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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
紅血の波紋/1
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――――奈落の底へと落ちてゆくような闇。自分の輪郭が見えないほどの闇。
耳鳴りがするほどの静音で、身動ぎひとつするのがはばかられるような沈黙。それなのに、全員を一斉に刃物で切られたような苦痛が体中をのたうち回る。
ピチャピチャと、何か液体が落ちる音がしたあと、サラサラと風が不意に吹き抜け、それに乗せられて、いくつものうめき声と悲鳴が嵐の如く舞い上がった。
「クゥゥッッ!!」
「ウ、ウゥーッッ!!」
「キャアアッ!?!?」
「ギャァァァッッ!!」
真っ暗な視界の中で、音だけがやけに大きく浮かび上がってくる。残響が幾重にも共鳴し合うが、それは不協和音だった。
突然の出来事で、驚いて声を上げようとするが、すくんでしまって短く終わる。
「なっ!」
背中からふと、忍び寄る人の気配を感じた。足音はなく、すうっと空中を浮遊しているような怪奇音。振り向いて、正体を見極めようとすると、突然、肩に誰かの真っ白な手が後ろから乗せられた。
「ひぃっ!」
悲鳴になりかけた声が裏返りそうになる。視界の端にはっきり映り込んでいる、透き通る青白い手。
恐怖心は一瞬にして駆り立てられ、悪寒と寒気が全身を串刺しにするように貫いてゆく。
「っ!」
人の力とは思えないほど、ありえない強さで肩を後ろへぐっと引っ張られた。
「うわっ!」
悲鳴を上げると同時に、あちらこちらから青白い顔が次々と薄闇に浮かび上がった。それはまるで人魂のようだった。
髪は乱れ、長く垂れ下がり、その隙間から虚な瞳が呪い殺すかのようにじっと見つめる、あの世へ引きずり込むように。
幽霊たちは首をおかしな方向へ――関節を無視したように曲げたまま、ゆらゆらと姿を消したかと思うと、すっと現れ、距離を瞬時に縮めてくる。
上から下へデジタルな消しゴムで消したように姿をなくしては、突然現れたかのように近づく。何度となくそれを繰り返し、すぐにでも取り憑けるように目前まで迫っていた。
「ひゃあっ!」
後ろへ逃げようとする。するとそこにも、数えきれないほどの幽霊が待ち構えていた。我先にというように、消えては急に近づくをしてくる。
相変わらず首をおかしなほうへ傾け、生気という炎を消し去るような虚な瞳でこっちをじっと見ている。
血の気のない唇がひっそりと動き、か細いが脳裏にこびりつくように何度も何度も告げられる。
「返して……」
「返して……」
意識を支配するように、幾重にも響いてくる。無残に奪われた何かをむさぼるように、真っ白な透き通った手が一斉に伸びてきて、体中のあちこちをガバッと鷲づかみされた。
(う、動けない!)
四肢の自由どころか、声までもが拘束されたようだった。
あの世へと引きずり込まれてしまう、死の恐怖。彼らはみんな恨めしげな瞳で、こっちを見ていて、誰も口を開いていないのに、悲痛の叫びが忍び寄る。
「ぎゃああぁぁっ!」
「うぎゃぁぁぁっ!」
「うわぁぁぁぁっ!」
耳をつんざくような断末魔の暴徒が襲う、凶器を化して。自分は末恐ろしくなり、喚き声を思わず上げた。
「う、うあぁ~~っ!!!!」
自分の命を奪うかのように、どんどん伸びてくる青白い手は、手足だけではなく、とうとう首へとかけられた。
「ぐっ……げぉっ! ぐっ!」
窒息の息苦しさは、底なし沼へ沈められるような感覚だった。闇を背景とした大量の幽霊たちをキャンバスとして、鮮血が赤い染みでギザギザの波紋を、ひとつ、ふたつ、みっつ……と、ポトリポトリとペンキが落ちるように描かれてゆくと、血生臭い匂いが、むせるように立ち込めた。
「ぬっ!」
