丈夫?』
アリーとリルがすぐに心配してくれた。
現地の人と話すことにはリスクがある。俺が倒されてしまったら、ダンジョンもそこで暮らす魔物たちも、すべて消えてしまうことになるのだから。
おそらく、狼族獣人たちの信奉対象であるリルがいれば、そのような事態が起きる可能性は低いだろうし、万が一起きた場合でもリルとエンドが狼族獣人たちを倒すのは容易だろう。
もちろん、そうなることを未然に防ぐ準備はしておくけど。
「大丈夫。良い魔物がいるんだ」
タブレットで検索し、表示させた魔物を見て微笑む。
そして、不思議そうなリルたちに対して、指示を出した。
「――彼らをダンジョンに案内してくれ」
さて、どんな話し合いができるだろう。
有益な情報をもらえればいいんだけど。
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