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最後の恋は神さまとでした
気づいたらバイセクシャル/3
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独健は自宅のベランダで、冬の星空を眺めていた。吐く息が白い。
「はあ、俺はまわりから固められてたって感じだな」
一人ぐらい反対するのだと思った。積極的に動いた話ではなく、貴増参の策略によって乗せられたものだったのに、運命とは面白いものだ。いや、大きな流れの中に身を投じていたのだ、いつの間にか。
「それでも、気持ちは決まったから、問題なしなんだが……。やっていけるのか――と悩むより、やっていこう。その方が前向きな考えだな」
夜空に散りばめられたたくさんの星。その中でも、バイセクシャルの複数婚をしている家はひとつしかない。彗星がめぐりめぐって、何億年に一度の逢瀬を重ねるような奇跡だ。
どんな会話をするのか。どんな日常が広がっているのか。それを考える前に、独健はあのピンク色の瞳と持つ男を思い出した。
「貴を待たせるのもよくない。今から会えるか聞いてみるか」
意識下でつながる携帯電話を、手を使わずに操作して、独健はコール音を聞き始めた。
*
ブランデー入りの紅茶に角砂糖が溶けてゆく泡を、独健はじっと見つめていた。明智家の客間でふたりきり。お茶を持ってきた奥さんも望んでいる結婚。独健はスプーンで紅茶をくるくるをかき混ぜて、長く息を吐いたが何から話せばいいのかあれこれ迷っていた。
「――それでは、返事を聞かせてください」
貴増参から切り出されて、独健はカップをソーサーへ置いた。
「結婚は承諾した。よろしく頼む」
予想していた通りのいい返事で、貴増参はとても気分がよくなった。
「それじゃあ、独健のタキシードの色選びからしましょう」
「お前、ずいぶん乗り気だな」
「僕は子供が生まれて少し経ってから、独健のことは愛しちゃってましたからね。待ちわびていました」
長い道のりだった。十四年だ。あれからは変わらず、夏休みには一緒にテーマパークへ旅行へ行って、授業参観には顔を合わせて、パパ友として接してきた。知られないように、距離を縮めないように、しかし開けすぎないように、最新の注意を払って過ごした。
独健は貴増参の誠意に応えようとしたが、
「俺もお前のこと愛、愛、愛――」
永遠リピートしていて、先に進まない彼を前にして、貴増参はにっこり微笑んだ。
「独健は恥ずかしがり屋さんです」
「言えるように努力する。だから今はすまない」
独健が頭を下げると、貴増参から婚約指輪が差し出された。それは夫婦それぞれをイメージした宝石をはめ込んだものだった。
*
結婚するという話をしたっきり、音沙汰がなかったが、式を終えてからの対面となった、おまけの倫礼は独健の前で自己紹介をした。
「初めまして、倫礼と言います」
「話には聞いてた。俺は守護もしたことはあるから、人間のことを少しはわかる」
独健は自身がありそうに言った。倫礼は笑顔になる。
「そうなんですね。じゃあ、資格は持ってるんですか?」
「いや、したことはあっても、人間として生きた経験がない。だから、取りに行こうと思ってる」
「みんな、守護神になってくれてとても嬉しいです」
なんて幸せなのだろうと、おまけは思う。おまけという存在なのに、九人も守護神がついてくださるなんて、ありがたい話だ。
「きちんと守護の資格が取れるまでは、お前に何かあったらいけないだろう。だから、俺はそばにはこない」
「独健さんは優しい人なんですね」
結婚の承諾なしに増えてゆく夫と妻たちだったが、いい人ばかりで、やはり幸せだと、おまけは思った。
独健は前髪をさわやかにかき上げて、大切なことを告げた。
「当たり前のことだろう。お前と光のことはみんなから聞いた。お前がいなかったら、俺たちはこういう結婚はできなかった」
「ああ……」
倫礼は言葉にならないため息をもらし、落ち着きなく手を触った。自分はおまけの存在で、神にそんなことを言われると恐縮してしまうのだ。
「お前が光を好きにならなかったら、なかったんだ。だから、俺たちの間ではお前は大切な人だ」
「消えてしまいますけどね」
さっきまでのことが嘘のように冷えた言葉だった。何気なく言った一言は、神々に重く響く。この女はいずれいなくなる。本体に吸収されて、いなくなるのだ。
旦那たちの何人かは何か言いたげだったが、お互いの顔を見て、それぞれが首を横に振った。そんな様子を霊視していない倫礼は気を取り直して、
「独健さんって、誰か好きな人いますか?」
「俺はいない」
「ってことは、これで一件落着かな?」
倫礼はボソボソとつぶやきながら、唇を指先で触れた。長々と続いた結婚だが、とうとう止まる日がやってくるのか。
と思いきや、焉貴のまだら模様の声が聞こえてきた。
「孔明がいるって言ってたよ」
「孔明さんが?」
「誰かは知らないけどさ」
