公式 1×1=LOVE

Hiiho

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高校生×ターゲット=捕捉確定? 2

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  毎週 月、火、木曜日は必ずと言っていいほど、駅で架達を見かける。不本意だけど最初に目に入るのは、架より背が高いボディガード王子。

  今日もきっと、王子の事しか見てない架が この階段を降りた先にいるはず。



一玖が目線を上げると、長身の市太が視界に入る。その横にいつものようにぴったりとくっついている架。けれど、いつもと違うのは、架の視線だ。



  え・・・、俺を見てる?

  今までなら、俯いているか 王子を見上げているかの二択しか無かったのに。



優越感にも似たなんとも言い難い感情が腹の底から上がってきて、一玖はニヤけてしまいそうな顔を爽やかな笑顔にすり替え架に手を振る。

人波をすり抜けて架の元へと向かう一玖。


「架、おはよ」

「おはよ。マジでこの時間いたんだ」



  そりゃいるよ。なんの為に親父に頼んで前のアパートより学校から離れた所に引っ越したと思ってんの。大学生の架と朝会えるのは、週3日のこの時間しかないんだ。



系列の大学へ内部進学する予定の一玖だが『学校一の秀才』と言われている現状を維持する事と引き換えに今のアパートへ引っ越した為、教師からの評価も成績も落とす訳にはいかない。学業を優先する事で、架を眺める貴重な時間を得ているのだ。






「・・・こいつが迷惑かけたみたいでごめんな」

市太から架を助けた事について礼を言われて、一玖は心の中でふっと鼻を鳴らす。



  牽制のつもりかよ。姫を横取りされそうになって必死過ぎだろ、王子サマ。余裕の無い男は架には似合わない。



「全然ですよ。架の役に立てたなら嬉しいし」

一玖は貼り付けた笑顔を市太に返す。

「オイ!いちに敬語使うなら俺にも使えよ!」

「やだよ。架、歳上って感じしないもん」



  男って感じもしない。だからって女にも見えないけど。架は何者でもない。たぶん、俺の中で特別な存在。



「は?くっそ生意気じゃん、良い奴って思って損した!」


怒る架の向こうで眉間に皺を寄せる市太が見え、今度は市太の本心が知りたい一玖が仕掛ける。


「二人、はたから見たらラブラブなのに付き合ってないなんて勿体無いなぁ」

瞳を泳がせ明らかに動揺を見せる市太に、一玖は確信する。



  やっぱり王子は架の事を幼なじみ以上に思ってる。否定する架はどうなのかわからないけど・・・



「この前もそんな事言ってたけど、もしかして一玖ってホモ?」

思いがけない架からの問い。けれど一玖はこれを好都合だと捉える。



  誰よりも架に近い場所にいるのに伝える事もしないなんて、王子は馬鹿だ。架が自分以外を近寄らせないからって油断してると痛い目に遭うってこと、俺が分からせてやるよ。



「そうだよ」

「えっ、マジに!?」

「マジだよ。だから、二人とも俺の恋愛対象」


もちろん嘘。一玖が架に執着しているのは事実。しかし少なくとも市太や他の男に惹かれた事などただの一度も無い。


「架、気持ち悪いって思った?」

「お、思ってねぇよ、別に・・・」

「よかった」

自分は周りから浮いている、と寂しげなフリで話せば、一玖がゲイであることをすんなりと肯定する架。



  見ているだけでいい、なんて嘘だ。傍観者じゃなくなって、それ以上の事を望んで・・・きっと俺は『それ以上』のその先も架に求めることになる。
  男同士の恋愛のハードルを下げる必要もある。

  王子に宣戦布告する意味でも、この嘘は必要不可欠だ。



「架。実は・・・俺もおまえに言ってなかった事がある」

焦ったような市太の言葉に、一玖は薄ら笑いが抑えきれない。



  言えよ。架が好きだって。そして二人の関係を自ら壊せばいい。

  もし架が王子の気持ちに応えたとしても、それはそれで都合がいい。架は男もいけるって事になる。どうせ王子から奪うってスタンスは、今と変わらないんだ。



「一玖、って勝手に呼ばせてもらうけど・・・何度もこの駅で見かけてて、目を引くヤツだなって思って気になってた」



  ・・・え、・・・なに? どういう・・・



予想外の自分への告白のような言葉に、一玖は耳を疑う。しまった、と思うと同時に架の視線を感じ、冷や汗が背中を伝う。

「え、え!? なあ、いち・・・それ」

市太と一玖を交互に見る架。

「い、いちが・・・一玖を好き、って事だよな?」

「架、そんなわけないでしょ。どう見たって市太さんは架が好きだよ、わかるだろ?」

「架は大事な幼なじみだ。恋とか下心で見たことなんか無い」

市太が白々しい嘘を吐いているのは一目瞭然だった。けれど、動揺している架にはその判断はできない。



  友情を超えてくれなきゃ二人の関係は壊せない。王子が俺に気があるフリをしてるのは、架をこれ以上俺に近付かせない為だ。

  ・・・王子を甘く見てた。クソ・・・



「一玖が、ホモで・・・市太も・・・で、いちが一玖を好きで・・・、って。それってもう両想いって事になんねぇ?」

「架、それは違うぞ。一玖は俺を好きだなんてひとことも言ってない。俺の片想いだ」

「え・・・、そうなの、一玖?」

「はは、どうしよう。俺、架の方がタイプなんだけど・・・」

こんなことならすぐにでも架に想いを告げれば良かった、と一玖は後悔する。

「ふざけんなよ!いちがお前を好きだって言ってんのに、冗談でもそんな事言うな!真剣に答えてやれよ!」

答えられるはずが無い。市太の言葉に応えれば、架にとって一玖は『大切な幼なじみの恋人』になる。拒否すれば『大切な幼なじみを振った相手』になる。

どちらにしても、一玖が架本人に近付くことは難しくなるからだ。


「市太さんの気持ちは嬉しいけど、まだ知り合ったばっかだし・・・もっとお互いを知ってから、ちゃんと答え出したいかな」

「俺も今までは見てただけだし。一玖の事、もっと深~~~く知りたいしな。・・・よろしく」

一玖に向かって手を伸ばし、握手を求める市太。
一玖が仕方なくその手を握り返すと、市太は力いっぱい握り締める。



  クソガキが、架に受け入れてもらって調子こいてんじゃねーぞ。架は誰にも渡さねぇ。



笑顔の市太はこめかみに青筋を立てる。

一玖も負けじと、腕の血管が浮き出るほどの力で市太の手を握り返す。



  ムッツリ王子め。そっちがその気なら、どんな手を使っても架を奪ってやるからな。



「よし・・・、とりあえず、友達から始めような!」


笑顔で牽制し合う市太と一玖の握手の上に架が手を乗せる瞬間、同時に握力を弱める二人。

ははは・・・、と乾いた笑いで顔を見合わせる。






このやり取りの間に、4本も電車を見送った3人が遅刻した事は、言うまでもない。


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