魔人に脅されて、まさか自分が魔法少女として潜入することになるなんて――

青山響

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2 、 擬態魔人ラマ

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秋葉はリンクス協会の本部ビルを出て、自分の狭いアパートに戻ってきた。玄関を開けて部屋に入ると、そのままベッドに倒れ込んだ。疲れ切った体がベッドに沈み込む。もう少しで夢の中に落ちそうになったその時、コンコン、とドアをノックする音がした。秋葉はギクリと目を覚ました。

東京に来てからというもの、彼には親しい友人もいなければ、今日は出前も頼んでいない。それに、今日は家賃の取り立ての日でもない。さっきリンクスの試験に受かったばかりなのに、誰かに尾行されてきたのか?秋葉は恐る恐るドアの覗き穴から外を確認した。

そこには成熟した美しい女性が立っていた。秋葉は一瞬ほっとしたが、すぐに緊張が戻ってきた。良いニュースと悪いニュースがある。良いニュースは、リンクスの人間に尾行されていなかったこと。悪いニュースは、ドアの向こうにいるのが魔人だということだった。

魔人――リンクスの宿敵。魔獣とは異なり、魔人は別の世界からやってきた存在であり、自分たちの文明や文化を持っている。人間とある程度コミュニケーションができるし、感情も持っている。攻撃性は魔獣ほど高くないが、魔人は「擬態」の能力を持っていて、人間に化けて潜入できるため、ある意味では魔獣より厄介な存在だ。

「秋葉ちゃん、中にいるのは分かってるわよ~」ドアの外から女魔人の声が響いた。秋葉は冷や汗をかきながら慌ててドアを開け、彼女を中に引き入れると、周囲に人がいないか確認してから、ドアを閉めた。秋葉は顔をしかめて文句を言った。「あんた、大声出すなよ!正体がバレたらどうするんだ!」

女魔人――ラマは謝る素振りも見せず、むしろ部屋の中をきょろきょろと見回し始めた。「これがあなたのお気に入りの部屋?まるで鳥かごみたいじゃない。日本人ってみんなこんな小さいところに住んでるの?」ラマは気にする様子もなく話し続ける。秋葉はため息をついて、「人の部屋をバカにするの、やめてくれないか?」とぼやいた。

このラマという女魔人は、数少ない人間に擬態できる魔人の一人で、秋葉の今回の潜入任務の連絡係でもあった。彼女が秋葉を美しい少女に改造し、今回の潜入作戦に引きずり込んだ張本人だ。秋葉はこのラマに対して、強烈な恨みを抱いていた。

「くそ、ラマめ。もし力があれば、こいつをぶっ飛ばしてやるのに……」秋葉は心の中で毒づくが、すぐに気を取り直す。「今はまだ力がないけど、これから魔法少女としての力を身に着けたら、絶対にこいつをやっつけてやる!」

ラマは知的で優雅な笑みを浮かべ、「観察してたわ。人間の日常を知るのは、私たち魔人にとって重要なことなのよ」と言った。彼女は知性派の大人の女性そのものの雰囲気を纏い、どこか包容力のある声と仕草で秋葉を惑わせる。秋葉は心の中で警鐘を鳴らしながらも、その魅力に少し心が揺れた。「俺、こういうお姉さん系に弱いんだよな……」秋葉は頭を振って、その考えを振り払った。

「なあ、お前、街をうろついてると魔法少女に捕まるかもしれないんだから、俺に迷惑かけるなよ!」秋葉はラマに釘を刺した。ラマは笑って、「大丈夫よ、もし捕まってもあなたのことは絶対にばらさないから。今のあなたは、私たち魔人組織にとって大切な存在だもの」と余裕しゃくしゃくで返した。

「お前のせいでこうなったのに!」秋葉は歯を食いしばって睨んだが、ラマは悪びれる様子もなく微笑んだ。「まあまあ、今回の任務はよくやったわ。褒めてあげるわよ。」秋葉はぶっきらぼうに言った。「いらないよ、褒め言葉なんて。それよりも、報酬をもっとくれた方が嬉しいんだけど。」

ラマはスマートフォンを取り出し、操作を始めた。そして秋葉のスマホがピロンと音を立てた。秋葉が確認すると、そこには10万円の入金通知が。秋葉は肩を落としてがっくりした。「少なすぎる……」

「今はリンクスの一員なんだから、大きな金額は怪しまれるかもしれないでしょ?」ラマは真顔で説明したが、秋葉は信じていなかった。魔人組織のケチっぷりは有名だったのだ。実は魔人組織は、莫大な資金を持っているにもかかわらず、現地通貨の「日本円」にはとんでもなくケチなのだ。その理由は、魔人組織の上層部に手強いオタクがいるからだ。その魔人は、日本の美少女フィギュアを買い漁るのに夢中で、日本円の需要が急上昇している。

「まあいいや」と秋葉はあきらめたように言った。その時、ラマが口を開いた。「もう一つあるわ。あるリンクスのメンバーを調査してほしいの。コードネームは『ビーコン』。彼女の正体を突き止めれば、報酬は倍増よ。」

「本当か!?」秋葉は驚いて聞き返した。ラマは頷いて、「間違いないわ、これはサイドクエストだから、失敗してもメインの報酬には影響しないわよ」と保証した。秋葉は目を輝かせた。思わぬボーナスチャンスに心が躍った。

だが、秋葉は忘れていた。ラマが現れる時は、必ず厄介ごとがついてくるのだ。彼はそのことを思い出すこともなく、夢の中で早速、どう使おうかとボーナスの使い道を考えていた。ラマはそんな秋葉の幸せそうな顔を見て、軽く笑ってから姿を消した。秋葉はベッドに横になりながら、明日への不安をほんの少しだけ忘れて、深い眠りに落ちていった。

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