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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
夕闇を翔る死装束/8
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夕風の温度は下がってゆくのに、崇剛の思考回路はヒートアップしてゆく。
別の何かが起きているという可能性が87.65%――
本人が落ちたという可能性が65.43%――
ですが、声は複数聞こえてきています。
そうなると、他の方も落ちたという可能性が出てきます。
落下し、怪我をして、助けを求めにきた……。
さっき記憶した死装束の女から疑惑という薄闇が、聖霊師の脳裏で次々と渦をなしてゆく。
そちらの理由だけでは、こちらへ念を飛ばすのはおかしいです。
歩いてくることもできます。
他の方に相談することもできます。
念をわざわざこちらへ飛ばす必要性は0.38%――
ゼロに限りなく近い……。
そうなると、何かが原因で本人は動けないという可能性が出てきます。
さらには、心霊的理由で人に相談できないという可能性も出てきます。
魂の事情は複雑だ。輪廻転生という鎖が遠い過去までつなげているのだから。思考の旅を一休みさせて、冷静な水色の瞳は、あどけない瞬の顔で焦点を合わせた。
「あとは何かありましたか?」
「かなしかった……」
心の澄んだ子供は共鳴してしまって、ひどくしょんぼりしていた。ベビーブルーのくりっとした瞳は陰り、芝生へと視線が落ちていることに気づいて、崇剛の神経質な手は瞬の柔らかい髪をそっとなでる。
「あなたは優しいのですね。あなたが悲しむことではありませんよ」
瞬は地面を見つめたまま、近くに落ちていた小枝を靴の底で少しだけ転がした。崇剛はあごに手を当て、夕闇のベールをかぶせられたスミレの花を視界の端で捉える。
(確かに悲しみという感情はあるみたいです。ですが、死を前にしての悲しみとは違うみたいです。それでは、相手は何を望んでこちらへきたのでしょう?)
優雅な聖霊師の元へ、いきなり舞い込んできた心霊事件。情報が不十分で、疑問ばかりが浮かんでくる。
「どこにいっちゃったんだろう?」
キョロキョロし出した瞬を、水色の瞳の端に移しながら、冷静な頭脳に死装束を着た女の詳細を思いめぐらせた。
(全身がはっきりと見えます)
手足がどこもかけていない完全な霊体。そうなると、崇剛の中にはこの見解が浮かび上がった。
非常に強い念であるという可能性が87.67%――
そこまで弾き出したが、聖霊師は物質化していないからこそ心霊事件は難解だとよく心得ていた。
(ですが、私だけで判断することは危険です。瑠璃さんに審神者をしていただかないといけません。そうですね――)
専門用語が崇剛の心の中に浮かび、もう一度最初から瞬が見た生霊を見ようと、今度は角度を屋敷より少し高いところへ移動した。
その時だった。白い服を着た男が上空に浮かんでいたのに気づいたのは。
(どなたでしょう?)
すらっとした長身で、髪が風もないのにさらさらと吹かれている。遠くの宙に立っているのに、瞳がとても印象的だった。ルビーのように真っ赤だったからだ。
しかも、頭上の空を飛んでいて、視線が合ってもいないのに、一生忘れられないような強烈な品格が感じられた。
背中には立派な翼がついていて、見えはしないが頭には金色に光る輪があるのかも知れない。
だがしかし、きちんと確認していない以上、断定をするのは非常に危険である。崇剛はすぐさま、霊界の法則を頭の中に引っ張り出した。
(邪神界――もしくは正神界。どちらの存在でしょう?)
