公式 1×1=LOVE

Hiiho

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好き×特別=両想い? 1

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「架、今日もいい?」

「・・・いいけど・・・」

バイトの時間が終わり遅めの夕食までの数時間は、一玖による『架泣かせタイム』になっていた。

「じゃ、服脱いで」

座椅子に寄り掛かる一玖の前に立ち、凝視される恥ずかしさに耐えながら架は着ている物を一枚ずつ脱いで畳の上に落としてゆく。


  あれから一玖は、バイトが終わるといつも支配人と同じ匂いを振り撒いて、俺に恥ずかしい事を要求してくるようになった。

  一玖は泣き顔が見たいだけで、それは俺じゃなくてもいい。
  例えば、一玖を好きな市太が思い通りに泣いてくれるなら、俺なんかがこうする必要もきっと無い。

  そうさせたくないのは、幼馴染みの市太がこんな風に誰かに泣かされるのが許せないのと、一玖が他の誰かのこんな姿を見て興奮するのが嫌だから。
  だけど・・・


架は思っていた。これ以上、一玖の言いなりになるのは危険だと。このまま一玖との関係を続ければ、夏が終わって日常に戻った時、市太の為だと自分に言い聞かせても一玖への想いを手放せなくなるかも知れないからだ。


「いっ、く・・・なんで、その匂いつけんの・・・?」

「この方が、架が気持ち良さそうだから。ホラ、脱いだだけでココ、勃たせてる」

架の股間に顔を近付けた一玖が、ふーっ、と息を吹きかける。

「ぁ・・・」

「架は敏感だよね。見られてるだけでココ、ビンビンにして困り顔で泣きそうになるんだもん。恥ずかしい?」


  恥ずかしくないワケないだろ!今まで誰にも見せた事の無いところを、至近距離でまじまじ見られて恥ずかしくて堪らないのに、この匂いが漂ってると訳も無く体が反応していやらしい気分になる。


「恥ずかしいと勃っちゃうんだ。エッチで可愛いね、架」

一玖の言葉に被虐心を煽られて架の体は震える。

「イキそうなの?カウパー垂れてきたよ。こーんなスケベな体でセックスしたこと無いなんて。ヤッたらどうなっちゃうんだろうね、架のカラダ」

「ぅ・・・」

数日前、一玖に無理矢理押し込まれそうになって失神してしまった事を架は思い出す。


  違う・・・。一玖が言ってるセックスは男女のって事で、俺が想像してる男同士の事じゃない。
  期待しちゃダメだ。
  一玖は泣き顔が見たい。俺はこの特異体質から開放されたい。俺達は利害が一致してるだけ。


現に、一玖から恥辱的な要求をされてそれに応えることで、架は今まで気になっていた臭いが気にならなくなっていた。

架の心境を動かす出来事があったことも大きな要因になっていた。






───アルバイト初日の夜

客が引いた後のバイキングホールで、旅館の従業員達は仕事の合間を縫って入れ替わりで夕食を摂る。

一玖と並んで座った架の前に、支配人である一玖の兄 太一が座る。

思わず息を止め、下を向く架。

「架くん、バイト初めてなんだって?どうだった?やって行けそうか?」

「・・・ハイ」

俯いたまま太一に応える。


その様子を見ていた一玖が

「兄貴さ、高校の時、東京いたじゃん?大学行かずにこっち戻ってきたのってなんで?」

突然切り出し、架は青ざめる。


  なに、聞くつもりだよ。まさか、支配人に俺のこと言うつもりじゃ・・・


「あー・・・それな・・・。もう時効ってワケじゃないけど・・・」

太一が躊躇うように話し出し、架の心臓が不穏な音を立てて早くなる。

「長男の俺に期待してた親父からのプレッシャーに潰されそうになって、まあ、簡単に言えば病んでたんだろうな。ストレスが溜まって、たまたま見かけた小学生に酷い事してな・・・」

太一が明言しなくとも、その小学生は自分だ、と架は確信する。

「だけど、後々罪悪感でいっぱいになって、どうしても謝りたくて、その子がいた公園に何度も行ったけど会えなくて・・・。自分が酷く傷付けたから、もうここに来れなくなったんじゃないかって」


  そうだ。俺はあの小さな古ぼけた公園に、あれ以来近付けなくなった。支配人が何度も来てたなんて、知らなかった。


「悩みが無さそうに呑気に遊んでるその子が羨ましかったんだ。それで余計ムシャクシャして、ちょっとからかってやろうとしただけだった。でも軽い気持ちでやった事が、その子の傷になったかもしれないって考えると気が重くて。気付いたら鬱になってたんだ」


  俺だけじゃない。あの出来事で加害者だった支配人も、苦しんでた・・・?


「地元に帰って来た俺を、えみが支えてくれた。だから俺はここまで立ち直れたんだ。だけどあの子は・・・」

太一が声を詰まらせる。

「今、どうしてるんだろうな。・・・無責任だけど、嫌な出来事は忘れて笑ってて欲しいと思ってるよ」

涙を堪えているのか、太一は辛そうに無理矢理笑顔を作る。


  どうして・・・。支配人が、俺をずっと苦しめて来た記憶の中のあの高校生が、もっと嫌な奴だったら良かった。


「あの・・・、どうしてそんな話。他人の俺に聞かれて嫌じゃないんですか」

「ああ、そうだよな。でも・・・なんでかな、架くんは他人って感じがしない。可愛い顔してるし、あの子によく似てる気がして。もしかしたら、俺は架くんにあの子を重ねて、謝りたかったのかもしれない。ごめんな、変な話して」

「・・・いえ。でも俺は、その子じゃありません」

架はしっかりと顔を上げ、謝る太一の顔を見た。

「はは、そうだよな。悪かった」

残念そうにも見える太一が微笑み、奥の調理場から透明なカップに入った大きなぶどうが一粒のせられた綺麗なワイン色のゼリーを持って来て、架と一玖の前に置く。

「これ、ウチのパティシエの今季イチオシのルビーロマンを使ったゼリー。お部屋でお食事されるVIP様にしか出してないやつ。頑張って働けよっていう激励と変な話聞かせたお詫び」

と言って、太一はバイキングホールを出て行った。


「マジかよ兄貴。ルビーロマン・・・超高級ぶどうなのに、バイトの俺達に食わせるなんて後が怖いな。まあくれるって言うんだから、遠慮せずに食べよー、架」

「あ・・・うん」

何事も無かったかのように振る舞う一玖に、架の緊張の糸が解ける。


  偶然だけど、ここへ来て良かった。囚われてた過去から少し、抜け出せそうな気がする。
  一玖と出逢って、俺の世界がどんどん変わって行ってる。

  一玖が、変えてくれてる。




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