二人は互いに『王族』である事を隠している

駄作プロ

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二人の生活は脅かされそうになっている 後編

三十四話

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 そんな出来事が城で起きた日のお昼前。

 それはロレンスとクルシナが、泊めてもらっているカラカスの教会のシスター、アンナから告げられた一言から始まった。

 「あの、先程、信者の女性がいらっしゃったのですが、何でも国から7日以上、国にいる男性は徴兵されるそうですよ……」
 「もがっ!?」

 ハムスターの様に食事を頬張るクルシナは驚き、そしてそれを喉に詰まらせ水を飲みに行った。
 そんなクルシナとは対照的にゆっくり食べていたロレンスは、冷静にシスターアンナに事情を尋ねるのであった。

 「どう言う事ですか?」
 「私にも何だか……。 ただこれは、私個人の意見ですが、単純に兵力を整える為の徴兵ではないかと……」
 「なるほど……」

 テーブルに座りそう告げたシスターアンナの言葉にロレンスは。

 (やはりそうか……)

 顔をコクリコクリと動かしシスターアンナに納得する仕草を見せる。
 だが、そんなロレンスの袖を引っ張り、目を輝かせるクルシナは明るくこう告げたのだ。

 「これは私の出番よね! クルシナお姉さんが問題をバッチリ解決する出番よね!」

 それは実にウキウキ気分なのが伝わる表情。

 「ん? 何で私の耳を塞ぐの?」

 だが、そんなクルシナの耳に指を突っ込んだ後、二人が話し始めた内容は半分冗談でありながら半分本気であった。

 「あの、呪いを他国にまで振り撒くの、止めてくれませんか?」
 「流行り病と思って諦めてくれませんか?」
 「ねぇねぇロレンス君、何で私の耳を塞ぐの?」
 「流行り病の感覚で呪いを振り撒かれては困りますよ、病は薬で対処するものですが、呪いは簡単に対処出来ないんですから……。 だからお願いしますロレンス神父、リンドブルムに呪いを封印して下さい」
 「そう出来れば苦労しないですよ、シスターアンナ……」
 「ねぇ、何か不安になるから耳から指を抜いてくれない?」

 だが二人が半分本気なのは、それほどミーナの呪いの影響がある事を表しているのではないだろうか?
 だからきっと、首を左に向けるロレンスとテーブルに前のめり気味に座るシスターアンナの表情が真剣なのは、そう言う事なのだろう。

 だが二人はふと忘れていた。

 「なるほど分かったわ! 二人とも、今回は戦争を終わらせる大仕事をするから不安な訳ね! でも大丈夫、三人なら出来るから!」
 ((えっ……))

 その呪いの言葉を二人は聞いてしまっていた事を……。

 …………

 (うむ……)

 時刻は昼を過ぎ、日差しが城内へ綺麗に降り注いでいる。
 そんな城内の芝生の上、個々の技量を知る為行われた模擬戦を見て、ワグナーが感じたのは自分の考えの甘さであった。

 「兄上、腕を上げたでありますな!」
 「アレクこそ相変わらず強いな!」

 広場の右前を見れば、目に見えない速さで剣をぶつけ合い、激しい風圧を飛ばすアレクとエドガーの姿があり。

 「うわっ!? 店長卑怯だぞ、空中から攻撃するなんて!?」
 「消えたりするお前に言われたくないんだよなぁ……」

 広場の左手を見れば、ショーモトがふわふわ浮きながら魔法の炎や雷を落とし、それを幻影や透明化で回避しつつ、素手の接近戦に持ち込もうとするアルタイルの姿がある。

 「うぉぉぉぉ!?」
 「そりゃっ!?」

 そしてそれ以外の方向にも、7日以上滞在という条件もあって、腕の良いギルドの傭兵もそこそこ紛れ込んでいる。
 その為、全体的に個々の戦闘力のレベルはなかなかに高い事が分かる。

 ただ、そんなギルドの傭兵が混じっている事にはワグナーも気づいてはいたし、エドガー達の異様さにも気づいてはいた。
 だからこそワグナーはこう思うのである。

 (……何で徴兵に応じたのだ、この街にいる傭兵達は……)

 それはこの世界の常識から考えればそう考えてしまうのも当然であった。

 と言うのも、この世界の徴兵と言うのは。

 《食事は出すが金を出さない》
 《武器は自由だが徴兵は拒否できない》

 と言う理不尽なものだ。
 だから本来、この様な徴兵は傭兵達とってあまりよろしい話ではなく、大概はそれを無視して逃亡、もしくは力づくの抵抗に出るのが当たり前である。

 なにより徴兵出来たとしても、自身の強さに似合わない報酬によって士気は低くなるハズなのだが、不思議な事に目の前の傭兵達の士気自体は悪くはない、むしろ高い方へ傾いている。

 (もしや、愛国心からなのか……)

 だからワグナーは、その様な結論を想像し、申し訳がない気持ちになっていき、遂には。

 (すまん……。 命懸けの愚行に付き合わせてしまって……)

 眉間にシワを寄せ、瞑った目元から、一滴の涙を垂らす。
 命をかけた愚行に付き合わせる事を悔いて……。

 ただ彼は気づかなかったのだ。

 (おっ、何かお偉いさんが嬉し泣きしているみたいだな!)
 (いやーカラカラって国が困っている様子なのに、黙っていられないからな!)
 (しかし、メルシス教徒で良かった! そうでなければ、喜ばせる幸福を覚える事なんて味わえなかっただろうからな!)

 カラカスにいる傭兵達は、予想以上にメルシス教の信者である事に……。
 
 …………。

 夕方になろうとしている日差しは、まだ昼の暖かさを十分に残している。

 そんな昼下がり、大人達には戦争の暗い雰囲気が蔓延しているが、だからと言って子供にその暗い雰囲気が蔓延しているとは限らないものだ。

 だからこそレッカーやレイチェルを含む子供達は。

 「僕の正義の剣を受けてみろ!」
 「レイチェル、魔法でレッカーを支援するもん!」
 「ふははは、帝国軍、突撃だ!」
 「悪の力をとくと見よ!」

 戦争の空気を自分達が持つ夢の具現化に利用し、側からみれば可愛らしい戦争ごっこを繰り広げている。

 そしてその可愛らしい争いを行う中、レイチェルとレッカーは、可愛らしい帝国軍から攻撃され、自宅付近まで一時撤退してきたのだが。

 「「「あっ……」」」

 リアナ宅の玄関にて、リアナの足を引っ張るミーナと二人の目が合った時、三人は声を合わせる様にそう声を上げ、僅かな沈黙が三人を覆う。

 《チュンチュンッ!》

 そして、鳥の囀りが何度か響いたのち、レッカーはミーナに向け声を上げた。

 「お姉ちゃんがお姉ちゃんを殺した!」
 「違います!」

 勿論、ミーナはリアナを殺した訳ではない。
 腹の音が鳴ったリアナにパンを食べさせようとネルブの店に連れて行こうとしていただけなのである。

 だが、パンを食べさせるのであれば、買って戻ってくるだけで良い話であり、わざわざリアナを連れて行く必要性はないハズである、その為。

 「リアナが空腹なんです! だからネルブさんの所でパンを食べさせないと!?」
 「お姉ちゃん、パンを食べさせるのなら買って帰れば良いと思うけど……」
 「僕もレイチェルと同意見なんだけど……」

 呆れた子供達の視線がミーナに突き刺さる結果を生んでしまった。

 「あっそうですね……」

 そして、そんな二人に対し『あっそう言われればそうだ……』っと言わんばかりのミーナの表情は、より間抜けな雰囲気を強調しているかの様である。
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