明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

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歌を作ってみた

男の色香:夕霧命の場合

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 颯茄は部屋の中にある広い荒野へやってきていた。広がるは地平線ばかり。探したい人の影さえも見つからない。

「この辺にいるはずなんだけど……」

 岩のすぐ近くに、お弁当箱が置いてあった。いるのは確実なのだが、相手の姿が見えない。

「修行中だから、どこか別のところにいるのかな?」

 気配などなかったのに、背後から夕霧命の声が響いた。

「何だ?」
「ああ、いたいた。夕霧さん」

 颯茄は笑顔になって、さっと振り返った。

「光に何かあったのか?」

 妻は呆れた顔をする。

「ああ、また光さん一番だ。違いますよ。今日は、曲を作ってきたんです」
「曲?」

 足音ひとつ立たず、夕霧命は颯茄に近づいてきた。

「そうです。夕霧さんをモデルにした曲です。聞きますか?」
「聞く」
「じゃあ、再生します」

 ゆったりとしながらほのぼのした曲が流れ始めた。

【男の色香】

春は過ぎて 恋が生まれて
夏も過ぎて 愛になって
どんな季節にも 咲き続ける俺の心に

愛する人は別にいるのに
お前に愛がある 男の色香立つ
生まれては消えず その全てが愛おしくて

待って 守って 
感じて 見つめて
愛して 生きて
惹かれて 重ねて
引き寄せ 絡まって
赦して 触れて
なぞって 添えて
こぼれて 悩んで

秋は過ぎて 愛は深まって
冬も過ぎて 相変わらず
どんな季節にも あり続ける俺の心に

隠してるのに 言えるはずもなく
お前の愛には 応えられずに
それならばいっそ ただそばにいて見守るだけ

咲いて 変わって
交じって 離れて
恋して 揺れて
気がして 微笑んで
祈って 泣いて
染まって 堕ちて 
描いて 越えて
結んで つかんで

愛する人は別にいるのに
お前に愛がある 男の色香立つ
生まれては消えず その全てが愛おしくて

待って 守って 
感じて 見つめて
愛して 生きて
惹かれて 重ねて
引き寄せ 絡まって
赦して 触れて
なぞって 添えて
こぼれて 悩んで


 ずっと立ったままだった夕霧命の瞳を、颯茄はのぞき込む。

「どうですか?」
「確かによくできてる」

 夕霧命は珍しく感心した声をあげた。

「こんなふうに思っていましたか?」
「思っていた」
「光さんは自分の気持ちを恥じて、隠していて、夕霧さんはそれを見守っている。最上級の愛です」
「最上級かは知らんが、そうするしかなかった」

 お互い好きなのに、そんなそぶりも見せられない。なんだか切ない気持ちに、颯茄はなったが、笑顔を無理やり作った。

「でも、今はこうして結婚してます」
「そうだ。お前たちのお陰だ」
「神さまと蓮のおかげかもです」

 妻が好きになり、諦めていたのを探り出したのは蓮。それなのに、彼は光命に一目惚れをしたのだった。蓮の感性の賜物である。

「確かにそうだ。あれが光を好きにならんかったら、こんな結婚はなかったかもしれん」
「やっぱり運命だったですね。永遠の世界では、愛も永遠」
「ところで」
「はい?」

 颯茄はピシッと身を引き締めた。

「サビの部分だが、よく声が出ておらん。正中線をもっと意識しろ」
「いやいや、聞いてくださいよ。私、上のEの音が割とギリギリなんですよ」

 颯茄の言い訳が始まる。

「Eとは何だ?」
「ミの音です。それなのに 、この曲その上のファが出てくるんです」
「高いのか?」

 既存の歌でそんなキーに出会ったことがない。

「普通の人よりは高いです」
「いつもより高かいか」
「そうです。いったい誰が作ったんだろう?」
「光ではないのか?」

 颯茄は荒野に轟くような大声をあげた。

「えぇ!? 光さん、私に修行させようとして……。音楽では手厳しいんですよ。他の曲でも、『これ歌うんですか?』って思うようなものばかり」

 限界を超えた、下の音であったり。歌ったことがないような歌。歌い方を変えないといけない。そんな連続だった。

「それだけお前のことを愛しているということだ」
「確かにそうですね。光さん、ありがとうございます」

 夫と妻は一緒に愛しているもう一人の夫を強く想った。
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