吐き気に襲われ、腕で口と鼻を思わずふさいだ。紅血の波紋は重力に逆らえず、おどろおどろしく下へどろっと垂れてゆく。何重にも広がり、視界は鮮血で満たされていき、やがて不気味な赤一色に染まった――――
耳鳴りがするほどの静音で、身動ぎひとつするのがはばかられるような沈黙。それなのに、全員を一斉に刃物で切られたような苦痛が体中をのたうち回る。
ピチャピチャと、何か液体が落ちる音がしたあと、サラサラと風が不意に吹き抜け、それに乗せられて、いくつものうめき声と悲鳴が嵐の如く舞い上がった。
「クゥゥッッ!!」
「ウ、ウゥーッッ!!」
「キャアアッ!?!?」
「ギャァァァッッ!!」
真っ暗な視界の中で、音だけがやけに大きく浮かび上がってくる。残響が幾重にも共鳴し合うが、それは不協和音だった。
突然の出来事で、驚いて声を上げようとするが、すくんでしまって短く終わる。
「なっ!」
背中からふと、忍び寄る人の気配を感じた。足音はなく、すうっと空中を浮遊しているような怪奇音。振り向いて、正体を見極めようとすると、突然、肩に誰かの真っ白な手が後ろから乗せられた。
「ひぃっ!」
悲鳴になりかけた声が裏返りそうになる。視界の端にはっきり映り込んでいる、透き通る青白い手。
恐怖心は一瞬にして駆り立てられ、悪寒と寒気が全身を串刺しにするように貫いてゆく。
「っ!」
人の力とは思えないほど、ありえない強さで肩を後ろへぐっと引っ張られた。
「うわっ!」
悲鳴を上げると同時に、あちらこちらから青白い顔が次々と薄闇に浮かび上がった。それはまるで人魂のようだった。
髪は乱れ、長く垂れ下がり、その隙間から虚な瞳が呪い殺すかのようにじっと見つめる、あの世へ引きずり込むように。
幽霊たちは首をおかしな方向へ――関節を無視したように曲げたまま、ゆらゆらと姿を消したかと思うと、すっと現れ、距離を瞬時に縮めてくる。
上から下へデジタルな消しゴムで消したように姿をなくしては、突然現れたかのように近づく。何度となくそれを繰り返し、すぐにでも取り憑けるように目前まで迫っていた。
「ひゃあっ!」
後ろへ逃げようとする。するとそこにも、数えきれないほどの幽霊が待ち構えていた。我先にというように、消えては急に近づくをしてくる。
相変わらず首をおかしなほうへ傾け、生気という炎を消し去るような虚な瞳でこっちをじっと見ている。
血の気のない唇がひっそりと動き、か細いが脳裏にこびりつくように何度も何度も告げられる。
「返して……」
「返して……」
意識を支配するように、幾重にも響いてくる。無残に奪われた何かをむさぼるように、真っ白な透き通った手が一斉に伸びてきて、体中のあちこちをガバッと鷲づかみされた。
(う、動けない!)
四肢の自由どころか、声までもが拘束されたようだった。
あの世へと引きずり込まれてしまう、死の恐怖。彼らはみんな恨めしげな瞳で、こっちを見ていて、誰も口を開いていないのに、悲痛の叫びが忍び寄る。
「ぎゃああぁぁっ!」
「うぎゃぁぁぁっ!」
「うわぁぁぁぁっ!」
耳をつんざくような断末魔の暴徒が襲う、凶器を化して。自分は末恐ろしくなり、喚き声を思わず上げた。
「う、うあぁ~~っ!!!!」
自分の命を奪うかのように、どんどん伸びてくる青白い手は、手足だけではなく、とうとう首へとかけられた。
「ぐっ……げぉっ! ぐっ!」
窒息の息苦しさは、底なし沼へ沈められるような感覚だった。闇を背景とした大量の幽霊たちをキャンバスとして、鮮血が赤い染みでギザギザの波紋を、ひとつ、ふたつ、みっつ……と、ポトリポトリとペンキが落ちるように描かれてゆくと、血生臭い匂いが、むせるように立ち込めた。
「ぬっ!」
吐き気に襲われ、腕で口と鼻を思わずふさいだ。紅血の波紋は重力に逆らえず、おどろおどろしく下へどろっと垂れてゆく。何重にも広がり、視界は鮮血で満たされていき、やがて不気味な赤一色に染まった――――
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