敵か味方か。生霊と関係するのか、しないのか。天使なのか、違うのか。それとも第三派か。あらゆる可能性を含んだ男だった。
崇剛が霊視する高度をもう少し上げようとすると、そのまま遮断機が下りるように男はさっと消え去って、何度追いかけようとしても――何度もその時間だけを霊視しようとするが、もう見ることはなくなった。
(幻だったのでしょうか? おかしい――)
千里眼の持ち主は生まれてこの方、ないものが見えるということは体験していなかった。
(私の霊視から逃げられる存在となると……)
別の何かが起きているという可能性が87.65%――
本人が落ちたという可能性が65.43%――
ですが、声は複数聞こえてきています。
そうなると、他の方も落ちたという可能性が出てきます。
落下し、怪我をして、助けを求めにきた……。
さっき記憶した死装束の女から疑惑という薄闇が、聖霊師の脳裏で次々と渦をなしてゆく。
そちらの理由だけでは、こちらへ念を飛ばすのはおかしいです。
歩いてくることもできます。
他の方に相談することもできます。
念をわざわざこちらへ飛ばす必要性は0.38%――
ゼロに限りなく近い……。
そうなると、何かが原因で本人は動けないという可能性が出てきます。
さらには、心霊的理由で人に相談できないという可能性も出てきます。
魂の事情は複雑だ。輪廻転生という鎖が遠い過去までつなげているのだから。思考の旅を一休みさせて、冷静な水色の瞳は、あどけない瞬の顔で焦点を合わせた。
「あとは何かありましたか?」
「かなしかった……」
心の澄んだ子供は共鳴してしまって、ひどくしょんぼりしていた。ベビーブルーのくりっとした瞳は陰り、芝生へと視線が落ちていることに気づいて、崇剛の神経質な手は瞬の柔らかい髪をそっとなでる。
「あなたは優しいのですね。あなたが悲しむことではありませんよ」
瞬は地面を見つめたまま、近くに落ちていた小枝を靴の底で少しだけ転がした。崇剛はあごに手を当て、夕闇のベールをかぶせられたスミレの花を視界の端で捉える。
(確かに悲しみという感情はあるみたいです。ですが、死を前にしての悲しみとは違うみたいです。それでは、相手は何を望んでこちらへきたのでしょう?)
優雅な聖霊師の元へ、いきなり舞い込んできた心霊事件。情報が不十分で、疑問ばかりが浮かんでくる。
「どこにいっちゃったんだろう?」
キョロキョロし出した瞬を、水色の瞳の端に移しながら、冷静な頭脳に死装束を着た女の詳細を思いめぐらせた。
(全身がはっきりと見えます)
手足がどこもかけていない完全な霊体。そうなると、崇剛の中にはこの見解が浮かび上がった。
非常に強い念であるという可能性が87.67%――
そこまで弾き出したが、聖霊師は物質化していないからこそ心霊事件は難解だとよく心得ていた。
(ですが、私だけで判断することは危険です。瑠璃さんに審神者をしていただかないといけません。そうですね――)
専門用語が崇剛の心の中に浮かび、もう一度最初から瞬が見た生霊を見ようと、今度は角度を屋敷より少し高いところへ移動した。
その時だった。白い服を着た男が上空に浮かんでいたのに気づいたのは。
(どなたでしょう?)
すらっとした長身で、髪が風もないのにさらさらと吹かれている。遠くの宙に立っているのに、瞳がとても印象的だった。ルビーのように真っ赤だったからだ。
しかも、頭上の空を飛んでいて、視線が合ってもいないのに、一生忘れられないような強烈な品格が感じられた。
背中には立派な翼がついていて、見えはしないが頭には金色に光る輪があるのかも知れない。
だがしかし、きちんと確認していない以上、断定をするのは非常に危険である。崇剛はすぐさま、霊界の法則を頭の中に引っ張り出した。
(邪神界――もしくは正神界。どちらの存在でしょう?)
敵か味方か。生霊と関係するのか、しないのか。天使なのか、違うのか。それとも第三派か。あらゆる可能性を含んだ男だった。
崇剛が霊視する高度をもう少し上げようとすると、そのまま遮断機が下りるように男はさっと消え去って、何度追いかけようとしても――何度もその時間だけを霊視しようとするが、もう見ることはなくなった。
(幻だったのでしょうか? おかしい――)
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