明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

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リレーするキスのパズルピース

愛妻弁当とチェックメイト/1

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 どこまでも高く突き抜けてゆくようで、人々を魅了してやまない青――。聖水より透明で、どんな絵具でも描き切れない晴れ渡った碧空へきくう

 時折混じる小さな淡いピンク――。粉雪のようにハラハラと舞う、恥ずかしそうに頬を染めたような桜の花びら。春風という輪舞曲ロンドで戯れる。

 新緑の香り漂う柔らかな美しい日差しの中で、はつらつとしているが少し鼻にかかる男の声が、さっきから元気にはじけていた。

「こちらは、ディーバ ラスティン サンディルガー、コンサート会場となります。大会へお越しの方はさらに奥に進んでいただくようお願いします!」

 高貴の色を表す紫――。それを基調にした金糸の刺繍ししゅうと袖口の白が洗練されたデザインを誇るマント。

 その向こうでさっきからずっと、どよめきが起き続けていた。それは歓喜や驚き、感嘆と言ったありとあらゆる人々の歓声だった。

 次々に訪れる人々は、遠くにあるメインアリーナへと吸い込まれてゆく。すぐ手前で別の男の声が響いた。

「周辺の地図ってありますか?」
「ありますよ。はい、こちらです。どうぞ」

 さわやかに微笑んだ男の手荷物は何もないはずなのに、縦長のパンフレットが手のひらに現れ、丁寧に差し出すと、話しかけてきた若い男は頭を軽く下げ、

「ありがとうございます」

 そう言い残すと、人の流れに乗った。その両脇で、神業的な配置で貼られているポスターたち。

 針のような繊細な輝きを放つ、銀色の長い前髪。その奥に潜む、人を強く惹きつけてやまない鋭利なスミレ色の瞳。人々を魅了してやまない、天使のような綺麗な顔を持つ男が、アーティスト目線でこっちを見ている。ディーバ ラスティン サンディルガーと金色の文字で、光り輝く五線譜のように印字されていた。

 ふと足を止めて食い入るように、さっきからポスターを眺めていた女が、それに釘付けされたまま、よそ見をしながら男のそばへやってきた。

「あのぅ、ここは何時から始まるんですか?」
「十六時に開場で、コンサートは十八時から始まります」

 男の襟元には、鮮やかで明るいはっきりとした水色――ターコイズブルー。細いリボンが国家機関――聖獣隊という職務で揺れ動いた。マントの紫色を際立たせながら、運命の恋人みたいに馴染むようなターコイズブルー。

 それにも負けず劣らず、男の顔立ちはとても整っていて、綺麗なカーブを描く頬に、若々しいハリのある肌。スポーツやアウトドアを好むような、少し日に焼けた元気がトレドマークの美青年だった。

 ポスターを横目で見ながら、女は少しあきれ気味にため息をついた。こんなに自分を夢中にさせるアーティストだ、完売しているに決まっている。それでもと淡い期待を抱いて、

「もう……チケットは余ってないですよね?」
「何名分ですか?」

 聞き返した男の足元は、細身の白いズボンに、膝までの黒いロングブーツ。靴底の下は不思議なことに、頭上と何ら変わりのない空――が広がっていた。

 時折風に乗せられた雲が人々の下を気ままに空中遊泳してゆく。

「できれば、三人分ほしいんですが……」
「今調べますから、ちょっと待ってください」

 白の上下服を着ることを義務付けられている男の髪は、はつらつさを表すひまわり色をした短髪。そこにかけられた、近未来のSFで登場しそうなスコープを、瞳のすぐ前で確認する。

 コンサート会場の警備が今日の仕事。共有データの全てはスコープに映し出される。自身が見たいと望めば何の操作もせずに、情報は青く透明な画面に円グラフや文字列で姿を表す。

(空いてない……)

 落胆を表情には出さず、男の純粋な優しさのにじみ出た若草色の瞳は、近くにあったポスターの鋭利なスミレ色の瞳と銀のサラサラとした髪をじっと捉えた。

(さすがだな、あいつの人気。あっちに聞いてみるか?)

 胸元のポケットへ、白い手袋をした手を入れ、携帯電話を取り出した。隊内への連絡なら、スコープに内蔵されている意識化でつながる無線機でどうにかなる。

 しかし、今日はコンサートスタッフと国家機関の治安維持を行う部隊、そのふたつの職業が合同で仕事をこなす日。

 事前の打ち合わせで登録してあった番号が、思い浮かべただけで勝手にダイヤルされて、通話がゴーサインになった。ひまわり色の短髪の下にある耳に携帯電話は押し当てられ、呼び出し音が聞こえてくる。

 他機関。お互いに普段は関わり合いがない。待つかと思いきや、相手はすぐに出た。

「あぁ、すみません。三名ほど空きって作れますか? ご要望のお客様がいらっしゃるんですが……」

 世界はとても広くて、まさかこんな綺麗な顔をしたアーティストが世の中にいるとは思いもよらず、チケットを買い求めようとする女は残っていてほしいと願うと、どうしても両手を強く握ってしまうのだった。

「ステージの左端にならできますが、そこでよければ……」

 電話の向こうから聞こえてくる気さくな男の声は女には聞こえず、紫のマントは春風であおられ、国家の威厳という名で堂々たる態度でひるがえった。

「ちょっと確認します」
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