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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
Karma-因果応報-/4
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中心街が湖のような向こう岸で、今日も女神の名が由来とされるクロソイド曲線が横たわっていた。
庭崎市の人々を魅了してやまない三沢岳。その美しい姿を存分に堪能できる、対岸の小高い丘にあるベルダージュ荘では、春の彩りを添える花々が咲き乱れる。
花言葉の愛を歌い上げる芳醇なバラ。細長いボディーを妖艶に揺らす紫色のアイリス。
王家の威厳を放つ女王陛下のような百合。輝くばかりの美という異名を持つ、レースのようなオレンジ色のアマリリス。
彼女たちを高い場所から見守るような、白い十字の花を咲かせる花水木。
芸術という精彩を放つ花壇の貴婦人たちを前にして、純真無垢な宇宙が広がる、小さなベビーブルーの瞳はキラキラ輝いていた。
「わぁ、きれい」
感嘆の幼い声が上がると、背後の空に近い位置から、はつらつとした少し鼻にかかる声の声が降ってきた。
「瞬、薔薇はトゲがあるから気をつけるんだぞ」
「うん!」
涼介が息子のすぐ後ろにしゃがみ込むと、ブーンとジェットコースターのように回転線を描き、春爛漫に向かって真っ直ぐに飛んできた、黄色と茶色の縞模様を体にまとった花のキューピッドを、瞬は満面の笑みで見つめる。
「パパ、ハチさんが、おはなをさかせるんだよね?」
振り返った我が子の柔らかなひまわり色の髪を、父の大きな手が優しくなでる。
「そうだ。よく知ってるな」
「せんせいがおしえて――」
「す、すみません!」
親子の楽しい会話が、落ち着きのない男の声で強制終了させられてしまった。
「はい?」
涼介が門へ振り返ると、そこには真っ白な髪をした、七十代ぐらいの男がずいぶん焦っている様子で、こちらへ向かって歩いてくるところだった。
*
レースのカーテンで目隠しされた部屋へ、春の穏やかな香気が風に乗って入り込んでいた。
紺の長めの髪は細いターコイズブルーのリボンで、わざともたつかせ縛られている。
インクの匂いを漂わせている、文字が書かれた列の両端をつかみ、冷静な水色の瞳が記事をなぞると、デジタルな頭脳へ瞬時に記録されてゆく。
白い布が巻かれた右手で一枚まためくる。芸術とも呼べる記憶力の持ち主――崇剛はある記事で視線を止めた。
「シュトライツ王国、民衆から王家への抗議絶えず――」
遠い空の下にある他国の出来事。霊的に自分たちが関係しているであろう報道から、視線をそらして誌面の端を物憂げに見た。
「五月二日、月曜日」
血はすでに完全に止まっているが、傷口がまだ塞がり切れていない手を、ポケットの中にある懐中時計に外側から触れる。
「九時五十四分十一秒……」
インデックスをつけようとすると、部屋のドアがノックされた。
「はい?」
「崇剛、恩田さんが見えているんだが……」
涼介の声がドアの向こうから聞こえ、
「そうですか」
持っていた新聞を折りたたみ始めた。
(国立氏から先ほど連絡がありましたが、やはり私のところへきたのですね)
残っていたアールグレーの紅茶を飲もうとすると、
「何があったんだ? 最初別の人かと思った……」
予測はつくが、正確には知らなかった。崇剛は紅茶を飲み終えてソーサーへ戻す。
改心させるためには情報が少ない。できないかもしれないが、可能性はゼロではない。崇剛は元の前世と百五十六人分の魂の行方を知りたがった。
「診察室へ通してください」
「わかった」
アーミーブーツがカタカタと音を立てながら、部屋から遠ざかっていきそうになった。優雅な策略家は全ての可能性の数値を頭の中へ並べて、守るべきものが何で、どうするべきか弾き出した。
「涼介?」去って行こうとしていた執事を、策略的な主人は優雅な声で呼び止めた。
「何だ?」
さっきより少し離れたところで、執事の声が響き渡った。
「瞬はそばにこさせないようにしてください」
一瞬の間があったが、
「わかった」
涼介はそう言い残すと、崇剛の部屋から離れていった。いつもはつらつとしたベビーブルーの瞳が少しだけ陰る。
「邪神界だったんだな、あの人は……。罪が償えるといいな」
