エンシェントドラゴンは隠れ住みたい

冬之ゆたんぽ

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深化2

グレンと前世夢――深化2 ※

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 ………………

 …………

 ……


 ――深く。

 もっと深く。

 グレンは夢を見る。自分の魂の奥深い部分に落ちていくように。
 夢は時間軸通りには並んでいない。
 つぎはぎモザイク。
 日々、欠片を貼り合わせていく。加速していくも、まだ完成図は見えない。



 グレンは森の中にいる。泉のほとりだ。
 この泉は精霊が多く、時々涼みに来ていた。隠れ家から近い川も気持ちいいけれど、泉はまた別の趣がある。
 先程まで、昼寝をしていた。アンフェールは歌ってくれるし、精霊が撫でる様に風を送ってくれるし、眠ってしまうのはしょうがない。

「おはよう、グレングリーズ。よく寝ていたね」
「……おはよう、アンフェール」

 おはようという時間では無かった。お昼寝だった。

「喉乾かない? 近くにポータスが生っていたから、もいできたんだ」
「美味しそうだ」

 ポータスは甘酸っぱい果実だ。果汁が多いのに日持ちがする。栄養価も高い。
 グレングリーズは狩りも出来ずに森を彷徨っていた時、何度もポータスのお世話になった。
 アンフェールはこの実が『旅人の杖』っていう別名がある事を教えてくれた。彷徨い人を支え、助けてくれる果実だと。
 なるほど助けられた。この実が無ければ死んでいたかもしれない。

 グレンはポータスの皮を剥いて食べる。
 三つほど食べ終わったところで、別の果実が食べたくなり、アンフェールの唇に吸いついた。
 果実のように艶やかな唇。
 果汁のように甘い、番を狂わせる口内。

 ちょっとだけ、抵抗する様子を見せたものの、アンフェールは拒まない。
 彼は快楽に弱い。キスをすればすぐにトロンとしてしまう。
 王様みたいにキリっとした凛々しい彼が、瞳を潤ませてもっともっととグレンの舌をおねだりしてくれる。
 本当に可愛い。隙を見てはキスをしたくなってしまう。

 何度も吸いついていたら、さすがに押し返されてしまった。

「起き抜けから、がっつき過ぎだ!」

 怒られてしまった。
 怒る彼も可愛い。グレンは番のどんな表情も好きだった。




 がっつき過ぎだ、とは怒られたけれど更にがっついてしまった。

 アンフェールはグレンに甘い。
 五千年近く生きてるせいで、六十歳のグレンの事を赤ん坊か何かだと思っている。
 しかし、六十年も生きてればさすがに赤子じゃない。
 感覚としては大人でいる。
 性欲は人一倍――いや、竜一倍だと思っている。番と口付ければ勃つし、したくなるのだ。

 アンフェールの裸体は美しい。
 竜の王だけあって、背も高いし立派な身体をしている。グレンの様な厚みは無いけれど、鞭のようにしなやかで強靭なのだ。
 なのでついつい激しく抱いてしまう。
 優しくしたいのに、アンフェールが煽るから、下半身がさっぱり治まらないのだ。

 今も、ほとりにある大樹にアンフェールは手をつき、白く愛らしい尻をこちらに向けている。
 グレンの剛直を根本までのみ込んでくれる可愛い後孔。
 何度挿入しても処女のようにささやかなここは、グレンのものが入れば可哀想なぐらい開いてしまう。
 そして、快感を得る度にきゅうきゅうと締まり、グレンのものを抱き締めてくれるのだ。

