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〈コウキの話 2〉コンプレックスはありますか?
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『Q3. コンプレックスはありますか?』
A4サイズのプリント用紙を前に、ボールペンをくるくると回し、どうしたもんかと考える。
「まだ書いてるの?」
楽屋に置かれた弁当を食べながら、ケイタに声をかけられた。
わざとなのか?
頬に米粒がついている。スタイリストやメイクの女性スタッフがいれば、『やだーー、ケイちゃんかわいい』とか言って、その米粒をパクっと食べてもらうのだろうが、今は俺しかいない。
注意してやる気もない。
「コウキって、本当に優等生で真面目だね」
「うるせ」
「バラエティー番組のアンケートなんて、パパッと適当でいいんだよ。そのお弁当、食べないならボクが2個いただいていい?」
そう言って、うなぎ弁当に手を伸ばした。
「手の甲に穴を空けてやろうか?」
ボールペンを握りしめる。
「こわーーい。美咲ちゃんに言ってやる」
「なんだと」
「コウキはコンプレックスのかたまりじゃんね~~」
言い捨てるように、米粒をつけたまはま楽屋を出ていった。
そう、確かにそうだ。
今でこそ、国宝級イケメンなんて言われて、ありがたいことに、たくさんの女の子からキャーキャー言われているが、子供の頃は人見知りで自己主張が無い子供だった。
だいたい、このアンケートってなんなんだ。
映画の宣伝のため、共演者と観光地をブラブラする企画のはずだ。スタジオのトークならともかく、こんな大量の質問は必要なのか?
「コンプレックス?真面目過ぎることって書いとけよ」
いつの間にいたのか、背後からアラタの声がした。
「まだ書いてたのか。ケイタが終わったら次はコウキだぞ」
今日はアラタとケイタと俺の3人の楽曲のレコーディングをしている。アルバムの初回特典映像のため、レコーディング風景の撮影もあるから、わざわざメイクまでしている。
「お、うなぎ弁当」
「おい、アラタはジャンケン負けただろ。唐揚げでも食べてろよ」
数種類ある弁当を選ぶ順番は、毎回ジャンケンがお決まりだ。年功序列という言葉は、dulcis〈ドゥルキス〉には無い。
「最近、美咲ちゃんと会えてるの?」
「まぁ、向こうの寝不足さえ考慮しなければね」
どうしても夜型になるこの仕事。土日に合わせようと遠慮をしたら、なかなか会えない。
「アラタは、彼女が他の男に告白されたとか、手を出されたとか、知ったらどうする?」
「うん、そうだね。殺すかな」
「おい」
「冗談だよ」
それはわかってる。 ただ、目が本気だな。
「つまり、あれだ。コウキは自分に自信がないんだな」
図星だ。
「ただいまぁ」
早くもケイタが戻って来た。
ケイタは、ダンスの振り入れ以外は、何をやらせても要領が良い。ささっとこなしてきやがる。レコーディングもほぼ一発録りなんだろう。
「うげ、まだ書いてるの?」
「言うな、ケイタ。コウキの機嫌がこれ以上悪くなると面倒臭い」
アラタは唐揚げをパクつきながら笑っている。
「コウキのコンプレックスは、アイドルであること。だよねーー」
ケイタは自分のスマホをいじりながら言う。誰かに電話をかけるらしい。
「あ、もしもーーし。杏ちゃん?もうすぐ終わるから、遊びに行っていい?」
現在の時刻、日曜日の22時。普通の社会人なら、明日に備えてそろそろ寝る時間だろう。遊ぶような時間じゃない。
「えーーいいじゃん、会いたいよ、エッチもしたい。寝ないで待ってて」
おいおい、楽屋でアイドルが言うセリフじゃないだろう。なんだかんだと話した後、
「わーーい。すぐ行くからね。杏ちゃん、大好きだよ」
アホなのか?
相手の女もきっとアホなギャルかなんかだろう。勝手な想像だけど。
「コウキのレコーディングが終わったら、全員の部分もやるんだから、さっさっと行って終わらせてよ。ボクの大事な杏ちゃんが、寝不足になってもいいの?」
電話を終えたケイタに言われる。こいつは年上で先輩を敬う気持ちがゼロだな。
そもそも、誰だよ。杏ちゃんって。
「アンケートは、ボクとアラタで書いておくよ~~」
楽屋を追い出された。
アイドルだって悩みはある。国宝級イケメンだって言われても、自信が無いものは無い。
わがままひとつ言えない、手をつないで街を歩けない、将来を考えることができない。
そんな彼氏より、身近にいる男に靡くのではないか。当然だと思う。
不安ばかりが募る。
コンプレックスはアイドルであること。
なるほど、確かにそう言えるな。
A4サイズのプリント用紙を前に、ボールペンをくるくると回し、どうしたもんかと考える。
「まだ書いてるの?」
楽屋に置かれた弁当を食べながら、ケイタに声をかけられた。
わざとなのか?
