公式 1×1=LOVE

Hiiho

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ずっと×そばに=儚い望み 2

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「うちは100年続く酒蔵で、一玖のパパとうちのパパは仲良しなの。カスミたちの地元じゃ、おっきな旅館や昔から商売してる家の子供は、小さい時から婚約者がいるんだよ~。政略結婚ってやつ。東京の人はいいなぁ、架さんみたいなイケメンと自由に付き合えるんだもんね。カスミだって自由に相手を選びたいのに~!」

マシンガンのように喋るカスミの言葉を、真っ白になった頭になんとか詰め込む架。

「架、こいつの言ってる事は気にしないで。まだ先の話だし、俺とこいつはただの幼なじみなだけだから」

架の隣、ベッドに腰掛けた一玖が架の肩に手を置く。

「何言ってんの一玖。  太一くんも えみちゃんも、ハタチになってすぐ結婚したじゃん。そんなのすぐだよ?」

「兄貴たちは好き同士だから結婚しただけ。それに俺は大学卒業するまではこっちにいるつもりだし」

「一玖が帰って来る頃にはカスミはハタチだしー。お互い好きじゃなくても結婚しなきゃだよ?」

許嫁なんて、いつの時代の話だよ。と架は半信半疑のままで一玖を見る。
不安げにも見える架を安心させるように一玖は笑いかける。

「架、今すぐにじゃないよ。まだ時間はあるし、俺は他のヤツなんて目に入ってないから」


  今すぐにじゃない・・・時間はある・・・
  それはつまり・・・俺との時間は限られてて、いずれ一玖はこのカスミって子と結婚するってことだ。

架の心に薄らと影が落ちる。


「一玖、付き合ってる人いるの?」

「そうだよ。架と付き合ってる」

カスミの問いかけに堂々と答える一玖。が、カスミは全く信じていない様子でアハハと笑う。

「そんな嘘ついたって、この風習から逃げられないんだからね?  どんなに好きな人がいたって、最後には決められた人と一緒になって家を守ってかなきゃなんないんだから・・・」

可笑しそうにしたかと思えば、急に諦めのような表情を作るカスミ。

「別に逃げようなんて思ってないよ。ただ本当の事を・・・」

「そんなことよりっ、カスミここ行ってみたいの!原宿?竹下通り?よくわかんないけど、可愛いのいっぱい集まってるんでしょ?連れてって一玖~」

「やだよ。俺、ビンボーなんだよ今」


俺には何でも叶えてくれるって言ってたのに、金無いのかよ。と架は呆れる。
すると、ショルダーバッグの中から封筒を取り出したカスミが一玖にそれを手渡した。

「太一くんからお小遣い貰ったから大丈夫だよ♡一玖にどっか連れてってもらえって♡お義兄さまは未来の妹に優しいの~」

「・・・あ、そ」

一玖が封筒の中身を確認すると一万円札が10枚。高校生のお小遣いにしてはやり過ぎだ、と思う。

「なんかー、余ったら一玖のお小遣いにしていいって言ってたよ?連れてってくれる?」

金額の問題じゃないとも思ったが、カスミを行きたいところに連れていかないと後々面倒だ、と考え「わかった」と返事をする一玖。


「ごめんね、架」

「いーよ。せっかく来てんだから、好きなとこ連れてってやれよ」

モヤモヤとした気持ちになりながらも、年長者で男の自分が駄々を捏ねる訳にも行かず、架は精一杯大人びた対応をしてみる。

「架さんも一緒に行きませんか?」

「ありがと。でも遠慮しとく。ふたりで楽しんできて」

「えーつまんない。せっかく架さんみたいなカッコイイ人と街歩けると思ったのに~」

「一玖カッコイイじゃん。どこでも連れて歩けばいいよ」

と笑顔でカスミの誘いを躱す。
ブーブーと言いながらスマホを操作して行きたいショップをピックアップするカスミ。



「ヤキモチ?」

カスミの背後、死角になったベッドに座る架に一玖が耳打ちする。

「は?バカ言うな。なんで妬かなきゃなんねんだよ」


  俺、嫉妬してんのか・・・。そんなのしたところで何の意味もない。一玖にとって、俺は最初から期間限定の恋人だったんだから。


「俺は、いつも市太さんに妬いてるけどなぁ。俺たちが付き合ってんの容認はしてるみたいだけど、何だかんだで結局、ふたり仲良いままだしさ」

一玖は むう、と唇を尖らせる。

「別に俺たち、お前が妬くような関係じゃねーし」

「俺の目の前でフェラまでしたのに!?」

「ちょっ、静かにしろ!カスミちゃんに聞こえるっ」

架は小声で一玖を諌める。

「とにかく!カスミちゃんに付き合ってやれよ。・・・未来の奥さん、だろ」

「・・・わかったよ」

渋々頷く一玖。


  『未来の奥さん』に否定は無いんだな。

と、架の心は沈む。




「俺が好きなのは、架だけだよ」

不意に一玖の唇が重なって、嬉しいはずなのに架は胸がぎゅっと切なくなる。

「うん」


  でもずっとじゃない。一玖の「好き」は、いつかは終わってしまう「好き」だろ・・・。

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