明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

文字の大きさ
710 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜

Time of judgement/6

しおりを挟む
 崇剛とダルレシアンが大将。彼らが落とされれば、この戦いは負けとなる。ふたりを守ように控えていたナールが、ふと右手を大きくかかげた。

 荒野の果てから黒い塊が猛スピードで向かってくる。ナールにみるみる近づいてきて、その正体が明らかになる――大鎌だ。

 二メートル越えをしている天使の背丈よりも大きい武器。

 崇剛はあごに神経質な手を当てて、水色の瞳をついっと細めた。あの夜が鮮明に蘇る。情報を得たいばかりに、瑠璃を守りたいばかりに、奮闘した苦い夜――。

 朦朧とする意識の中だったが、自身の首を切ったのは大鎌だった。あの重い鉄が地面を引きずられてくる、ズーズーと不気味な音が耳にこびりついている。

 首が切られたあとに見た、ナールの赤い目ふたつ。

 カミエが倒したのも大鎌を持った敵だった。同じ人物だと、彼は言わなかった。

 そこから考えると、ナールがあの夜にいた大鎌の敵という可能性は消え去らない。彼は一体何者なのだ――。

 崇剛が疑問に思っている隣で、大鎌を肩にかかげたナールに、シズキが催促する。

「貴様も戦え」

 ナールは大鎌を体の前に立てて、街でナンパするように軽薄的に話し出した。

「これさ、扱いが難しいんだよね」
「大鎌など振ればいいだけだろう」

 シズキの不機嫌顔にさらに磨きがかかる。何を寝ぼけたことを言っているのだ。これだけ大きな刃物だ。数打ちゃ当たるではないが、数振りゃ当たるだろう。拳銃よりも格段に簡単な武器ではないか。

「カミエがさ」

 白い袴姿の男の名が、ナールの綺麗な唇から出てきて、シズキの鋭利なスミレ色の瞳は戦場で戦うカミエを捉えた。またあの男のことだ。

「修業バカがどうした?」
「前に教わったの。あいつ武術得意だからさ」

 指導を直々にたまわったという。修業のために生きているような、あの男に。

「その通りに使えばいいだろう」

 ナールの彫刻像のように彫りの深い横顔を、シズキは少しだけにらんだ。

「それがさ」

 器用さが目立つ手で、ナールは大鎌を真っ直ぐ持ち上げて、自分と並行になるようにするが、急に専門用語だらけになった。

「武器の正中線と俺の正中線を合わせて、重力に逆らわずに持ち上げろって」

 その通り、発泡スチロールのように軽々と大鎌を後ろへ倒し、「で、武器の重みだけでおろすって」腕の力は極力抜くと、落下速度だけでも地面にガシャんと刃がめり込んだ。

「?」

 シズキは首をかしげる。ただ振り下ろせば、敵は倒せるだろうに。そんな難しいウンチクが必要か。あの修業バカは車の普通免許じゃ飽き足らず、F1レーサー並みの技術を要求するとは。

 ノーリアクションのシズキの代わりに、すぐ隣で聞いていたラジュが言葉を添えた。

「そちらは、無住心剣流むじゅうしんけんりゅうの教えです~」

 三沢岳の山頂で、艶やかな刀さばきで敵を倒した技を、ナールに伝授していたカミエだった。

 カミエは武道家で修業をすることが人生の全てだが、ナールはどちらかというと、体育会系ではなく頭脳派。

 大鎌を自分の体と並行に立てようとしながら、赤い目ふたつでじっと見つめる。

「考えちゃうんだよね? こう武器と自分を合わせるって? ってさ」

 カミエは修業という名の感覚で、武器を扱ってはいるが、理論で物事を考えるナールには、感覚という曖昧なものを体感できるセンスは持ち合わせていないのだ。

 さっきから思っていたいたが、シズキの腹の中ではぐつぐつとマグマが沸騰するほどイライラとしていて、とうとう言ってしまった。

「理論はいいから、敵の中へ行って振るえば、それだけ大きな刃だ、誰かには絶対に当たるだろう」

 それなのに、ナールは赤い目で、乱戦している戦場をただただ眺める。

「もっと効率いい戦い方したいんだよね」

 おかしなことを言う。というか、この男らしい発想だと、シズキは思った。完璧なまでに合理主義者で無機質。それがナールを作る要素だ。

「そうね……? こうしちゃう?」――

 軽薄的に言うと、大鎌を横向きに構え、何と手裏剣と同じように横滑りさせて敵陣へ放り投げた。

 いきなり迫ってきた大鎌の鋭い刃に、敵はひとたまりもなかった。

「うぎゃぁ~!」
「うわ~!」

 次々と体が切断され、魂が浄化されてゆく。

 ナールの空っぽになった手のひらを見つめて、シズキはバカにしたように鼻で笑った。

「貴様、どういうつもりだ? 武器を敵に投げるとは戻ってこないだろう」 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!

奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。 ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。 ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...