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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
主人と執事の大人関係/4
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「――手に持って遊ぶ。もしくは、好きなようにする、ですよ」
妄想の中と同じ優雅な声が、自分の外側からふと聞こえてきた。
「はっ!」
涼介が我に返ると、崇剛が斜め前の席でテーブルに肘をついて、子供の瞬に伝えても問題ない範囲できちんと教えているところだった。
「そうなんだ。せんせい、ありがとう」
「どういたしまして」
平然と罠を張りめぐらし、自分だけ穢れも何もないみたいに優雅に微笑んだ、神父の横顔に、色欲だらけの世界から帰還した涼介は毒舌を吐いた。
「この、悪戯神父!」
言いたいことは山ほどあると、執事は思った。例えばこんなふうにだ。
(お前、記憶力がいいから、辞書は全部丸覚えだろう! 知ってるなら先に言え!)
暴言を吐かれた主人はくすくす笑いながら、着実にチェックメイトを放った。
「何を考えていたのですか?」
執事が考え事をしている時の大半は、同性同士の大人の話が多くを占めていると、主人はよく言っている。というか、そうなるように罠を仕掛けたのだから、そうなっていただかなくては面白くもない。
やられてばかりでいるものかと、涼介は言い返しそうになったが、
「それは――!」
真正面の席で、純粋な瞳でニコニコしながら、夕食をおとなしく待っている息子が視界に入り、父は言葉を詰まらせた。
(お前、次々に罠を仕掛けてきて……)
こうして、暴言を吐いた執事は、主人にグーの根も出ないほど、見事にチェックメイトされてしまったのだった。
執事を策略へ陥れるという快楽に溺れてしまっている主人はくすくす笑う。
(私が導き出した可能性があっていたという可能性が99.99%みたいですね)
ひと段落というように、いつもと違って、崇剛は真剣な眼差しになった。
「それでは、いただきましょうか?」
「は~い!」
瞬が元気よく返事をすると、瑠璃が霊界ですうっと姿を現した。
「あ、るりちゃん!」
幽霊と話し始めた息子を前にしながら、それぞれのグラスに涼介の手で水が注がれた。
「きょう、ぼくね?」
ビールを一口飲んだ執事は主人をそっとうかがう。冷静な水色の瞳はまぶたの裏に隠され、瑠璃色の貴族服に包まれた両肘はテーブルで立てられ、神経質な手はあごの前で組まれていた。
(主よ、こちらの食事を祝福してください。体の糧が心の糧となるように。今日、食べ物にこと欠く人にも必要な助けを与えてください)
屋敷の主人が祈りを終えると、慣れた感じで給仕係の初老の男が、フルボディーの赤ワインの海に浮かぶ、様々な柑橘類が入ったデキャンタを手に取った。崇剛のワイングラスが美しいルビー色に染まる。
「ありがとうございます」
優雅な声が食卓に舞うと、給仕係の男は一礼して壁際へすっと寄った。過度の飲酒をしない神父はワイングラスの足を指でつまみ、清々しい香りを吸い込む。
(柑橘系の果物と赤ワインには、癒しの効果がありますからね)
執事のお陰で、毎日飲めているサングリアを少しだけ口に含み、晩餐を楽しむ。
「ぼく、さっきだれかをみたの」
サラダをフォークに刺していた涼介は何気ない振りで、給仕係の男――ここから同志になる人間をチラッと見た。
次の会話のターンは崇剛だった。
「玄関へと続く石畳のところです」
微妙に成り立っているような会話だったが、千里眼の持ち主と子供には、瑠璃の声が間に入っていた。
「――どこでじゃ?」
こうして、崇剛と瞬だけの声が、ひとつ会話が抜けたまま、執事と使用人に聞こえ始めた。
「いつじゃ?」
霊界での食べ物を食べていた瑠璃だったが、一口で終わりにして、デザートのプリンに手を伸ばした。
「美味じゃ! 生きててよかったわ」
幽霊の少女は顔を上気させて、大喜びする。もう死んでしまっている聖女の斜め前で、崇剛は神経質な性格で答えた。
「十七時十六分三十五秒過ぎです」
瞬を助けることに集中していた崇剛は、珍しく正確な時刻がつかめていなかった。
妄想の中と同じ優雅な声が、自分の外側からふと聞こえてきた。
「はっ!」
涼介が我に返ると、崇剛が斜め前の席でテーブルに肘をついて、子供の瞬に伝えても問題ない範囲できちんと教えているところだった。
「そうなんだ。せんせい、ありがとう」
「どういたしまして」
平然と罠を張りめぐらし、自分だけ穢れも何もないみたいに優雅に微笑んだ、神父の横顔に、色欲だらけの世界から帰還した涼介は毒舌を吐いた。
「この、悪戯神父!」
言いたいことは山ほどあると、執事は思った。例えばこんなふうにだ。
(お前、記憶力がいいから、辞書は全部丸覚えだろう! 知ってるなら先に言え!)
