明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

文字の大きさ
367 / 967
最後の恋は神さまとでした

たどり着いたのは閉鎖病棟/2

しおりを挟む
 仕事をこなしながら、心の中で守護神に確認を取る。それはまるで、潜入捜査でもして、無線機でやり取りをするようなふたりだけの秘密みたいで、変わった恋愛の仕方を、倫礼はまたしていた。

「あの人は? 落ち着いてるところが、蓮に似てると思う」
「あれは違う」

 だが、なかなか機会がめぐってこないと思っていたが、とうとうその日はやってきた。いつもどおり仕事をこなし、彼女の直感が刺激される。

(ん? あれ? あの人あんなにいい匂いしたかな? この前まで気にならなかったんだけど……!)

 それは、二ヶ月ほど前に移動してきた男だった。特に何が気になるわけでもなかったが、とにかくリアクションは薄いのだ。

 本人には知られないように、蓮に心の中で確認を取る。

「あっ、もしかして、あの人?」
「そうだ」
「よし、あとは告白する機会をうかがうだけ、と」

 こうやって、おまけの倫礼は人とは違った方法で、また新しい恋に出会ったのだった。そして、二ヶ月も経たずに付き合うこととなる。

    *

 おまけの倫礼は夢のような毎日を過ごしていた。触れることのできない、神である蓮の波動を受けた、人間の男が恋人としている。

 全てが満ち足りる人生などないが、鬱病はいつまで経っても症状はよくならず、薬の量も通院するスタンスも変わることはなかったが、倫礼はとても幸せで満たされていた。

 しかし、神まで見える霊感を持った彼女は、人とは違った人生を歩むこととなったのである。

 焉貴が直感していた通り、蓮が見ることのできない未来へと進み出したのだ。それは天国から地獄へと真っ逆さまに落ちてゆくようなものだった。

 手始めにふたりを襲ったのは、倫礼が霊感をあまり使う暇がなくなったことだ。現実の恋人に意識を奪われ、神である蓮と直接話す機会が完全になくなった。

 蓮の波動を今でも受けているかもしれない、恋人と付き合い始めて数ヶ月後には、中絶という選択肢を選んだ。倫礼はこれから起きる出来事にただただ耐えてゆく日々を送る。

 恋人との付き合いは続いていたが、狭いアパート暮らしでふたりは不便だということで、広い部屋へ引っ越した。

 彼女はよく知らなかったのだ。自身の病気についてを。それが何を招くのかさえも。

 フルタイムで働くことはなくなったが、駅まで二十分以上歩いて、新しい職場へと働き始め、四十一歳の夏を迎えた。

 休日に買い物へ行く。昼間の暑い時間帯は避けて、おまけの倫礼は一人でアスファルトの上を歩いてゆく。近所の慣れた道を。

「っ!」

 ふと転びそうになる。段差があると知らずに、乗り上げたみたいにズーッと靴底を擦って、前につんめりそうになった。

 倫礼は振り返り、首を不思議そうに傾げた。

(あれ? いつも歩いてる道なのに、段差なんあてあったかな? おかしいな)

 最初は小さな違和感だった。だが、やはり外出をすると、何度か足を引きずる――いや自分の思い通りに足が動かないといったほうが正しかった。

 姿勢のせいなのかとか、暑さのせいなのかとか、倫礼なりに考えてみたが、夏が過ぎでも回数は減ったにせよ、足を引きずることは起きていた。

 転ぶかもしれない。そう思うと彼女は外出するのが億劫になっていった。それでも、働こうと彼女は考えた。

「家から出るのが苦痛だから……。そうだ! 家でできることを仕事にしよう!」

 そうして、神さまと話すこと、神界を見ることが遠ざかっていた彼女は、コウの言いつけを破ってしまったのだ。

「霊感を使って占いをしよう――! 電話占いがある!」

 そして、始めた占いだった。相談者の守護神にきていただいて、その話を聞く。だが、彼女は何を占えばいいのかわからなくなった。

「誰も魂の入ってる人がいない。過去世もないし、その人の意思はどこにもない。肉体が滅びたら、存在もなくなる。でも、それを伝えても耐えられないし、それどころか認めないと思う。そうすると、余計に霊層下がるよね? 世界の仕組みをきちんと理解することも霊層が上がる大きな条件なんだから。みんなの役に立てない。どうすれば……!」

 他の守護神がそっと耳打ちしてくれた。

「私たちが作った話を伝えればよいのです」

 倫礼はたくさんの神さまに出会いながら、仕事をこなしていったが、彼女はコウが忠告した通り、心を病んでしまった。

「不倫の相談ばっかりだ。しかも、自分を正当化して、どうやったら続くかの相談ばかり……。普通、どうしたらやめられるかを考えるんじゃないのかな? どうしたら、誠実に人を愛せるかではないのかな? きちんと離婚してから付き合うのが普通だよね? 家族の気持ちは考えてないのかな? あの真実の愛が永遠に続く、綺麗な神界はどこにいったんだろう? 自分の欲を満たすんじゃなくて、相手を思いやる気持ちはどこにもない……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!

奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。 ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。 ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!

【魔法少女の性事情・1】恥ずかしがり屋の魔法少女16歳が肉欲に溺れる話

TEKKON
恋愛
きっとルンルンに怒られちゃうけど、頑張って大幹部を倒したんだもん。今日は変身したままHしても、良いよね?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...