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リレーするキスのパズルピース
愛妻弁当とチェックメイト/6
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「卵はウリディア産でふたつの太陽の光を存分に浴びて育った木の中でも選び抜かれたものから摘みさらに厳しい審査を通った一級品です小豆ですがこちらも北斗星の広大な大地の中でのびのびと育てられたものの最高級品を使っています砂糖は皇室御用達のものと同じものを使用し熟練した職人が匠の技で焼き上げたものなんです」
句読点が無視された言葉の羅列。息継ぎひとつなく綺麗に言ってのけた貴増参だった。
穏やかで平和な公園で、男ふたりの動きはぴたりと止まり、二、三秒経過――。それでもまったく動かなかった独健と貴増参。その間に、はるか背後にある多目的大ホールからリハーサル中の男の歌声だけが、ただただBGMのように風に乗せられて聞こえていた。
独健の少し鼻にかかった声がふたりの沈黙を破った。
「……終わったか?」
大そう満足という感じで、貴増参はのんびりとうなずく。
「えぇ、僕の散弾銃トークは今ので全て終了です」
四方八方へ銃弾が飛ぶ武器の名前がいきなり出てきた。結婚指輪をした独健の手が素早く上がり、念を押すように横に激しく揺れる。
「いやいや、最後の締めくくりでまたボケてきてるだろう! そこは、マシンガントーク……」
未だ手をつけていない愛妻弁当の重みを膝で感じて、ボケとツッコミだけで昼休みを終了させないように、独健は言葉の途中でため息をついた。
「はぁ~、まあいいや。で、数はいくつだったんだ?」
待っていましたと言わんばかりに、身を乗り出した貴増参の足元では、真っ白な雲が風に流され遠のいていった。
「よく聞いてくれました。驚いちゃいますよ。限定五個です」
別の意味で驚く。店の儲けを度外視した、極端に少ない数字。
独健の前で制服を着て、自分も昼休みだと言っていた貴増参。店が開店する前に出勤しているはずだ。当然の矛盾点と心配事が、独健から向けられた。
「それじゃ、早朝から並ばないと買えないだろう。お前、仕事はどうしたんだ? 隣の施設で大会の警備だろう? しかも今日、初日だから抜けられないだろう」
「とある方に頼んじゃいました」
やけに意味深な言い方――。
柔らかな毛布で包み込むような低い声の持ち主の罠が、実は水面下で進んでいるとは知らず、独健は噴水の落ちてゆく水の煌めきを、若草色の瞳にぼうっと映した。
「同僚じゃないよな……? 今日は聖輝隊は総動員だろう? 友達にか?」
クイズ番組みたいな音が、貴増参の低い声で再現される。
「ブブー、不正解です」
範囲は絞られた。深緑のマントの影になって今は見えない、貴増参の結婚指輪を思い浮かべながら、独健は記憶という残像から拾い上げようとした。
「あと、誰がいた……?」
苦戦している独健の隣で、対する貴増参は余裕でこんなことを言う。
「彼にです」
「いや、だから男は全員彼になるんだから、いっぱいいるだろう」
真正面を見つめたままで考え続ける独健の中に、該当するであろう男が次々に出てくるが、どれも決め手にかけた。迷宮入りしてしまいそうな独健の横顔に、貴増参は少し前倒しで問いかける。
「ヒントがほしいですか?」
「まあ、そうだな」
順調に進んでいるように思えた会話だったが、ここで崩壊した。
「それでは、僕の心に鍵をかけて秘密にしちゃいます」
さっきから全然食べられないお弁当を膝の上に乗せたまま、独健はオーバーリアクションで突っ込もうとしたが、
「いやいや、前振りしておいて意味不明だろう! それ――」
「鍵を開けたいのなら、先ほどのことをしましょうか?」
途中でさえぎった貴増参の雰囲気はさっきとは打って変わって、男の香りが思いっきりするものになっていた。
最初にふられたキスの話に結局戻ってきてしまい、独健は負けずに猛抗議するつもりだった。
「だ~か~ら~! そういう趣味はない――」
無防備に膝の上に乗せられていた左手を、貴増参の結婚指輪をした手につかまれ、ふたつの契約という名のリングが昼間の公園でぶつかった。
そして、貴増参から告げられる。
「瞬間移動です」
ふたりはぱっと切り取ったみたいにベンチの上からいなくなった。独健の膝の上に乗っていたお弁当箱は、持ち主の足がなくなったことによって、椅子の上にゴトっという音を立てて落ちた。
*
一瞬のブラックアウトと静音のあと、さっきまで遠くで聞こえていたリハーサルの歌声がすぐ近くになっていた。
風が頬を切る音が響き、思わず閉じていたまぶたを開けると、桜の花びらが青空を背景にした、木々の緑の前を横切ってゆくが、日向ではなく日陰だった。
「うわっ! お前、いきなりどこに連れてきたんだ!」
独健が仕事をしていた場所とは違うが、多目的大ホールのそばであることは間違いない。R&Bという音楽の響きの大きさからして。
