669 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
Nightmare/6
しおりを挟む
――清々しい青空が突如広がった。
頬をかすめてゆく風は、実りの香りを全身へ惜しげもなく与えてゆく。それに乗るように、横へ流れる川のようにサラサラと、細い糸のようなものが波打っていた。
「ん?」
正体を確かめようとすると、最初に目へ飛び込んできたのは色だった。
「黒……?」
まじりっ気のない黒。陽の光を反射して、キラキラと輝く。感触は今までの人生で、よく味わったことがあるもの。
「……髪? 誰のだ?」
いきなり始まった夢の世界――。
隣に人の気配がすることに今気づかされた。焦点を鼻先から右へ向け、少し遅れて顔をそっちへやると、そこには、長い髪を高く結い上げた男が立っていた。
窓の外を見つめている瞳は瑠璃紺色。聡明という言葉に尽きる。眉は凛々しいのに、穏やかな春の日差しみたいな柔らかさを持っていた。
「誰かに何かが似てる……」
この雰囲気はどこかで――涼介は直感した。毎日顔を合わせている主人の、あの猛吹雪を感じさせるようなクールさと同じ。
いや違う。あれを勝るほどの永遠に溶けることのない氷河期みたいな冷酷さ。それなのに、
「ふふっ」
もらす笑い声は春風みたいに柔らかで、氷河期と思ったのは、錯覚だったとすぐに否定の一途をたどった。
整った顔立ち――天国から降臨してきたような神秘的な人物。しかし、頭の上に光る輪っかはなく、背中に立派な翼もない。自分と同じ人間。
だと思ったが、涼介は威圧感を抱いて、視線を上げた。
「背でかいな……」
九十五センチもあり、ガタイのいい自分。そうそう大きい男に会ったことはないが、二メートルは絶対に越しているだろうという背丈の男が、ふんわり微笑んでいる。
白いローブに身を包み、主人のそばを通ると、いつも香ってくる魔除のローズマリーの匂いが漂っていた。
「It looks like this」
男が不意に手を上げると、ラピスラズリの瑠璃色をはめ込んだ、金の腕輪が同じ色の髪飾りを指先で弄んだ。
涼介は今言われた言語の前にただ立ち尽くした。
「何て言ったんだ?」
男は気にした様子もなく、開いている窓枠に両肘を乗せて、景色を楽しんでいるようだった。
「So beautiful……」
「何をしてるんだ?」
涼介はつられて、外の景色を眺める。とてもいい天気で、三沢岳の紅葉が望めた。
「I wanna come once. Why does my mind get rested?」
聡明な瑠璃紺色の瞳は少しだけ陰ったように思えたが、春風みたいに微笑んで、
「God bless us? Do you think so?」
可愛く小首を傾げて、涼介の瞳をじっとのぞき込むようにした。涼介は何とかひとつ訳せた。
「神さまが何だ?」
戸惑っている涼介を置いて、誰が聞いても好青年で間違いないという声色で、男は流暢に話してゆく。
「Are you such a person?」
「今度は何て言った?」
黒の長い髪を指先でつまんで、すいてゆくようにツーと伸ばしては、短いものから、男の胸元へさらさらと落ちてゆく。
「Wadaya do if I do this?」
今は秋だというのに、春風が吹いたようにふんわり微笑んで、男は嬉しそうに言った。
「Translation!」
何が何だかわからないが、涼介の勘が異変を感じ取った。男は真っ直ぐ立ち上がって、目を潤ませ、白いローブが妖しく近づいてきた。
「I'll excite your hair ’n’ skin smell sweet」
不思議なことが起きた。さっきまで、まったく意味のわからなかった涼介だったが、
「俺の髪と肌がいい匂いがする……?」
きちんと理解していた。しかし、相手の言動に違和感を強く持つ。
頬をかすめてゆく風は、実りの香りを全身へ惜しげもなく与えてゆく。それに乗るように、横へ流れる川のようにサラサラと、細い糸のようなものが波打っていた。
「ん?」
正体を確かめようとすると、最初に目へ飛び込んできたのは色だった。
「黒……?」
まじりっ気のない黒。陽の光を反射して、キラキラと輝く。感触は今までの人生で、よく味わったことがあるもの。
「……髪? 誰のだ?」
いきなり始まった夢の世界――。
隣に人の気配がすることに今気づかされた。焦点を鼻先から右へ向け、少し遅れて顔をそっちへやると、そこには、長い髪を高く結い上げた男が立っていた。
窓の外を見つめている瞳は瑠璃紺色。聡明という言葉に尽きる。眉は凛々しいのに、穏やかな春の日差しみたいな柔らかさを持っていた。
「誰かに何かが似てる……」
この雰囲気はどこかで――涼介は直感した。毎日顔を合わせている主人の、あの猛吹雪を感じさせるようなクールさと同じ。
いや違う。あれを勝るほどの永遠に溶けることのない氷河期みたいな冷酷さ。それなのに、
「ふふっ」
もらす笑い声は春風みたいに柔らかで、氷河期と思ったのは、錯覚だったとすぐに否定の一途をたどった。
整った顔立ち――天国から降臨してきたような神秘的な人物。しかし、頭の上に光る輪っかはなく、背中に立派な翼もない。自分と同じ人間。
だと思ったが、涼介は威圧感を抱いて、視線を上げた。
「背でかいな……」
九十五センチもあり、ガタイのいい自分。そうそう大きい男に会ったことはないが、二メートルは絶対に越しているだろうという背丈の男が、ふんわり微笑んでいる。
白いローブに身を包み、主人のそばを通ると、いつも香ってくる魔除のローズマリーの匂いが漂っていた。
「It looks like this」
男が不意に手を上げると、ラピスラズリの瑠璃色をはめ込んだ、金の腕輪が同じ色の髪飾りを指先で弄んだ。
涼介は今言われた言語の前にただ立ち尽くした。
「何て言ったんだ?」
男は気にした様子もなく、開いている窓枠に両肘を乗せて、景色を楽しんでいるようだった。
「So beautiful……」
「何をしてるんだ?」
涼介はつられて、外の景色を眺める。とてもいい天気で、三沢岳の紅葉が望めた。
「I wanna come once. Why does my mind get rested?」
聡明な瑠璃紺色の瞳は少しだけ陰ったように思えたが、春風みたいに微笑んで、
「God bless us? Do you think so?」
可愛く小首を傾げて、涼介の瞳をじっとのぞき込むようにした。涼介は何とかひとつ訳せた。
「神さまが何だ?」
戸惑っている涼介を置いて、誰が聞いても好青年で間違いないという声色で、男は流暢に話してゆく。
「Are you such a person?」
「今度は何て言った?」
黒の長い髪を指先でつまんで、すいてゆくようにツーと伸ばしては、短いものから、男の胸元へさらさらと落ちてゆく。
「Wadaya do if I do this?」
今は秋だというのに、春風が吹いたようにふんわり微笑んで、男は嬉しそうに言った。
「Translation!」
何が何だかわからないが、涼介の勘が異変を感じ取った。男は真っ直ぐ立ち上がって、目を潤ませ、白いローブが妖しく近づいてきた。
「I'll excite your hair ’n’ skin smell sweet」
不思議なことが起きた。さっきまで、まったく意味のわからなかった涼介だったが、
「俺の髪と肌がいい匂いがする……?」
きちんと理解していた。しかし、相手の言動に違和感を強く持つ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!
奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。
ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。
ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる