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ラブストーリーをしよう
前途多難なファンタジー/3
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鋭利なスミレ色の瞳はあちこち落ち着きなく向いていたが、やがて、
「……いい、やってやる、ありがたく思え」
一歩前進。喜びをダンスで表現したいところだが、ここはぐっとこらえて、颯茄はルールの説明を続ける。
「それでですね。女性の脇役が欲しいので、前回、『最後の恋は神様とでした』に出ていただいた、知礼さんを迎える予定です」
すぐに物言いがつく。焉貴が両手で、山吹色のボブ髪を大きくかき上げた。
「お前と知礼じゃ、ボケとツッコミだけで話終了するね」
あのとぼけた女をボケさせないように、話すのが大変なのである。
「恋愛じゃなくて、お笑いだ……」
モデルがいる以上、その人の特徴を拾うわけで。颯茄と知礼では、本当にそれだけで終わってしまうのである。だが、そこらへんは、妻はきちんと心得ていた。
「ならないようにしました。まぁ、保険みたいなものです。旦那さんとの恋愛が破局を迎えた時には、私と知礼さんが恋愛をして、ラブラブになってキスをして、ラブストーリーはハッピーエンド! という結末にします」
めちゃくちゃになりそうなラブストーリを前にして、張飛は超前向きに取ってゆく。
「そうなったら、そうなったで俺っちは見るっすよ」
「ありがとうございます。張飛さん」
優しい夫を持って幸せだなと思っていると、隣で抹茶ラテを飲んでいた燿が賛同する。
「知礼ちゃん、可愛いよね」
「だよね~、燿さん。なかなか面白いボケをかましてくるから、書きがいがあるんだよね」
仲間を得た。
「彼女と仲良くなったんですか?」
貴増参からの質問に、颯茄は笑顔で答える。
「はい。彼女ノンフィクション作家だったので、作家同士で意気投合したんです」
「へえ。書いた本読んでみたいな」
独健はお茶のおかわりを配りながらうんうんとうなずいた。
「ぜひ、読んでください。鋭い視点で書いてありますよ」
しかし、まだ話は途中で、颯茄はしっかりと話を元へ戻した。
「今回、知礼さんは私たちと結婚をしている……つまり、配偶者になっているという設定で、出ていただいているので、そこはよく頭の中に入れといてください」
妻が言うと、夫たちは妙なため息をついた。
「ああ、そこが笑いのネタになるんだ……」
颯茄はネタバラシを思わずしてしまって、思わず息をつまらせた。焉貴はマスカットを口の中へ放り投げる。
「覚師は出てこないの?」
颯茄は首をプルプルと振った。
「いやいや、女同士の三角関係になってしまうので、覚師さんは出てきません」
「そっちもバイセクシャルって設定か」
夫たちは珍しく笑いながらつぶやいた。ラブストーリーにあちがりなライバルではなく、スクランブル交差点みたいなことになってしまうのだった。この妻に書かせると。
様々な展開を見せる、明智家のラブストーリはひとまずストレートの話に終着した。颯茄は重ねてあった台本のタイトルを見ながら、それぞれへ配り出した。
「で、主役と脇役の台本が二冊いきます。二週間で覚えていただいて、カメラの前で演じていただきます」
結構な強行軍。光命がメガネの奥から上目遣いで見てくる。
「私たちの恋愛はないのですか?」
「え……? 旦那さん同士の恋愛?」
颯茄の手が止まった隣で、明引呼のしゃがれた声が響いた。
「考えてなかったってか?」
「ふんっ! お前の頭はネジが一本もないんだな。こんな簡単なことにも気づかないとはな」
夕霧命を間に挟んで座っている蓮を、斜め後ろからにらんでやった。
「かちんとくるな」
あってもおかしくはない。複数婚しているのだから。焉貴がまた無意識の直感をする。
「どうなの?」
「BL……ですよね?」
妻は腐女子ではない。だが、夫たちも同性愛者ではないのだ。
「BLじゃないの、俺たち。バイセクシャルだから。はい、略しちゃってください!」
「BS……」
「どっかのテレビ局みたいになっちゃったね」
「あははははっ……!」
笑い声が一気に上がった。とにかくである。妻は反省にしつつ、
「BSはまた、次回以降です!」
そうすると、やけにガッカリした声が全員から上がった。
「そうか……」
「え……? 何ですか?」
この時、妻は夫たちの気持ちを理解していなかったのである。これがのちに大変なことになるとも知らず。
「……いい、やってやる、ありがたく思え」
一歩前進。喜びをダンスで表現したいところだが、ここはぐっとこらえて、颯茄はルールの説明を続ける。
「それでですね。女性の脇役が欲しいので、前回、『最後の恋は神様とでした』に出ていただいた、知礼さんを迎える予定です」
すぐに物言いがつく。焉貴が両手で、山吹色のボブ髪を大きくかき上げた。
「お前と知礼じゃ、ボケとツッコミだけで話終了するね」
あのとぼけた女をボケさせないように、話すのが大変なのである。
「恋愛じゃなくて、お笑いだ……」
モデルがいる以上、その人の特徴を拾うわけで。颯茄と知礼では、本当にそれだけで終わってしまうのである。だが、そこらへんは、妻はきちんと心得ていた。
「ならないようにしました。まぁ、保険みたいなものです。旦那さんとの恋愛が破局を迎えた時には、私と知礼さんが恋愛をして、ラブラブになってキスをして、ラブストーリーはハッピーエンド! という結末にします」
めちゃくちゃになりそうなラブストーリを前にして、張飛は超前向きに取ってゆく。
「そうなったら、そうなったで俺っちは見るっすよ」
「ありがとうございます。張飛さん」
優しい夫を持って幸せだなと思っていると、隣で抹茶ラテを飲んでいた燿が賛同する。
「知礼ちゃん、可愛いよね」
「だよね~、燿さん。なかなか面白いボケをかましてくるから、書きがいがあるんだよね」
仲間を得た。
「彼女と仲良くなったんですか?」
貴増参からの質問に、颯茄は笑顔で答える。
「はい。彼女ノンフィクション作家だったので、作家同士で意気投合したんです」
「へえ。書いた本読んでみたいな」
独健はお茶のおかわりを配りながらうんうんとうなずいた。
「ぜひ、読んでください。鋭い視点で書いてありますよ」
しかし、まだ話は途中で、颯茄はしっかりと話を元へ戻した。
「今回、知礼さんは私たちと結婚をしている……つまり、配偶者になっているという設定で、出ていただいているので、そこはよく頭の中に入れといてください」
妻が言うと、夫たちは妙なため息をついた。
「ああ、そこが笑いのネタになるんだ……」
颯茄はネタバラシを思わずしてしまって、思わず息をつまらせた。焉貴はマスカットを口の中へ放り投げる。
「覚師は出てこないの?」
颯茄は首をプルプルと振った。
「いやいや、女同士の三角関係になってしまうので、覚師さんは出てきません」
「そっちもバイセクシャルって設定か」
夫たちは珍しく笑いながらつぶやいた。ラブストーリーにあちがりなライバルではなく、スクランブル交差点みたいなことになってしまうのだった。この妻に書かせると。
様々な展開を見せる、明智家のラブストーリはひとまずストレートの話に終着した。颯茄は重ねてあった台本のタイトルを見ながら、それぞれへ配り出した。
「で、主役と脇役の台本が二冊いきます。二週間で覚えていただいて、カメラの前で演じていただきます」
結構な強行軍。光命がメガネの奥から上目遣いで見てくる。
「私たちの恋愛はないのですか?」
「え……? 旦那さん同士の恋愛?」
颯茄の手が止まった隣で、明引呼のしゃがれた声が響いた。
「考えてなかったってか?」
「ふんっ! お前の頭はネジが一本もないんだな。こんな簡単なことにも気づかないとはな」
夕霧命を間に挟んで座っている蓮を、斜め後ろからにらんでやった。
「かちんとくるな」
あってもおかしくはない。複数婚しているのだから。焉貴がまた無意識の直感をする。
「どうなの?」
「BL……ですよね?」
妻は腐女子ではない。だが、夫たちも同性愛者ではないのだ。
「BLじゃないの、俺たち。バイセクシャルだから。はい、略しちゃってください!」
「BS……」
「どっかのテレビ局みたいになっちゃったね」
「あははははっ……!」
笑い声が一気に上がった。とにかくである。妻は反省にしつつ、
「BSはまた、次回以降です!」
そうすると、やけにガッカリした声が全員から上がった。
「そうか……」
「え……? 何ですか?」
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