明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

Nightmare/2

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 トントン!

 ドアをノックする音がした。それは今までと違って、ずいぶん下のほうから聞こえてきた。

 揺れ続けていたオアシスのようなピアノの響きはピタリと止んだ。紺の髪は振り返った衝動で、少し乱れ神経質な頬へかかった。

 ロイヤルブルーサファイアのカフスボタンをともなった、神経質な手はあごに当てられ、崇剛は違和感を強く持った。

「下のほうから聞こえてきています。力の強さも弱いみたいです……。そうなると、ドアをノックしたのは――」

 可能性から導き出した答えを、崇剛はドアの向こう側にいる人へ問いかけた。

「そちらにいるのは瞬ですか?」
「うん、そう」

 その通り、幼い声がくぐもって返ってきた。

 珍しい訪問客を迎え入れるため、茶色のロングブーツは床を横切ってゆく。

「今開けますから、待っていてくれますか?」
「わかった」

 素直な返事を聞きながら、崇剛は水色の瞳をついっと細める。

 今まで、瞬が私の部屋のドアをノックしたことは一度もありませんでした。
 おかしいみたいです。
 何かあったのでしょうか?

 優雅な足音が部屋の中で足早に響き、神経質な手で金のドアノブを開けた。手前へ引き入れると、小さな住人しかおらず、目線を合わせるため、崇剛は片膝を立てたまましゃがみ込んだ。

「どうかしたのですか?」

 瞬の表情は少し曇っていて、落ち着きなく胸の前で、人差し指同士をトントンと合わせながら、

「あのね?」
「えぇ」

 魔除のローズマリーが主人と純真無垢な子供を守るようにふんわりと包み込んだ。いるはずの執事がいないとなると、涼介に何かがあったと、誰にでも想像がつく。

 先を促された瞬は、しょんぼり下を向いた。

「パパ、げんきないの」
「そうですか」

 崇剛はあごに手を当てて、執事の情報を冷静な頭脳の中にザーッと流し始めた。

 朝、様子がおかしいように見えた。
 何か考えているように見えた。
 ですが、本人が私のところへこないのはおかしいです。
 そうなると、涼介が私のところへこられない何かがあるという可能性98.89%――

 子供を心配させないように、崇剛は優雅に微笑んで、質問を投げかけた。

「涼介は何か言っていましたか?」

 瞬のひまわり色のウェーブ髪は横へ揺れる。

「ううん」
「そうですか」

 間を置く言葉を使い、ささっと情報をまとめる。

 屋敷には結界が張られています。
 従って、悪霊などによる体調不良ではないという可能性が99.99%――

 秋風に紺の髪が揺れ、さらに考えをめぐらせようとすると、瞬の心配そうな声が割って入ってきた。

「どうしちゃったのかな?」

 細く神経質な手をあごから離し、小さな頭を優しくなでた。

「あなたは優しいのですね、私に教えにきたのですから」
「ん……」

 瞬は床を見つめたまま、自分のシャツの裾を落ち着きなく伸ばした。

 小さな子供の心を救おうと、崇剛は的確に質問を続ける。

「涼介はどちらにいますか?」
「きょうかい」

 子供からの返答。修飾語がなく、単語ひとつのみ。情報は少ないが、間を置く言葉をまた使い、

「そうですか」

 素早く可能性を導き出した。

 瞬が知っている教会はふたつあります。
 ひとつは私がよく行く旧聖堂。
 ふたつ目はこちらの屋敷に併設したもの。
 瞬が旧聖堂へ行くという可能性は0.56%――
 非常に低いです。
 なぜなら――
 私が倒れているところを、涼介が何度も助けにきています。
 そのような危険な場所へ、瞬を行かせるようなことを親である涼介はしません。
 瞬は素直であるという傾向があります。
 ですから、約束を破るようなことはしません。
 従って、涼介がいる場所は――

 ここまでの思考時間、約一秒――

 崇剛はさっと立ち上がって、可能性から突き止めた執事の居場所を小さな子供へ告げた。

「一階へ一緒に行きましょうか?」

 心強い味方ができて、瞬は目を輝かせながら元気にうなずいた。

「うん!」

 崇剛は部屋の鍵を閉め、ズボンのポケットへそれを何気ない仕草で入れた。自身の小さい頃を思い出し、すぐそばにいる子供の気持ちを予測する。

「手はつなぎますか?」――寂しいのではありませんか?
「うん! つなぐ!」

 まるで本当の親子のように、二階の廊下を子供の歩調に合わせ、崇剛はゆっくり歩き出した。
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