明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

文字の大きさ
500 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜

主人と執事の大人関係/4

しおりを挟む
「――手に持って遊ぶ。もしくは、好きなようにする、ですよ」

 妄想の中と同じ優雅な声が、自分の外側からふと聞こえてきた。

「はっ!」

 涼介が我に返ると、崇剛が斜め前の席でテーブルに肘をついて、子供の瞬に伝えても問題ない範囲できちんと教えているところだった。

「そうなんだ。せんせい、ありがとう」
「どういたしまして」

 平然と罠を張りめぐらし、自分だけ穢れも何もないみたいに優雅に微笑んだ、神父の横顔に、色欲だらけの世界から帰還した涼介は毒舌を吐いた。

「この、悪戯神父!」

 言いたいことは山ほどあると、執事は思った。例えばこんなふうにだ。

(お前、記憶力がいいから、辞書は全部丸覚えだろう! 知ってるなら先に言え!)

 暴言を吐かれた主人はくすくす笑いながら、着実にチェックメイトを放った。

「何を考えていたのですか?」

 執事が考え事をしている時の大半は、同性同士の大人の話が多くを占めていると、主人はよく言っている。というか、そうなるように罠を仕掛けたのだから、そうなっていただかなくては面白くもない。

 やられてばかりでいるものかと、涼介は言い返しそうになったが、

「それは――!」

 真正面の席で、純粋な瞳でニコニコしながら、夕食をおとなしく待っている息子が視界に入り、父は言葉を詰まらせた。

(お前、次々に罠を仕掛けてきて……)

 こうして、暴言を吐いた執事は、主人にグーの根も出ないほど、見事にチェックメイトされてしまったのだった。

 執事を策略へ陥れるという快楽に溺れてしまっている主人はくすくす笑う。

(私が導き出した可能性があっていたという可能性が99.99%みたいですね)

 ひと段落というように、いつもと違って、崇剛は真剣な眼差しになった。

「それでは、いただきましょうか?」
「は~い!」

 瞬が元気よく返事をすると、瑠璃が霊界ですうっと姿を現した。

「あ、るりちゃん!」

 幽霊と話し始めた息子を前にしながら、それぞれのグラスに涼介の手で水が注がれた。

「きょう、ぼくね?」

 ビールを一口飲んだ執事は主人をそっとうかがう。冷静な水色の瞳はまぶたの裏に隠され、瑠璃色の貴族服に包まれた両肘はテーブルで立てられ、神経質な手はあごの前で組まれていた。

(主よ、こちらの食事を祝福してください。体の糧が心の糧となるように。今日、食べ物にこと欠く人にも必要な助けを与えてください)

 屋敷の主人が祈りを終えると、慣れた感じで給仕係の初老の男が、フルボディーの赤ワインの海に浮かぶ、様々な柑橘類が入ったデキャンタを手に取った。崇剛のワイングラスが美しいルビー色に染まる。

「ありがとうございます」

 優雅な声が食卓に舞うと、給仕係の男は一礼して壁際へすっと寄った。過度の飲酒をしない神父はワイングラスの足を指でつまみ、清々しい香りを吸い込む。

(柑橘系の果物と赤ワインには、癒しの効果がありますからね)

 執事のお陰で、毎日飲めているサングリアを少しだけ口に含み、晩餐を楽しむ。

「ぼく、さっきだれかをみたの」

 サラダをフォークに刺していた涼介は何気ない振りで、給仕係の男――ここから同志になる人間をチラッと見た。

 次の会話のターンは崇剛だった。

「玄関へと続く石畳のところです」

 微妙に成り立っているような会話だったが、千里眼の持ち主と子供には、瑠璃の声が間に入っていた。

「――どこでじゃ?」

 こうして、崇剛と瞬だけの声が、ひとつ会話が抜けたまま、執事と使用人に聞こえ始めた。

「いつじゃ?」

 霊界での食べ物を食べていた瑠璃だったが、一口で終わりにして、デザートのプリンに手を伸ばした。

「美味じゃ! 生きててよかったわ」

 幽霊の少女は顔を上気させて、大喜びする。もう死んでしまっている聖女の斜め前で、崇剛は神経質な性格で答えた。

「十七時十六分三十五秒過ぎです」

 瞬を助けることに集中していた崇剛は、珍しく正確な時刻がつかめていなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!

奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。 ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。 ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...