明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

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時限爆弾ケーキ

夜へカウントダウン/2

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 孔明の指先は漆黒の長い髪をすっとすいてきて、

「あれ~? ボクの爪を見る仕草って、これだったんだけど……」

 手のひらをこっちへ向けると、銅色の懐中時計が手に握られていた。何度かしていた。もちろん、策士は一人ではない。月命のおどけた声が入ってきた。

「おや~? 僕のこめかみに人差し指を突き立てる仕草は、こちらです~」

 やっていた。困った時に特に。手首がこっちに向くと、桜色のベルトをつけた腕時計が顔を見せた。

 焉貴のはだけたシャツの前にある、何重ものチェーンが手ですくい上げられ、

「俺のネックレスも飾りじゃないの~」

 その中のひとつは、時計のヘッドだった。当然、優雅な王子夫も策略家だ。

「私の思考時のあごに当てる指は、こちらです」

 くすくす笑っていた唇から手を離し、裏を返すと、鈴色の懐中時計があった。

「時計……。どうして、焉貴さんも月さんも、孔明さんも持ってるんですか?」

 まだまだ、策士である夫たちの思考回路を理解していない妻だった。光命が遊線が螺旋を描く優雅な声で、おバカな妻に問いかけた。

「教えてほしいのですか?」
「あぁ、はい。お願いします」

 素直にうなずく颯茄。テーブルの端に座っていた、明引呼は口の端をニヤリとさせた。

「ふっ! またはまりやがって」
「こうして、お姫さまは、優雅な王子さまに舞踏会へ連れ去れちゃいました」

 貴増参がにっこり微笑むのを、不思議そうな顔で、颯茄は見つめたが、

「え……?」

 光命の言葉はこれだった。

「それでは、教えて差し上げますから、私も入れてください」

 孔明と同じ手口。

「はい! じゃあ、光が入って、8P」

 ――焉貴と独健と月命と夕霧命と蓮と孔明と光命と自分。

 策略的に11Pに近づいてゆく。妻は顔を両手で覆って、テーブルの上に突っ伏した。

「いや~! 交換条件の罠で、また増えてる!」

 貴増参の羽布団みたいな柔らかな声色なのに、中身は妻の望んでいないものだった。

「それでは、僕が仕上げの魔法をかけちゃいましょう。今夜もみんなでニャンニャンです」
「結局これってか」

 明引呼のしゃがれた声が、ふっと笑うと、焉貴が右手をパッと斜めに上げ、ハイテンションで叫ぶ。

「はい! じゃあ、アッキーと貴が入って、10P!」

 さっきから黙ってみていた張飛に、妻はまたすがるような瞳を向けた。

「入るんですか~?」
「みんな仲よくが法律っすからね。当然っす」
「はい! じゃあ、張飛が入って、11P! 終了です!」

 焉貴が綺麗にしめくくると、妻は椅子の上でジタバタ暴れ出した。

「いや~、そう言う意味じゃないと思う~、その法律は~~!」

 と言ってはみたものの、妻は平常心を取り戻して、大きく納得する。

「いや、それも入っているのか。陛下様様~!」

 大理石の上で椅子が夫たちそれぞれの後ろへ、ガタガタと引かれ始めた。

「僕の名前は貴増参です。省略しないで呼んでくださいね♪」

 夫の口癖を聞きながら、妻だけを置いて、次々と撤退を始める夫たち。

「はあ……」

 妻はため息しか出てこなかった。独健の鼻声が颯茄を間にして、頭上で舞うと、

「蓮、頼む」
「ん」

 俺さまの短いうなずきが起き、テーブルの上は、食事をする前に一気に戻った。

 どこまでもずれているクルミ色の瞳は、生クリームも茶器もなくなった、テーブルクロスの白を眺めながら、力なく両手は膝の上に落ちた。

「あぁ~。蓮の魔法で、綺麗に後片付け……」
「お前、ピンヒール履くの?」
「サイズがあるのなら、履きますよ~」

 焉貴の質問に、月命が答えながら、どんどん瞬間移動で、食堂から消えてゆく。そんな中で、冷静な水色の瞳と無感情、無動のはしばみ色のそれは一直線に交わってしまった。

「夕霧……」
「光……」

 一度消えかかっていた明引呼が再び戻ってきて、男は背中で語れ的に、光命と夕霧命に忠告した。

「てめぇら、ここでおっぱじめんなって。フライングしすぎだろ」

 孔明が後ろ手に首をかしげると、長い漆黒の髪がさらっと肩から落ちた。

「颯ちゃん、ボクたちのデジタル思考回路を解説するの忘れちゃったから、罠にはまっちゃったのかも~?」
「はぁ~……問題はあと回しにしてはいけませんって、よく言う。今日の反省点だ……」

 颯茄が見上げると同時に、聡明な瑠璃紺色の瞳はすっと消え去った。一人きりになった食堂で、妻は妄想世界に飛び、乙女軍という戦士になり、いつの間にか戦地に立っていた。

 頭には決意のあかしの赤いハチマキが巻かれていたが、荒野を駆け抜けてくる突風に連れていかれ、どこかへ飛び去った。打ち砕かれた熱意を表すように。

 斜めがけしたライフル銃を背中に背負い、惨敗という現実を受け止めるしかなかった。敵軍の兵士はもうどこにもいないのである。

「こうして、私は十対一という、夫たちと妻の戦いに敗れたのだった。文字通りはめられた・・・・・のである。いや、ここからもはめられる・・・・・ので――」

 さりげなくまだ一人残っていた敵兵――張飛が背中をとんと優しく叩いて、颯茄を励ました。

「今日は、あの甘いケーキみたいに、いつもよりももっと優しい夜になるっすよ」
「ありがとうございます」

 妻がのんびり頭を下げると、瞬間移動で消え去った。そして、ドアの向こうから、遊線が螺旋を描く優雅で芯のある声が響く。

「颯、お風呂に入りますよ」

 現実へ戻って、颯茄はニコッと微笑んで、

「は~い、光さ~ん!」

 椅子からさっと立ち上がり、ウッキウキで大理石の上をドアへ向かって歩いてゆく。

「お子さまは寝る時間で~す!」

 パチンと電気のスイッチが押されると、明智家の食堂は真っ暗になった――――
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