明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

心霊探偵と心霊刑事/15

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 不浄な聖霊寮の応接セットに意識は戻ってきて、血祭りにされているような元がなぜそうなっていると思えるのか、国立は自分のこめかみをトントンと叩いた。

「いくら、邪さんでもよ。頭よくねえと、人は使えねえだろ。あれは小物だろ? 見向きもされねえ、小物だ」

 この男は何の根拠もないことは言わない。理論派の崇剛は理由を知りたがった。

「なぜ、そのように思うのですか?」

 牢屋で何気なく交わした会話には、心霊刑事なりに大きな意味を持っていた。

「逮捕した時によ。『あんな場所で、店もうかってんのか?』って聞いたんだよ」

 確かに、元の住所は人通りのほとんどないところだが、崇剛は別のことに引っかかって、神経質な手の甲を唇に当ててくすくす笑った。

「あなたも大胆な質問をしますね。彼はどのように答えたのですか?」

 物事を順番に覚えている自分にはできない真似だと、崇剛は思った。国立はニヤリとする。

「てめえとカミさんが暮らせる分ぐれえはあるって、答えやがったぜ」
「そうですか」

 涼しい顔をしてうなずいたものの、時間差で崇剛はまたくすくす笑い出した。どこをどうやったら、その会話が成立するのかと思って。

 国立もさすがに、珍しく笑った。

「すぐわかるような嘘つきやがって、小物って証拠だろ」
「そうかもしれませんね」

 崇剛はまだ笑いが収まらず、刑事と犯人でどんな会話を他にもしたのかと考えようとすると、支離滅裂という言葉が一番似合うのだろうと思った。

「恩田の野郎、ポイントそこじゃねえんだよ。治安省が保険金のこと知らねえのは、妙だって気づくだろ」

 頭は使うためにあるんだろと、国立は言ってやりたくなったのだ。三件の転落死亡事故だけで、罪科寮が動いた挙句、聖霊寮へと回されるには、証拠が少なすぎると。

「世見の交差点の事故。転落死したのは三人。病死したのは一人。関係してるのは二百……。恩田に構ってるほど、邪さんは暇じゃねえだろ」

 だがしかし、そんな元に実際、邪神界が大きく動いているとなると、裏に隠されているものが何か早く見つけなければ、世界が崩壊する出来事が起きてもおかしくはなかった。

 ――いつの間にか、崇剛と国立の間に、白い服を着た男がしゃがみ込んでいた。

 純血を表す白なのに、天使の輪はなく、立派な両翼もなかった。肩に寄り掛からせた大鎌が死神を思わせる。ラズベリーに似た赤い目がふたつ、さっきから右と左に動いていた。

「俺の話しないのね。じゃあ、こうしちゃう!」

 パチンと指を鳴らすと同時に、ラズベリーを口の中へ放り込んで、甘酸っぱい香りが男にだけ広がった。

「俺マジで忙しいんだけど……」

 ふと立ち上がり、大鎌を片手で持ち上げ投げて、不浄な聖霊寮の空気を横に真っ二つに裂き始めた。

 赤い目から刃物が遠ざかってゆく。はるか向こうで人影が破り捨てた紙片のように散り散りに地面へ落ちた――。

 その時、千里眼の持ち主は心の目で、建物の天井を無視して、空から降ってくるものを見つけた。

(金の光……?)

 ――天使の輪もない、山吹色のボブ髪は常世を不意に吹いてきた風に煽られ、男の綺麗な肌を舐めるように揺れる。

 片腕を大きく上げて、白い細い身のズボンとジャケットの裾が、旗のように激しく翻る。

 赤いふたつの目は熱はまったくなく、どこまでも無機質で冷たく非情だった。すらっとした体躯を持つ男の背中に、すうっと光の筋が迫ってくる。

 猛スピードで、男に向かって大鎌が戻ってきて、ズシャーンと鉄の歪む音がすると、金の光は藤色の髪が少しだけはみ出している、カウボーイハットの中へ入った。

 男の背中にまるで守られているような、崇剛の冷静な水色の瞳はついっと細められる。

(国立氏にも、直感、天啓を受けるという傾向があるみたいです。今、初めて知りました。何をおっしゃるのでしょう?)

 茶色のロングブーツが優雅に組み直されると、ダガーの柄がソファーにすれ、ググッとうなった。短くなった葉巻を、国立は挟み持ちし、唇と指に熱を感じながら、

「今思い出したけどよ……。今回のヤマってよ、邪さんの一番上、何つったか? 何……大魔王だったか? 二百人も動かせんの、そいつが関係してんじゃねえのか?」

 他の聖霊師が誰も知らない名前が、遊線が螺旋を描く優雅で独特の声で、不浄な聖霊寮の空気を支配するように響いた。
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