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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
探偵は刑事を誘う/4
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魔導師の罠は何だ――。可能性の数値を正確に導き出したいところだが、出会ってまだ一日も経っていないダルレシアンのデータは完全に不足していた。
「なぜ、一緒についてくるのですか?」
白いローブを風に揺らめかせながら、ダルレシアンは右へ左へ行ったり来たりする。
「ボクはもう教祖じゃない。だから、新しく誰かの役に立てることを探したいんだ。その可能性のひとつとして、キミの手伝いをするのもあると思ってね」
「そうですか」崇剛は相づちを打ったが、冷静な水色の瞳は心の中でついっと細められた。今から四つ前の質問――男の人? と、つじつまが合わない。魔道師の狙いは何だ――。
会話がチェスの盤上ならば、質問をしたほうが優勢だ。策士なら、その点はよく心得ている可能性が高い。昨日のダルレシアンの会話は、会ったばかりの時は質問を返してきた。それが、今はきちんと答えている箇所が多い。それは、罠である可能性が高い――失業してしまった元教祖は何をしているのか。
「それから、キミにまた聞きたいことがあってね」ダルレシアンはそう言って、崇剛の顔をのぞき込むように近づいた。
「どのようなことですか?」
優雅に微笑みながら、崇剛は可能性の数値を変化させる。
「ふふっ」ダルレシアンは柔らかな笑い声をもらし、
「その前に、また寂しくなったから、愛をわけて?」
聞いたことと違うことを言ってきた――。
昨夜、ベッドの上で聞いた、この言葉は嘘だったのかもしれない――。その可能性の数値が急激に跳ね上がった。しかし、嘘ではないかもしれない。どちらも拭い去れない。
さっきから、千里眼でダルレシアンの心の声を読み取ろうとするが、まったく聞こえてこないのだった。
怪しんでいると判断されれば、相手は策を強力にするだろう。それでは正確なデータが入りづらくなる。この辺でひとまず幕引きだ。
慈愛ある神父として、崇剛は、
「えぇ、構いませんよ」寂しい人を放っておくわけにはいかなかった。
瑠璃色をした貴族服の細い腕は白いローブへと伸びていき、元教祖の男性的な腕は崇剛の背中に回された。朝のさわやかな空気の中で、男ふたりで抱擁する。
背丈の差をダルレシアンが補正した。少しだけかがみ込み、崇剛の神経質なあごは、白いローブの肩に乗せられた。そっと目を閉じて、心にある聖堂の中で神に祈りを捧げる。
(主よ、どうか、彼の悲しみを取り除いてください)
背中をトントンと二度優しく叩く、子供を寝かしつけるように。色形の違うロザリオがシルクの生地一枚を挟んで、聖なる導き――慈しみの中で寄り添った。
執事の涼介が真っ先に反応した。思わず吹き出し、
「ぶっ! な、何で抱き合ってるんだ!」
また主人の罠なのかと、執事は勘ぐりながら、寝言事件を発端に、本当はもう一線超えたのではないかと疑惑を持った。
後ろに控えていた召使と使用人たちはにっこり微笑む。
「外国式のご挨拶でございますね」
昔から知っている坊っちゃまの言動を、彼らなりにきちんと理解していた。
「おにいちゃんとせんせい、なかよし!」
瞬のキラキラと輝く純真無垢な瞳を見つけて、涼介は頭の中にある妄念を追い払った。
「まぁ、よく取ればそうだな。でもな……」
だがしかし、主人の仕掛けてくる罠の大半と言ったらBL。執事は物思いに老ける。
今は少しだけ影が差すベビーブルーの瞳に映るのは、黒塗りのリムジンの前にたたずむ男ふたり――。線の細い瑠璃色の貴族服と、秋風に揺らめく白いローブ。
ふたりとも男性なのに、長い髪のせいで女性的に見える。千里眼と魔導師という特殊能力を持つ者同士。
遠くの山を背景に、庭の樫の木や花々に囲まれ、斜めに降り注ぐ陽光の中で、非現実的ではなく自然な光景に思えた。神羅万象が認める、大きな影響を相手に与え、切磋琢磨するような神秘的な関係のようだった。