アーミーブーツの足音が聞こえなくなると、崇剛は身嗜みを整えて、自室から出て一階の診察室へ向かおうとした。
突然、頭上から聖なる光白いローブがすうっと降りてきた――。
庭崎市の人々を魅了してやまない三沢岳。その美しい姿を存分に堪能できる、対岸の小高い丘にあるベルダージュ荘では、春の彩りを添える花々が咲き乱れる。
花言葉の愛を歌い上げる芳醇なバラ。細長いボディーを妖艶に揺らす紫色のアイリス。
王家の威厳を放つ女王陛下のような百合。輝くばかりの美という異名を持つ、レースのようなオレンジ色のアマリリス。
彼女たちを高い場所から見守るような、白い十字の花を咲かせる花水木。
芸術という精彩を放つ花壇の貴婦人たちを前にして、純真無垢な宇宙が広がる、小さなベビーブルーの瞳はキラキラ輝いていた。
「わぁ、きれい」
感嘆の幼い声が上がると、背後の空に近い位置から、はつらつとした少し鼻にかかる声の声が降ってきた。
「瞬、薔薇はトゲがあるから気をつけるんだぞ」
「うん!」
涼介が息子のすぐ後ろにしゃがみ込むと、ブーンとジェットコースターのように回転線を描き、春爛漫に向かって真っ直ぐに飛んできた、黄色と茶色の縞模様を体にまとった花のキューピッドを、瞬は満面の笑みで見つめる。
「パパ、ハチさんが、おはなをさかせるんだよね?」
振り返った我が子の柔らかなひまわり色の髪を、父の大きな手が優しくなでる。
「そうだ。よく知ってるな」
「せんせいがおしえて――」
「す、すみません!」
親子の楽しい会話が、落ち着きのない男の声で強制終了させられてしまった。
「はい?」
涼介が門へ振り返ると、そこには真っ白な髪をした、七十代ぐらいの男がずいぶん焦っている様子で、こちらへ向かって歩いてくるところだった。
*
レースのカーテンで目隠しされた部屋へ、春の穏やかな香気が風に乗って入り込んでいた。
紺の長めの髪は細いターコイズブルーのリボンで、わざともたつかせ縛られている。
インクの匂いを漂わせている、文字が書かれた列の両端をつかみ、冷静な水色の瞳が記事をなぞると、デジタルな頭脳へ瞬時に記録されてゆく。
白い布が巻かれた右手で一枚まためくる。芸術とも呼べる記憶力の持ち主――崇剛はある記事で視線を止めた。
「シュトライツ王国、民衆から王家への抗議絶えず――」
遠い空の下にある他国の出来事。霊的に自分たちが関係しているであろう報道から、視線をそらして誌面の端を物憂げに見た。
「五月二日、月曜日」
血はすでに完全に止まっているが、傷口がまだ塞がり切れていない手を、ポケットの中にある懐中時計に外側から触れる。
「九時五十四分十一秒……」
インデックスをつけようとすると、部屋のドアがノックされた。
「はい?」
「崇剛、恩田さんが見えているんだが……」
涼介の声がドアの向こうから聞こえ、
「そうですか」
持っていた新聞を折りたたみ始めた。
(国立氏から先ほど連絡がありましたが、やはり私のところへきたのですね)
残っていたアールグレーの紅茶を飲もうとすると、
「何があったんだ? 最初別の人かと思った……」
予測はつくが、正確には知らなかった。崇剛は紅茶を飲み終えてソーサーへ戻す。
改心させるためには情報が少ない。できないかもしれないが、可能性はゼロではない。崇剛は元の前世と百五十六人分の魂の行方を知りたがった。
「診察室へ通してください」
「わかった」
アーミーブーツがカタカタと音を立てながら、部屋から遠ざかっていきそうになった。優雅な策略家は全ての可能性の数値を頭の中へ並べて、守るべきものが何で、どうするべきか弾き出した。
「涼介?」去って行こうとしていた執事を、策略的な主人は優雅な声で呼び止めた。
「何だ?」
さっきより少し離れたところで、執事の声が響き渡った。
「瞬はそばにこさせないようにしてください」
一瞬の間があったが、
「わかった」
涼介はそう言い残すと、崇剛の部屋から離れていった。いつもはつらつとしたベビーブルーの瞳が少しだけ陰る。
「邪神界だったんだな、あの人は……。罪が償えるといいな」
アーミーブーツの足音が聞こえなくなると、崇剛は身嗜みを整えて、自室から出て一階の診察室へ向かおうとした。
突然、頭上から聖なる光白いローブがすうっと降りてきた――。
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