ということは、あともう一人増えるのか。それとも、その誰かが他の誰かを愛していて、まだまだ続くのか。とにかく会ってみないと何とも言えない。と、倫礼は思っていたが、一波乱起きるのだった。
「はあ、俺はまわりから固められてたって感じだな」
一人ぐらい反対するのだと思った。積極的に動いた話ではなく、貴増参の策略によって乗せられたものだったのに、運命とは面白いものだ。いや、大きな流れの中に身を投じていたのだ、いつの間にか。
「それでも、気持ちは決まったから、問題なしなんだが……。やっていけるのか――と悩むより、やっていこう。その方が前向きな考えだな」
夜空に散りばめられたたくさんの星。その中でも、バイセクシャルの複数婚をしている家はひとつしかない。彗星がめぐりめぐって、何億年に一度の逢瀬を重ねるような奇跡だ。
どんな会話をするのか。どんな日常が広がっているのか。それを考える前に、独健はあのピンク色の瞳と持つ男を思い出した。
「貴を待たせるのもよくない。今から会えるか聞いてみるか」
意識下でつながる携帯電話を、手を使わずに操作して、独健はコール音を聞き始めた。
*
ブランデー入りの紅茶に角砂糖が溶けてゆく泡を、独健はじっと見つめていた。明智家の客間でふたりきり。お茶を持ってきた奥さんも望んでいる結婚。独健はスプーンで紅茶をくるくるをかき混ぜて、長く息を吐いたが何から話せばいいのかあれこれ迷っていた。
「――それでは、返事を聞かせてください」
貴増参から切り出されて、独健はカップをソーサーへ置いた。
「結婚は承諾した。よろしく頼む」
予想していた通りのいい返事で、貴増参はとても気分がよくなった。
「それじゃあ、独健のタキシードの色選びからしましょう」
「お前、ずいぶん乗り気だな」
「僕は子供が生まれて少し経ってから、独健のことは愛しちゃってましたからね。待ちわびていました」
長い道のりだった。十四年だ。あれからは変わらず、夏休みには一緒にテーマパークへ旅行へ行って、授業参観には顔を合わせて、パパ友として接してきた。知られないように、距離を縮めないように、しかし開けすぎないように、最新の注意を払って過ごした。
独健は貴増参の誠意に応えようとしたが、
「俺もお前のこと愛、愛、愛――」
永遠リピートしていて、先に進まない彼を前にして、貴増参はにっこり微笑んだ。
「独健は恥ずかしがり屋さんです」
「言えるように努力する。だから今はすまない」
独健が頭を下げると、貴増参から婚約指輪が差し出された。それは夫婦それぞれをイメージした宝石をはめ込んだものだった。
*
結婚するという話をしたっきり、音沙汰がなかったが、式を終えてからの対面となった、おまけの倫礼は独健の前で自己紹介をした。
「初めまして、倫礼と言います」
「話には聞いてた。俺は守護もしたことはあるから、人間のことを少しはわかる」
独健は自身がありそうに言った。倫礼は笑顔になる。
「そうなんですね。じゃあ、資格は持ってるんですか?」
「いや、したことはあっても、人間として生きた経験がない。だから、取りに行こうと思ってる」
「みんな、守護神になってくれてとても嬉しいです」
なんて幸せなのだろうと、おまけは思う。おまけという存在なのに、九人も守護神がついてくださるなんて、ありがたい話だ。
「きちんと守護の資格が取れるまでは、お前に何かあったらいけないだろう。だから、俺はそばにはこない」
「独健さんは優しい人なんですね」
結婚の承諾なしに増えてゆく夫と妻たちだったが、いい人ばかりで、やはり幸せだと、おまけは思った。
独健は前髪をさわやかにかき上げて、大切なことを告げた。
「当たり前のことだろう。お前と光のことはみんなから聞いた。お前がいなかったら、俺たちはこういう結婚はできなかった」
「ああ……」
倫礼は言葉にならないため息をもらし、落ち着きなく手を触った。自分はおまけの存在で、神にそんなことを言われると恐縮してしまうのだ。
「お前が光を好きにならなかったら、なかったんだ。だから、俺たちの間ではお前は大切な人だ」
「消えてしまいますけどね」
さっきまでのことが嘘のように冷えた言葉だった。何気なく言った一言は、神々に重く響く。この女はいずれいなくなる。本体に吸収されて、いなくなるのだ。
旦那たちの何人かは何か言いたげだったが、お互いの顔を見て、それぞれが首を横に振った。そんな様子を霊視していない倫礼は気を取り直して、
「独健さんって、誰か好きな人いますか?」
「俺はいない」
「ってことは、これで一件落着かな?」
倫礼はボソボソとつぶやきながら、唇を指先で触れた。長々と続いた結婚だが、とうとう止まる日がやってくるのか。
と思いきや、焉貴のまだら模様の声が聞こえてきた。
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「孔明さんが?」
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