頬に米粒がついている。スタイリストやメイクの女性スタッフがいれば、『やだーー、ケイちゃんかわいい』とか言って、その米粒をパクっと食べてもらうのだろうが、今は俺しかいない。
注意してやる気もない。
「コウキって、本当に優等生で真面目だね」
「うるせ」
「バラエティー番組のアンケートなんて、パパッと適当でいいんだよ。そのお弁当、食べないならボクが2個いただいていい?」
そう言って、うなぎ弁当に手を伸ばした。
「手の甲に穴を空けてやろうか?」
ボールペンを握りしめる。
「こわーーい。美咲ちゃんに言ってやる」
「なんだと」
「コウキはコンプレックスのかたまりじゃんね~~」
言い捨てるように、米粒をつけたまはま楽屋を出ていった。
そう、確かにそうだ。
今でこそ、国宝級イケメンなんて言われて、ありがたいことに、たくさんの女の子からキャーキャー言われているが、子供の頃は人見知りで自己主張が無い子供だった。
だいたい、このアンケートってなんなんだ。
映画の宣伝のため、共演者と観光地をブラブラする企画のはずだ。スタジオのトークならともかく、こんな大量の質問は必要なのか?
「コンプレックス?真面目過ぎることって書いとけよ」
いつの間にいたのか、背後からアラタの声がした。
「まだ書いてたのか。ケイタが終わったら次はコウキだぞ」
今日はアラタとケイタと俺の3人の楽曲のレコーディングをしている。アルバムの初回特典映像のため、レコーディング風景の撮影もあるから、わざわざメイクまでしている。
「お、うなぎ弁当」
「おい、アラタはジャンケン負けただろ。唐揚げでも食べてろよ」
数種類ある弁当を選ぶ順番は、毎回ジャンケンがお決まりだ。年功序列という言葉は、dulcis〈ドゥルキス〉には無い。
「最近、美咲ちゃんと会えてるの?」
「まぁ、向こうの寝不足さえ考慮しなければね」
どうしても夜型になるこの仕事。土日に合わせようと遠慮をしたら、なかなか会えない。
「アラタは、彼女が他の男に告白されたとか、手を出されたとか、知ったらどうする?」
「うん、そうだね。殺すかな」
「おい」
「冗談だよ」
それはわかってる。 ただ、目が本気だな。
「つまり、あれだ。コウキは自分に自信がないんだな」
図星だ。
「ただいまぁ」
早くもケイタが戻って来た。
ケイタは、ダンスの振り入れ以外は、何をやらせても要領が良い。ささっとこなしてきやがる。レコーディングもほぼ一発録りなんだろう。
「うげ、まだ書いてるの?」
「言うな、ケイタ。コウキの機嫌がこれ以上悪くなると面倒臭い」
アラタは唐揚げをパクつきながら笑っている。
「コウキのコンプレックスは、アイドルであること。だよねーー」
ケイタは自分のスマホをいじりながら言う。誰かに電話をかけるらしい。
「あ、もしもーーし。杏ちゃん?もうすぐ終わるから、遊びに行っていい?」
現在の時刻、日曜日の22時。普通の社会人なら、明日に備えてそろそろ寝る時間だろう。遊ぶような時間じゃない。
「えーーいいじゃん、会いたいよ、エッチもしたい。寝ないで待ってて」
おいおい、楽屋でアイドルが言うセリフじゃないだろう。なんだかんだと話した後、
「わーーい。すぐ行くからね。杏ちゃん、大好きだよ」
アホなのか?
相手の女もきっとアホなギャルかなんかだろう。勝手な想像だけど。
「コウキのレコーディングが終わったら、全員の部分もやるんだから、さっさっと行って終わらせてよ。ボクの大事な杏ちゃんが、寝不足になってもいいの?」
電話を終えたケイタに言われる。こいつは年上で先輩を敬う気持ちがゼロだな。
そもそも、誰だよ。杏ちゃんって。
「アンケートは、ボクとアラタで書いておくよ~~」
楽屋を追い出された。
アイドルだって悩みはある。国宝級イケメンだって言われても、自信が無いものは無い。
わがままひとつ言えない、手をつないで街を歩けない、将来を考えることができない。
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