公式 1×1=LOVE

Hiiho

文字の大きさ
44 / 54

ずっと×そばに=儚い望み 3

しおりを挟む

一玖たちと別れ自宅へと帰る架。
ベッドに横になり目を閉じる。


  こうやって家でひとり過ごす休日は、一玖と付き合ってから初めてかもしれないな。夏休みの間もずっと一緒にいたし・・・


ほんの数ヶ月前はこれが日常だったはずなのに、他人と心を通わせる幸福感、肌が触れ合う感触を知ってしまった架は『孤独』の意味が少しわかるような気がした。


「許嫁か・・・」

  なんの約束も心配もしなくても、あの子は一玖が手に入る。その時が来たら、俺は・・・


幼馴染みの市太に依存して、恋人の一玖に依存して。架は自分の世界が狭すぎることを不安に感じる。


  他人の匂いがそれほど気にならなくなった今、もしかしたら市太以外の友人を作れるかもしれない。
一玖以外の誰かとも、愛し合えるかもしれない。


そんな考えが頭を過ぎる。
いつまでも一緒にはいられない恋人と幼馴染み。失った時に、その世界しか知らなかったとしたら自分は喪失感に耐えれるんだろうか、と。


「一玖・・・」

ここに居ないのに、無意識に名前を呼んでしまうほど今日を一緒に過ごせなくなっただけで寂しさが込み上げるのに、二度と会えなくなったなら、どんな気持ちになってしまうのだろう。架は想像すらしたくなかった。








ウトウトと寝たり起きたりを繰り返し、窓の外は薄暗く少し肌寒さを感じて架はベッドから起き上がる。

ダイニングとひと続きになっているリビングへ下りて行くと

「あんたいたの?ちょうど良かった。玉子買ってきてよ」

と架の母がキッチンから声を掛ける。
また玉子かよ、と思いつつも気分転換に外の空気を吸いたくなった架は玄関を出る。


「寒っ」

まだ薄着のままの架は、日が落ちた10月のひんやりとした空気に肩を小さくする。
コンビニへ向かう道路の先から、見慣れたシルエットが近付いて来る。
市太だ。

「架、どっか出かけんの?  一玖んとこ?」

「んーん。コンビニ。いちどっか行ってたの?」

「ああ、昨夜からずっと つばさくんと遊んでた」

「あー、あのチャラい先輩ね」

つばさのようなタイプの人間とは全く接点の無い架は、興味が無さそうに呟く。



「今日は一玖んとこ泊まんねーの?」

市太に聞かれ、架はカスミが「泊めて」と一玖に言っていたのをふと思い出す。

「・・・別に。毎週泊まんなきゃなんねー決まりも無いし、一玖も偶にはひとりで過ごしたいだろーし」

「あいつはいつも一人だろ。一玖になんかされたか?」

「されてねーし。なんもない」

「嘘つくな。お前が落ちてんの、俺が気付かないとでも思ってんのか?いいから話せよ」

市太には隠し事はできないな、と思い、架は一玖に許嫁がいたことを正直に話す。



「お前は、それでいいの?」

「いいも何も、俺がどうにかできる話じゃねぇし」

何でもないように気丈に振る舞う架。市太は一玖に対して怒りが込み上げて来て、傷付いているはずの架を強く抱き締めた。

「こんなことなら、あいつに譲るんじゃなかった」

けれど腕の中の架を、前のような抱き心地は無いように感じる市太。自分だけが触れていた頃の架ではなくなってしまったのだという事と同時に、市太が欲しいと思う相手が架では無くつばさだという事を思い知らされるようだった。


  それでも架を放っておけない。


「なあ架。・・・俺じゃ、一玖の代わりになんない?」

「え、何言ってんだよ。いちと俺は、そんなんじゃないだろ」


  そんなんじゃない。確かに俺は市太のを咥えたし、市太も俺の口に出した。でもあれは俺の浅ましさがそうさせただけで、そこに恋愛感情があった訳じゃない。
  今だって市太から別の誰かの匂いがしてる。明らかに男物の香水の匂い。それが移るくらいに親しい関係の相手が 市太にはいる。

  もし俺が市太の優しさに甘えたら、きっと市太はこの香水の相手より俺を優先してしまう。いちがそういう奴だって、俺は知ってる。


「俺は・・・最後には離れなきゃってわかってるけど、一玖がいい。他の誰も代わりに欲しいなんて思ってない」

  数年後にどう思ってるかなんてわからなくても、これが今の俺の本心だから。


「そっか」

架の言葉を聞いて、市太は安堵の中に少しの寂しさを残す。





「あっ!!  やっぱ架じゃん!!」

暗い夜道の向こうに見える人影が突然叫んで二人に向かって近付いて来る。

「一玖!? お前、カスミちゃんは・・・」

「何してんの!?  浮気!?  つーか架から離れろよ変態小姑!」

架の肩をがっちりと抱えたままの市太を睨む一玖。一玖を揶揄うように、何も言わず架の頬に自分の頬を寄せる市太。

「カスミちゃんはどうしたんだよ」

「歩き回って疲れて寝てる。カスミの事より、俺は二人が何やってんだって聞いてんの!」

「見りゃ分かんだろ。抱き合ってんだよ」

一玖を小馬鹿にしたように、市太が鼻でフン、と笑う。

「架は俺のもんだ、返してもらう。お前には許嫁とやらがいるだろ。ガキはガキ同士イチャこいてろ」

「誰が返すかよ。架は俺の・・・俺が必死で手に入れた宝物なんだからな!」


一玖が大声でそう言うと、架と市太はお互いに目を見合わせ同時に「ぶっっ」と吹き出した。

「な、なんで笑うの!?」

「一玖・・・、おまっ、ちょ・・・『たからもの』ってなんだよ!  はーっ。やばっ、腹痛てぇー」

「架、一玖は真剣なんだぞ。笑ったら、カワイソ・・・、ぶぶっ」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...