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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
心霊探偵と心霊刑事/5
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「殺されたとは限りませんよ。事実ではありません、まだ可能性です。ですから、決めつけるのは非常に危険です」
「あぁ?」
鋭いブルーグレーの眼光と冷静な水色の瞳は、ローテーブルの上でしっかりと絡み合う。
「恩田の野郎、邪さんだろ? どっからどう見ても、そう見えんぜ」
「恩田 元が邪神界であるという可能性は非常に高いです」
刑事も探偵も同じ見解だった。しかし、崇剛は大きなザルで物事を救い上げる思考回路ではなかった。
「生き残っているから邪神界、死んだから正神界とは言い切れませんよ。もちろん、全員が同じ世界の者とも限りません」
国立は思い出す。ベルダージュ荘へ行くたびに、今目の前にいる男よりも先に、自分を出迎える執事のことを。ひまわり色の短髪とはつらつとしたベビーブルーの瞳を持ち、ガタイのいい男の名を口にする。
「涼介か……」
「えぇ。彼と瞬は生きています」
主人は思い返す。あの執事は屋敷にきたばかりの頃は、あんな風に笑わなかった。小さな瞬もだ。しかし、あの事件より前はもっと笑っていたのかもしれない。
国立は軽く組んだジーパンの長い足を、ローテーブルの下へもぐらせた。
「お前さんの言ってることはよ。恩田の野郎だけじゃなくて、他のやつもやってねえって意味だろ?」
犯人がいない――。
それなのに殺人事件という域を出ない。紅茶の微糖が中性的な唇から体の内へ落ちてゆく。
「あくまでも可能性です」
「殺されてねえとしたら、他に何があんだ?」
数々の事件を見たり、聞いたりしてきた崇剛は、敵が何を望んでいるのかを口にしたが、途中でさえぎられた。
「邪神界の者は自分自身の地位と名誉、力を手に入れるためならば、どのようなことでもしてきます。ですから――」
「くだらねえことしてきやがる。てめえの人生、何だと思ってやがんだ?」
国立は刑事の勘で、崇剛の言わんとしていることに気づいた。反吐が出るというように吐き捨てた。
殺されていないのなら、答えはひとつだが、感情を滅多にあらわにしない崇剛でも、氷柱という先の尖った視線で、目の前にあるものを全て差し切りそうな怒りがあった。
激情という名の獣が雄叫びを上げそうになるのを、冷静な頭脳という盾で抑えるのに珍しく必死になった。
そんな人生は、やり切れない――。
その時、ザーッとすれる音がして、ミニシガリロとジェットライターが国立から崇剛へ滑ってきた。
「ありがとうございます」
お礼を言ったかと思うと、崇剛は細い指で、ミニシガリロを何の躊躇もなく、すうっと抜き取った。
ジェットライターで端を炙り、火がついたところで、包帯の巻きついた手で挟み持った。
顔を窓際へ向け、国立に横顔を見せる。少し柔らかい唇へ細い葉巻は運ばれ、口の中で味と香りを楽しみ、煙をすーっと吐き出した。
その仕草はまるで映画のワンシーンのようだった。
聖霊寮のよどみ切った不浄な空気の中で、魔除けのローズマリーの香りは力強くほどばしる。
中性的な雰囲気を持つ優雅な男の、紺の髪には策略といういけない快楽に溺れ、遊ぶようにわざともたつかせ、神経質な頬の横で束ねている細いターコイズブルーのリボン。
女性を連想させる長い髪。
と、
血のにじんだ包帯と葉巻。
という、男性を思わせるものがあり、唇から吐き出される青白い煙は、人を惑わせるような、導くような、両極性を見せる。
神父と策略家という、崇剛でしか持ち得ない、交差するはずのない立場。
思考する時間を有するが、落ち着きはなく、優雅に見えるが、誰かを助けるためならば、部屋の窓から庭の木へ飛び移るほどの瞬発力。
聖なるダガーを華麗に使いこなし、勝利をつかみ取るためなら、冷静な頭脳を駆使し、人の真似で難なくこなす。
まったく違った一面が突如、表面化し、常に生と死の狭間で戦っている、これ以上ないほどのギャップ。
時折り、冷静という名の盾から垣間見える、激情という獣を飼い慣らす、冷と熱の両面を持ち合わせる、絶妙なバランスの上で生きている聖霊師。
