明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

文字の大きさ
472 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜

優雅な主人は罠がお好き/1

しおりを挟む
 海と空を表す青色――

 灰土はいどを混ぜ込み、くすみを持たせた鉄紺てつこん色の波が打ち寄せては引いてゆく。

 遠くで半円を描く水平線の上には、神という本物の天賦てんぷの才が大気というキャンパスに、創作力を大胆かつ繊細にぶつけたブルートパーズの空があった。

 科学と宗教のような両極性の象徴。そんな青の乱反射が、海面へいつくしみの聖なる光として煌めいていた。

 滑らかな砂肌を見せる隆起海岸には、外国からの大きな船が尾を並べ、屈強な男たちによって積荷のコンテナが運び出される。

「ん~! よいしょ、よいしょ~っ!」

 コロと呼ばれる丸太が並ぶ上を、ローラーブレードをするように荷馬車へと荷物が運ばれてゆく、活気ある港町。

 積荷たちが馬車へ乗り込むと、御者が馬にむちをくれ、中心街へ向かって大きな車輪は石畳を削るように回り出す。

 整然と鎮座する倉庫の群れを抜けると、街ゆく人や自転車の細い車輪と行き交い、馬車は追い越しをかけ始めた。

 花冠国の南に位置する山間の町――庭崎市。

 馬車の行手を阻むものは交差点の信号くらい。電力がほとんど存在していないこの国では、線路と電線というラインが地面にも空にも引っかき傷を残していなかった。

 車を所有しているのは富裕層のみ。一般人の遠距離移動は馬車。というわけで、排気ガスで空気が濁ることもないのだ。

 神からの贈り物である正常な空気中に漂うのは、人の話声と車輪が石畳を踏む音だけ。科学技術は姿形もなく、遠い未来の出来事。

 平家ひらやばかりの街並みから御者は空を仰ぎ見る。右手には新緑の山々が女性のような柔らかな曲線美で横たわっていた。

 人々から称賛を受けてやまない山肌は、木々の一本一本までがはっきりと輪郭を繊細な画家のように描いていた。

 まだ変わらない信号待ち――。御者は反対側へ顔を向け、口にくわえられたシケモクの向こうに映る町外れにある、小高い丘を視線でたどりのぼる。

 一階建ての家屋が多い中、二階建ての美しい赤レンガの西洋風建物が、威厳ある立派な玉座に鎮座するように、堂々と街を見下ろす形で異彩を放っていた。

 あちこち破れた帽子のツバをつかみ、御者は声をしゃがれさせた。

はらいのやかたか……」

 非日常的な言葉が街の雑路に入り込むと同時に、パチンという鞭の音が響き、馬車は荷物という重厚な客を乗せて、石畳の上をガタゴトと再び走り出す。

 路面に散らばっていたガラスの破片たちを置き去りにして、遠ざかっていった。

 交差点の角にある軒下から、一羽のツバメが翼を広げ上空へと舞い上がる。春風に乗って、赤レンガの建物へとブルートパーズ色の空を滑るように飛んでゆく。

 鉄色を帯びた紺の翼は、一年ぶりに会いにきた友人と顔を合わせるのに、丘の上へと喜びの飛線ひせんを引いていくようだった。

 鳥の小さな瞳には広い敷地に悠然と佇む、祓いの館と異名をつけられた――ベルダージュ荘が映っていた。

 数百年前、当時有名だった建築家が洋式建築を積極的に取り入れた別荘地。しかしながら、景色も居心地もよくすぐに住居区となり、現在に至る。

 二百年前ほどに、別大陸の東に位置するシュトライツ王国から婿を取っために、花冠国としては非常に珍しい、横文字の姓――ラハイアットとなったのである。

 春風を招き入れるように開け放たれた窓たちから、部屋の家具たちが横顔を見せていた。

 建築家の友人から譲り受けた、高級な外国産のものばかり。和テイストの家具は初めて招待された客のように、所在なさげにしていた。

 ツバメはくるっと回転して、のんびりと日向ぼっこしている白いテーブルチェアで羽休めをしようと、高度を急降下させた。

 昼寝シエスタへと誘う、微睡まどろみを覚えるような穏やかな風景の中に、誰かのむせる声が突如響き渡った。

「ゴホッ!」

 驚いた鳥はバサバサと飛び去り、館の二階にある主人――崇剛の寝室から漂う匂いを嗅いだ。息がつまるようでいて、ドライフルーツやナッツの甘いアルコールの香りがツバメの頬をかすめていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!

奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。 ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。 ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...