暴言を吐かれた主人はくすくす笑いながら、着実にチェックメイトを放った。
「何を考えていたのですか?」
執事が考え事をしている時の大半は、同性同士の大人の話が多くを占めていると、主人はよく言っている。というか、そうなるように罠を仕掛けたのだから、そうなっていただかなくては面白くもない。
やられてばかりでいるものかと、涼介は言い返しそうになったが、
「それは――!」
真正面の席で、純粋な瞳でニコニコしながら、夕食をおとなしく待っている息子が視界に入り、父は言葉を詰まらせた。
(お前、次々に罠を仕掛けてきて……)
こうして、暴言を吐いた執事は、主人にグーの根も出ないほど、見事にチェックメイトされてしまったのだった。
執事を策略へ陥れるという快楽に溺れてしまっている主人はくすくす笑う。
(私が導き出した可能性があっていたという可能性が99.99%みたいですね)
ひと段落というように、いつもと違って、崇剛は真剣な眼差しになった。
「それでは、いただきましょうか?」
「は~い!」
瞬が元気よく返事をすると、瑠璃が霊界ですうっと姿を現した。
「あ、るりちゃん!」
幽霊と話し始めた息子を前にしながら、それぞれのグラスに涼介の手で水が注がれた。
「きょう、ぼくね?」
ビールを一口飲んだ執事は主人をそっとうかがう。冷静な水色の瞳はまぶたの裏に隠され、瑠璃色の貴族服に包まれた両肘はテーブルで立てられ、神経質な手はあごの前で組まれていた。
(主よ、こちらの食事を祝福してください。体の糧が心の糧となるように。今日、食べ物にこと欠く人にも必要な助けを与えてください)
屋敷の主人が祈りを終えると、慣れた感じで給仕係の初老の男が、フルボディーの赤ワインの海に浮かぶ、様々な柑橘類が入ったデキャンタを手に取った。崇剛のワイングラスが美しいルビー色に染まる。
「ありがとうございます」
優雅な声が食卓に舞うと、給仕係の男は一礼して壁際へすっと寄った。過度の飲酒をしない神父はワイングラスの足を指でつまみ、清々しい香りを吸い込む。
(柑橘系の果物と赤ワインには、癒しの効果がありますからね)
執事のお陰で、毎日飲めているサングリアを少しだけ口に含み、晩餐を楽しむ。
「ぼく、さっきだれかをみたの」
サラダをフォークに刺していた涼介は何気ない振りで、給仕係の男――ここから同志になる人間をチラッと見た。
次の会話のターンは崇剛だった。
「玄関へと続く石畳のところです」
微妙に成り立っているような会話だったが、千里眼の持ち主と子供には、瑠璃の声が間に入っていた。
「――どこでじゃ?」
こうして、崇剛と瞬だけの声が、ひとつ会話が抜けたまま、執事と使用人に聞こえ始めた。
「いつじゃ?」
霊界での食べ物を食べていた瑠璃だったが、一口で終わりにして、デザートのプリンに手を伸ばした。
「美味じゃ! 生きててよかったわ」
幽霊の少女は顔を上気させて、大喜びする。もう死んでしまっている聖女の斜め前で、崇剛は神経質な性格で答えた。
「十七時十六分三十五秒過ぎです」
瞬を助けることに集中していた崇剛は、珍しく正確な時刻がつかめていなかった。
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