明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

Before the battle/10

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 さっきからずっとポーズを決めていたシズキは、今にも刺し殺しそうな鋭利なスミレ色の瞳を敵の真正面へ向けたまま、

「敵の数は?」

 自身も消滅して死ぬかもしれないというのに、ラジュの辞書にはシリアスという言葉は存在していなかった。ニコニコしながら、

五十万飛んで三千四百五十七人です~」ゆるゆる~っと語尾を伸ばすと、「カミエ、出番が来ましたよ~」

「しかと受け取った!」

 修業バカ天使は彼なりの笑み――目を細めて、地鳴りのような低い声で突っ込んだ。

「意・味・不・明、だ。一桁まではっきり言っている」

 次々に笑いという罠を仕掛けてくるラジュの前で、崇剛はとうとう手の甲を唇に当てて、くすくす笑い出した。

「なぜ、なのでしょう? そちらの言葉を使うのであれば、約五十万三千人でよいのではありませんか」

 本当の意味での聖戦争へと、千里眼の持ち主と魔導士は巻き込まれていたが、ラジュの慈悲でまったく深刻にはならなかった。

 囮役のメシア保有者のふたりと同じ次元へと、天使たちは降臨してきた。

 ラジュはニコニコしていたが、声色はいつもよりトーンが低く真剣味を増していた。

「崇剛、ダルレシアン?」

 呼ばれたふたりからも微笑みは消え、真摯な眼差しでラジュを見つめ返した。

「えぇ」
「何?」

 祭壇を背にして身廊に並んで立っている、一番狙われるであろうふたりを前にして、ラジュの凛とした澄んだ声が、静まり返っている空間に響き渡った。

「肉体を持ったままでは不利ですので、私とカミエでふたりを幽体離脱させます。参列席へ座ってください」

 いよいよシリアスに話が進みそうだったが、

「立ったまま幽体離脱させると、肉体が倒れてしまいますからね。そちらでも、私個人としては構わないのですが~、うふふふっ」

 ラジュの含み笑いは、地獄へ突き落とすような不気味さを含んでいた。

「えぇ、構いませんよ」

 瑠璃色の貴族服は左側へそれ、ダルレシアンの白いローブは右へと分かれた。

「どんな感じになるの?」
「してみればわかりますよ~」

 参列席にそれぞれ座ると、崇剛の背後へラジュが立ち、ダルレシアンの背後にはカミエが構えた。

「それではいきますよ。シャアッ!!」

 猫がケンカしているみたいなラジュの声が響くと、待機していた天使はみんな首を傾げた。

「その叫び声は何だ?」
「押せばいいだけだ。声は余計だ」

 カミエはあきれた顔をしながら、ダルレシアンの霊体の右肩をずらすように前へ押した。

 茶色いロングブーツは戸惑うことなく、身廊の白く濁っている大理石の上へ、優雅に歩み出てきた。

「ふ~ん、こんな感じなんだ」

 ダルレシアンも慣れないながらも、同じように中央へ出てきて、

「うわ~、体が軽いね」

 初めての体験をしっかりと脳に記憶した。慣れている崇剛の補足がつく。

「重力は十五分の一で、自身の想像した通りにある程度は動けます」
「そう」

 自分が自分を見ている状態――幽体離脱。

「あ、ボクだ」

 正体不明になった崇剛とダルレシアンの肉体が、机の上にそれぞれ突っ伏していた。

「ダルレシアン? みなさんを見えるようになりましたか?」

 視界が効かないというのは、戦うにはかなりの不利だ。しかし、同じ魂となれば、見えるという可能性が上がると、崇剛は読んでいた。

 聡明な瑠璃紺色の瞳に、霊界の荒野を映そうとする。

「ん~?」

 ダルレシアンが可愛く小首をかしげると、高く結い上げた漆黒の髪がローブの肩からサラサラと落ちた。

「ダルレシア~ン、見えますか~? ラジュです~」

 ラジュは魔導師の顔をのぞき込もうと、少し屈んでみた。金髪がダルレシアンの瞳に映るが、どこか焦点が合わないようだった。

 振っていた手のひらの前に、アドスのガタイのいい体が割って入ってくる。

「ダルレさん、どうすか?」
「ん~ん?」

 ダルレシアンは眉間にシワを寄せて、反対側に首を傾げると、髪がサラサラと背中で大きく揺れた。

「見えますか? クリュダです」

 三人の天使が目の前に立っていたが、ダルレシアンの聡明な瞳はまったく反応しなかった。

「う~ん、声は聞こえるけど、見えないね」
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