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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
Nightmare/5
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「私にも話せない内容なのですか? 今まで何かあった時は、私のところへあなたは相談しにきていましたよ」
涼介は珍しく困った顔をした。視線をそらし、祭壇の向こうにある冷厳なブルーのステンドグラスを眺めた。
「あ~っと、それは……。今回ばかりは、お前にも言いづらいことなんだよな……」
「厳しい言葉かもしれませんが、仕事はしていただかないと困りますよ。こちらの屋敷の人々の一番上――責任者なのですから、執事のあなたは」
主人からの叱り。それでも、涼介の瞳はまだステンドグラスの青で満たされたままで、唇をかみしめた。
「……わかってる。ただ……」
「えぇ」
「その……」
「時間がありませんよ。瞬も含めて、みなさん待っているのですから」
「あぁ、そうだな……」
何とも歯切れのよくない執事。主人はどんな小さな情報でも得たいがために、涼介からまったく視線をはずさなかった。
「内容はいいですから、何があったのかだけでも教えてください。そちらだけで判断できるのであれば、話す必要はないかもしれません」
天井の高さが、神世へと続く階段のように思えるドーム型を、涼介はしばらく見つめていたが、崇剛にやっと視線を戻した。
「んー……夢を見たんだ」
「そうですか。どのような夢だったのですか?」
特に問題がなさそうな執事の答え。主人は当然の質問を投げかけた。
涼介は崇剛が座っている参列席のテーブルを、苦悩の瞳で見つめ、
「どうすればいいんだ?」うなるように続ける。「話したくないが……伝える方法って、何があるんだ?」
感覚的な執事は主人の特徴をど忘れてしていた。迷える子羊――。
「千里眼を使って見ましょうか?」メシア保有者は何の感情も交えず、手を差し伸べた。
「話せないのであれば、そちらの方法で私が見ますよ。解決していただかないと、あなたを含めて、みなさんが困りますからね」
感情は時に決断力を鈍らせる――。今の涼介がまさしくそうだった。小さな声でボソボソと自問自答する。
「……そうだな、それが一番いいよな? 口に出して、説明するのはちょっとな……」
視線は自分の手元へと落ちたままで、うつむいている涼介のひまわり色の髪を、崇剛は冷静にうかがっていた。
「どうしますか? あなたの了承も得ずに、私は見るつもりはありません。心霊関連の事件ではないみたいですからね。見てほしくないのであれば、あなた自身で解決をしてください」
優柔不断な感情という荒波から、砂浜へ何とか戻ってきた執事は、主人に真剣な顔をやった。
「少し怖い気もするが、このままじゃ、仕事に身が入らないしな……。じゃあ、見てくれ」
次の情報を的確に、策略的な主人は収集してゆく。
「あなたのプライベートを必要以上に見るつもりはありません。何時頃でしたか?」
とにかくひどいショックで、涼介は記憶を思い出すにも時間がかかった。
主人の長い髪の紺。
それを束ねているリボンのターコイズブルー。
貴族的な上着の瑠璃色。
シルクの袖口の住人――カフスボタンのロイヤルブルーサファイア。
聖堂へ入り込む神がかりな光るシャワーの青。
それらを見渡した涼介は、冷静さを取り戻すカラーに手伝われて、やっと口を開いた。
「……四時少し前だった。飛び起きて、時計を見たから間違ってない」
「そうですか」
崇剛は顔色ひとつ変えず、どうとでも取れる相づちを打ち、
今朝、十月十八日、火曜日、四時前――
千里眼の時刻を巻き戻し、照準を合わせた。
そうして、人に記憶を見られるという恐怖心を持つことになってしまった執事へ、主人は最後の確認を取った。
「それでは夢だけを見ます。よろしいですか?」
「あぁ、お願いする。かなり変な夢だから、お前も珍しく驚くかもしれないな」
涼介の感情である先入観をデジタルに切り捨て、崇剛は優雅に一言断りを入れた。
「それでは、失礼――」
それきり会話はなくなり、静かな聖堂で男ふたり黙ったまま向かい合い、同じ夢という記憶を共有し始めた――
涼介は珍しく困った顔をした。視線をそらし、祭壇の向こうにある冷厳なブルーのステンドグラスを眺めた。
「あ~っと、それは……。今回ばかりは、お前にも言いづらいことなんだよな……」
「厳しい言葉かもしれませんが、仕事はしていただかないと困りますよ。こちらの屋敷の人々の一番上――責任者なのですから、執事のあなたは」
主人からの叱り。それでも、涼介の瞳はまだステンドグラスの青で満たされたままで、唇をかみしめた。
「……わかってる。ただ……」
「えぇ」
「その……」
「時間がありませんよ。瞬も含めて、みなさん待っているのですから」
「あぁ、そうだな……」
何とも歯切れのよくない執事。主人はどんな小さな情報でも得たいがために、涼介からまったく視線をはずさなかった。
「内容はいいですから、何があったのかだけでも教えてください。そちらだけで判断できるのであれば、話す必要はないかもしれません」
天井の高さが、神世へと続く階段のように思えるドーム型を、涼介はしばらく見つめていたが、崇剛にやっと視線を戻した。
「んー……夢を見たんだ」
「そうですか。どのような夢だったのですか?」
特に問題がなさそうな執事の答え。主人は当然の質問を投げかけた。
涼介は崇剛が座っている参列席のテーブルを、苦悩の瞳で見つめ、
「どうすればいいんだ?」うなるように続ける。「話したくないが……伝える方法って、何があるんだ?」
感覚的な執事は主人の特徴をど忘れてしていた。迷える子羊――。
「千里眼を使って見ましょうか?」メシア保有者は何の感情も交えず、手を差し伸べた。
「話せないのであれば、そちらの方法で私が見ますよ。解決していただかないと、あなたを含めて、みなさんが困りますからね」
感情は時に決断力を鈍らせる――。今の涼介がまさしくそうだった。小さな声でボソボソと自問自答する。
「……そうだな、それが一番いいよな? 口に出して、説明するのはちょっとな……」
視線は自分の手元へと落ちたままで、うつむいている涼介のひまわり色の髪を、崇剛は冷静にうかがっていた。
「どうしますか? あなたの了承も得ずに、私は見るつもりはありません。心霊関連の事件ではないみたいですからね。見てほしくないのであれば、あなた自身で解決をしてください」
優柔不断な感情という荒波から、砂浜へ何とか戻ってきた執事は、主人に真剣な顔をやった。
「少し怖い気もするが、このままじゃ、仕事に身が入らないしな……。じゃあ、見てくれ」
次の情報を的確に、策略的な主人は収集してゆく。
「あなたのプライベートを必要以上に見るつもりはありません。何時頃でしたか?」
とにかくひどいショックで、涼介は記憶を思い出すにも時間がかかった。
主人の長い髪の紺。
それを束ねているリボンのターコイズブルー。
貴族的な上着の瑠璃色。
シルクの袖口の住人――カフスボタンのロイヤルブルーサファイア。
聖堂へ入り込む神がかりな光るシャワーの青。
それらを見渡した涼介は、冷静さを取り戻すカラーに手伝われて、やっと口を開いた。
「……四時少し前だった。飛び起きて、時計を見たから間違ってない」
「そうですか」
崇剛は顔色ひとつ変えず、どうとでも取れる相づちを打ち、
今朝、十月十八日、火曜日、四時前――
千里眼の時刻を巻き戻し、照準を合わせた。
そうして、人に記憶を見られるという恐怖心を持つことになってしまった執事へ、主人は最後の確認を取った。
「それでは夢だけを見ます。よろしいですか?」
「あぁ、お願いする。かなり変な夢だから、お前も珍しく驚くかもしれないな」
涼介の感情である先入観をデジタルに切り捨て、崇剛は優雅に一言断りを入れた。
「それでは、失礼――」
それきり会話はなくなり、静かな聖堂で男ふたり黙ったまま向かい合い、同じ夢という記憶を共有し始めた――
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