 ああ、可愛い。
 卵を産ませたい。
 アンフェールとどこまでも、交じり合ってしまいたい。

「あっ、だめ、おく……あ、ひらいちゃう……」
「ひらいて、アンフェール……俺を、うけいれて……」

 可愛い。
 開いた彼の大事な部分を俺で満たしたい。
 グレンだけの、アンフェール。

「だすよ、アンフェール」
「ひゃ、あ、あぁぁ、あつい……」

 身体を震わせて、グレンの熱を受け止めてくれる。
 引き抜けば、孔から白濁がゴポリと零れた。我ながら、量が多い。


 アンフェールを抱いて、泉に連れていく。
 番を綺麗にするのだ。
 『浄化クリーン』は使えるけど、なんとなく趣が無い。本能的なものだと思う。

「……ぷ、あはははは」

 急にアンフェールが爆笑しだした。何だろう。

「お前、絶対起きたら盛るだろうと思ったから、先に仕返しをしたのだ」
「仕返し……」
「泉で自分の顔を見てみろ、このケダモノめ」

 アンフェールはしてやったり見たいな顔をして、ふふんと笑っている。
 何をしたのだ、と思って泉を覗くと、動物の様なヒゲが落書きされていた。多分、植物の汁か何かだ。

「な……」

 なんだこれは、というのはヒゲの件じゃない。
 泉に映っていたのはグレンじゃなかったからだ。
 見覚えのある顔だった。
 あの神殿の様な建物に設置された寝台脇の男性の絵。


 その、絵の姿そのものだった。


 ………………

 …………

 ……


「~~~~っ!!!」


 がばり、と身体を起こす。
 グレンははぁはぁと呼吸を乱しながら、髪をかき上げた。寝汗が酷い。

「あれは……私じゃない? しかし、私の視点で見て……」

 グレンは混乱してしまった。ずっと大人のアンフェールと一緒にいたのは自分だと思っていたからだ。
 実際、夢の中のアンフェールはグレンの事をずっと名前で呼んでくれていた。

「そうだ。アンフェールは名を呼んでくれていたじゃないか。『グレングリーズ』と……」

 そこまで言ってから、グレンは自分以外にグレングリーズがいた事を思い出す。
 本家の方だ。

(泉に映った姿は、グレングリーズ様に似ていたかもしれない……。髪は短いし、印象は違うけれど)

 印象、というのは何点も残された肖像画や、歴史書に残された記録上のグレングリーズだ。
 グレングリーズはグレンが生まれる遥か昔に没している。だから生きた本人の為人を知っている訳じゃない。




 グレンは寝台から降りる。
 喉がカラカラだ。コンソールテーブルの上の果物籠には、ポータスが積まれている。
 アンフェールと一緒に街に行った時に、果物ワゴンのおかみさんからオススメされ、お土産に買ったやつだ。
 グレンはそれを手に取り皮を剥いて食べた。

 夢の中のポータスと同じ味がする。
 甘酸っぱくておいしい。

(……あくまで夢だ。夢の中の世界観に整合性があるだけで……。
 いや、しかし、とてもリアルだった。ポータスの味だって、本当に食べたように感じたじゃないか。
 もしかして私は、グレングリーズ様の記憶を覗いているんだろうか……)

 グレンの中で守護竜グレングリーズは、平和な国の根幹を作ったという立派な竜だった。尊敬の対象だった。
 夢の中のグレングリーズは、大体アンフェールに欲情してセックスしている。
 そういうシーンばかり切り取られている可能性はあるけれど。

(あれがグレングリーズ様だとしたら、今まで私が『大人のアンフェール』だと思っていたのは古代竜エンシェントドラゴンのアンフェール様なんだろうか。
 どちらも想像していたのと違うけれど……。親しみやすいというか……)

 コンソールテーブルの上位置に壁掛け鏡が設置されている。
 グレンはそこに映る己の顔をじっと見つめる。

(アンフェール様は番の顔にラクガキするようないたずらっ子だったのか。ふふ、まるで精霊アンフェールのようだ)

 ――そこまで考えてグレンの思考は止まる。

 グレンは真顔になる。
 初恋の精霊アンフェールは、美しい宝玉を身体から排出していた。
 あれと同じ――ように見えるものを夢の中で見たのだ。夢の中では竜石と呼ばれていた。竜の排泄物に当たる。

(竜……。竜種はもう絶滅している……はずだ)

 グレンは慌てて机の引き出しを開ける。
 そこには三つ、小ぶりの水晶玉がベルベットを敷いた小箱に収まっている。
 グレンはその石を手に取り、眺める。

(……そうだ。思い返せば精霊だと言い出したのは私の方だ。彼から言い出された訳じゃない。精霊アンフェールは絶滅から逃れ、隠れ住んでいた竜だったのだろうか。
 彼は、竜であることを隠したかったのかもしれない)

 グレンは着替え、小袋に収納した水晶玉をポケットに入れた。

(調べたい。事実を知りたい。私の胸の内だけに留めておくから……)



 グレンは城を出た。向かうのは馴染の宝飾店だ。
 そこでグレンは想像通り「これは竜石ですね」との鑑定結果を得たのだ。


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