性別に関係なく、人々を魅了してやまないメシアの持ち主。
国立の鋭いブルーグレーの瞳の中には、そんな男がひとり細いロングブーツの足を組み、ソファーで優雅に腰掛けていた。
「あぁ?」
鋭いブルーグレーの眼光と冷静な水色の瞳は、ローテーブルの上でしっかりと絡み合う。
「恩田の野郎、邪さんだろ? どっからどう見ても、そう見えんぜ」
「恩田 元が邪神界であるという可能性は非常に高いです」
刑事も探偵も同じ見解だった。しかし、崇剛は大きなザルで物事を救い上げる思考回路ではなかった。
「生き残っているから邪神界、死んだから正神界とは言い切れませんよ。もちろん、全員が同じ世界の者とも限りません」
国立は思い出す。ベルダージュ荘へ行くたびに、今目の前にいる男よりも先に、自分を出迎える執事のことを。ひまわり色の短髪とはつらつとしたベビーブルーの瞳を持ち、ガタイのいい男の名を口にする。
「涼介か……」
「えぇ。彼と瞬は生きています」
主人は思い返す。あの執事は屋敷にきたばかりの頃は、あんな風に笑わなかった。小さな瞬もだ。しかし、あの事件より前はもっと笑っていたのかもしれない。
国立は軽く組んだジーパンの長い足を、ローテーブルの下へもぐらせた。
「お前さんの言ってることはよ。恩田の野郎だけじゃなくて、他のやつもやってねえって意味だろ?」
犯人がいない――。
それなのに殺人事件という域を出ない。紅茶の微糖が中性的な唇から体の内へ落ちてゆく。
「あくまでも可能性です」
「殺されてねえとしたら、他に何があんだ?」
数々の事件を見たり、聞いたりしてきた崇剛は、敵が何を望んでいるのかを口にしたが、途中でさえぎられた。
「邪神界の者は自分自身の地位と名誉、力を手に入れるためならば、どのようなことでもしてきます。ですから――」
「くだらねえことしてきやがる。てめえの人生、何だと思ってやがんだ?」
国立は刑事の勘で、崇剛の言わんとしていることに気づいた。反吐が出るというように吐き捨てた。
殺されていないのなら、答えはひとつだが、感情を滅多にあらわにしない崇剛でも、氷柱という先の尖った視線で、目の前にあるものを全て差し切りそうな怒りがあった。
激情という名の獣が雄叫びを上げそうになるのを、冷静な頭脳という盾で抑えるのに珍しく必死になった。
そんな人生は、やり切れない――。
その時、ザーッとすれる音がして、ミニシガリロとジェットライターが国立から崇剛へ滑ってきた。
「ありがとうございます」
お礼を言ったかと思うと、崇剛は細い指で、ミニシガリロを何の躊躇もなく、すうっと抜き取った。
ジェットライターで端を炙り、火がついたところで、包帯の巻きついた手で挟み持った。
顔を窓際へ向け、国立に横顔を見せる。少し柔らかい唇へ細い葉巻は運ばれ、口の中で味と香りを楽しみ、煙をすーっと吐き出した。
その仕草はまるで映画のワンシーンのようだった。
聖霊寮のよどみ切った不浄な空気の中で、魔除けのローズマリーの香りは力強くほどばしる。
中性的な雰囲気を持つ優雅な男の、紺の髪には策略といういけない快楽に溺れ、遊ぶようにわざともたつかせ、神経質な頬の横で束ねている細いターコイズブルーのリボン。
女性を連想させる長い髪。
と、
血のにじんだ包帯と葉巻。
という、男性を思わせるものがあり、唇から吐き出される青白い煙は、人を惑わせるような、導くような、両極性を見せる。
神父と策略家という、崇剛でしか持ち得ない、交差するはずのない立場。
思考する時間を有するが、落ち着きはなく、優雅に見えるが、誰かを助けるためならば、部屋の窓から庭の木へ飛び移るほどの瞬発力。
聖なるダガーを華麗に使いこなし、勝利をつかみ取るためなら、冷静な頭脳を駆使し、人の真似で難なくこなす。
まったく違った一面が突如、表面化し、常に生と死の狭間で戦っている、これ以上ないほどのギャップ。
時折り、冷静という名の盾から垣間見える、激情という獣を飼い慣らす、冷と熱の両面を持ち合わせる、絶妙なバランスの上で生きている聖霊師。
性別に関係なく、人々を魅了してやまないメシアの持ち主。
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