崇剛はダルレシアンから離れ、執事へと振り返り、
「それでは、涼介、行ってきますよ。それから……」
「なぜ、一緒についてくるのですか?」
白いローブを風に揺らめかせながら、ダルレシアンは右へ左へ行ったり来たりする。
「ボクはもう教祖じゃない。だから、新しく誰かの役に立てることを探したいんだ。その可能性のひとつとして、キミの手伝いをするのもあると思ってね」
「そうですか」崇剛は相づちを打ったが、冷静な水色の瞳は心の中でついっと細められた。今から四つ前の質問――男の人? と、つじつまが合わない。魔道師の狙いは何だ――。
会話がチェスの盤上ならば、質問をしたほうが優勢だ。策士なら、その点はよく心得ている可能性が高い。昨日のダルレシアンの会話は、会ったばかりの時は質問を返してきた。それが、今はきちんと答えている箇所が多い。それは、罠である可能性が高い――失業してしまった元教祖は何をしているのか。
「それから、キミにまた聞きたいことがあってね」ダルレシアンはそう言って、崇剛の顔をのぞき込むように近づいた。
「どのようなことですか?」
優雅に微笑みながら、崇剛は可能性の数値を変化させる。
「ふふっ」ダルレシアンは柔らかな笑い声をもらし、
「その前に、また寂しくなったから、愛をわけて?」
聞いたことと違うことを言ってきた――。
昨夜、ベッドの上で聞いた、この言葉は嘘だったのかもしれない――。その可能性の数値が急激に跳ね上がった。しかし、嘘ではないかもしれない。どちらも拭い去れない。
さっきから、千里眼でダルレシアンの心の声を読み取ろうとするが、まったく聞こえてこないのだった。
怪しんでいると判断されれば、相手は策を強力にするだろう。それでは正確なデータが入りづらくなる。この辺でひとまず幕引きだ。
慈愛ある神父として、崇剛は、
「えぇ、構いませんよ」寂しい人を放っておくわけにはいかなかった。
瑠璃色をした貴族服の細い腕は白いローブへと伸びていき、元教祖の男性的な腕は崇剛の背中に回された。朝のさわやかな空気の中で、男ふたりで抱擁する。
背丈の差をダルレシアンが補正した。少しだけかがみ込み、崇剛の神経質なあごは、白いローブの肩に乗せられた。そっと目を閉じて、心にある聖堂の中で神に祈りを捧げる。
(主よ、どうか、彼の悲しみを取り除いてください)
背中をトントンと二度優しく叩く、子供を寝かしつけるように。色形の違うロザリオがシルクの生地一枚を挟んで、聖なる導き――慈しみの中で寄り添った。
執事の涼介が真っ先に反応した。思わず吹き出し、
「ぶっ! な、何で抱き合ってるんだ!」
また主人の罠なのかと、執事は勘ぐりながら、寝言事件を発端に、本当はもう一線超えたのではないかと疑惑を持った。
後ろに控えていた召使と使用人たちはにっこり微笑む。
「外国式のご挨拶でございますね」
昔から知っている坊っちゃまの言動を、彼らなりにきちんと理解していた。
「おにいちゃんとせんせい、なかよし!」
瞬のキラキラと輝く純真無垢な瞳を見つけて、涼介は頭の中にある妄念を追い払った。
「まぁ、よく取ればそうだな。でもな……」
だがしかし、主人の仕掛けてくる罠の大半と言ったらBL。執事は物思いに老ける。
今は少しだけ影が差すベビーブルーの瞳に映るのは、黒塗りのリムジンの前にたたずむ男ふたり――。線の細い瑠璃色の貴族服と、秋風に揺らめく白いローブ。
ふたりとも男性なのに、長い髪のせいで女性的に見える。千里眼と魔導師という特殊能力を持つ者同士。
遠くの山を背景に、庭の樫の木や花々に囲まれ、斜めに降り注ぐ陽光の中で、非現実的ではなく自然な光景に思えた。神羅万象が認める、大きな影響を相手に与え、切磋琢磨するような神秘的な関係のようだった。
崇剛はダルレシアンから離れ、執事へと振り返り、
「それでは、涼介、行ってきますよ。それから……」
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