落ち着きなくキョロキョロしている独健とは対照的に、落ち着いている貴増参は少しグレた感じ――本人だけが凄みがあると思っている表情をした。
「放課後、コンサート会場の裏にきな! 作戦です」
軽い罠が張られていた――。
句読点が無視された言葉の羅列。息継ぎひとつなく綺麗に言ってのけた貴増参だった。
穏やかで平和な公園で、男ふたりの動きはぴたりと止まり、二、三秒経過――。それでもまったく動かなかった独健と貴増参。その間に、はるか背後にある多目的大ホールからリハーサル中の男の歌声だけが、ただただBGMのように風に乗せられて聞こえていた。
独健の少し鼻にかかった声がふたりの沈黙を破った。
「……終わったか?」
大そう満足という感じで、貴増参はのんびりとうなずく。
「えぇ、僕の散弾銃トークは今ので全て終了です」
四方八方へ銃弾が飛ぶ武器の名前がいきなり出てきた。結婚指輪をした独健の手が素早く上がり、念を押すように横に激しく揺れる。
「いやいや、最後の締めくくりでまたボケてきてるだろう! そこは、マシンガントーク……」
未だ手をつけていない愛妻弁当の重みを膝で感じて、ボケとツッコミだけで昼休みを終了させないように、独健は言葉の途中でため息をついた。
「はぁ~、まあいいや。で、数はいくつだったんだ?」
待っていましたと言わんばかりに、身を乗り出した貴増参の足元では、真っ白な雲が風に流され遠のいていった。
「よく聞いてくれました。驚いちゃいますよ。限定五個です」
別の意味で驚く。店の儲けを度外視した、極端に少ない数字。
独健の前で制服を着て、自分も昼休みだと言っていた貴増参。店が開店する前に出勤しているはずだ。当然の矛盾点と心配事が、独健から向けられた。
「それじゃ、早朝から並ばないと買えないだろう。お前、仕事はどうしたんだ? 隣の施設で大会の警備だろう? しかも今日、初日だから抜けられないだろう」
「とある方に頼んじゃいました」
やけに意味深な言い方――。
柔らかな毛布で包み込むような低い声の持ち主の罠が、実は水面下で進んでいるとは知らず、独健は噴水の落ちてゆく水の煌めきを、若草色の瞳にぼうっと映した。
「同僚じゃないよな……? 今日は聖輝隊は総動員だろう? 友達にか?」
クイズ番組みたいな音が、貴増参の低い声で再現される。
「ブブー、不正解です」
範囲は絞られた。深緑のマントの影になって今は見えない、貴増参の結婚指輪を思い浮かべながら、独健は記憶という残像から拾い上げようとした。
「あと、誰がいた……?」
苦戦している独健の隣で、対する貴増参は余裕でこんなことを言う。
「彼にです」
「いや、だから男は全員彼になるんだから、いっぱいいるだろう」
真正面を見つめたままで考え続ける独健の中に、該当するであろう男が次々に出てくるが、どれも決め手にかけた。迷宮入りしてしまいそうな独健の横顔に、貴増参は少し前倒しで問いかける。
「ヒントがほしいですか?」
「まあ、そうだな」
順調に進んでいるように思えた会話だったが、ここで崩壊した。
「それでは、僕の心に鍵をかけて秘密にしちゃいます」
さっきから全然食べられないお弁当を膝の上に乗せたまま、独健はオーバーリアクションで突っ込もうとしたが、
「いやいや、前振りしておいて意味不明だろう! それ――」
「鍵を開けたいのなら、先ほどのことをしましょうか?」
途中でさえぎった貴増参の雰囲気はさっきとは打って変わって、男の香りが思いっきりするものになっていた。
最初にふられたキスの話に結局戻ってきてしまい、独健は負けずに猛抗議するつもりだった。
「だ~か~ら~! そういう趣味はない――」
無防備に膝の上に乗せられていた左手を、貴増参の結婚指輪をした手につかまれ、ふたつの契約という名のリングが昼間の公園でぶつかった。
そして、貴増参から告げられる。
「瞬間移動です」
ふたりはぱっと切り取ったみたいにベンチの上からいなくなった。独健の膝の上に乗っていたお弁当箱は、持ち主の足がなくなったことによって、椅子の上にゴトっという音を立てて落ちた。
*
一瞬のブラックアウトと静音のあと、さっきまで遠くで聞こえていたリハーサルの歌声がすぐ近くになっていた。
風が頬を切る音が響き、思わず閉じていたまぶたを開けると、桜の花びらが青空を背景にした、木々の緑の前を横切ってゆくが、日向ではなく日陰だった。
「うわっ! お前、いきなりどこに連れてきたんだ!」
独健が仕事をしていた場所とは違うが、多目的大ホールのそばであることは間違いない。R&Bという音楽の響きの大きさからして。
落ち着きなくキョロキョロしている独健とは対照的に、落ち着いている貴増参は少しグレた感じ――本人だけが凄みがあると思っている表情をした。
「放課後、コンサート会場の裏にきな! 作戦です」
軽い罠が張られていた――。
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