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〈マネージャーの話2〉あの日から彼は変わった
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18時15分。だめだ、時間がない。
勤務先のアイドル事務所、MICOプロダクションのオフィスに戻ると、
「葉山さん、コウキさんいました?」
後輩の汐見が心配そうにやって来た。
「植物園には来たみたいだけど、もう帰った後だった」
受付の女の子が、そう答えてくれた。素直な真面目そうな子だったから、ウソはないだろう。
「ラジオの生放送、20時からですよね」
dulcis〈ドゥルキス〉のメンバーが、週替わりでパーソナリティを務める冠番組。普段は収録だが、今夜は生放送だ。電話で直接ファンからのメッセージや質問に答えるという企画だ。
「ケイタさんの具合はどうです?」
「亀ちゃんが付き添ってるから、まぁ、大丈夫でしょう。若いから体力もあるし」
午前中はバラエティーのロケに同行していたが、途中から顔色が悪くなり、なんとか終えた後に病院へ連れて行くと、案の定インフルエンザだった。
1月中旬、ニュースでも大流行していると、連日報道されている。
毎晩フラフラと飲み歩いているからだと、説教をしたい気持ちは押さえ、とにかく早く回復してもらう外はない。
とにかく、代わりのメンバーをなんとかしないと、生放送に穴が空く。
ジュンはオフだが、地元の東北に帰省中。祖父の三回忌らしい。ものすごい田舎なので、今から呼び出しても間に合わない。
アラタはフランス。アンバサダーに就任したブランドのイベントで、今夜20時に羽田空港着の飛行機で帰国予定。予定より早く飛行機が到着したとして、いや、考えても現実的ではない。
サクヤは都内の劇場で舞台がある。19時半には終幕だから、終わり次第スタジオにタクシーを飛ばせば、時間はなんとか間に合うか。
「コウキさん、都内にいるんでしょうか。オフだから、どこか日帰り旅行とか、遠出してるんじゃないですか?」
それは無いと確信している。
プライベートであっても、遠出する際は駆らなず私に報告がある。誰とどこへ行くか、その交通手段さえも伝えてくる。マネージャーから見て、本当に手のかからない優秀なアイドルなのだ。
だからこそ、めずらしい。
経緯はすでにメッセージを送っているし、既読にもなっているのに、返信も折り返しの電話もない。何かトラブルや事故でないならいいのだが。
「他のグループで、動けそうな子をピックアップしました。すぐ動けそうです」
「ありがとう」
リストに目を滑らせる。残念だけど、誰もパッとしない。dulcis〈ドゥルキス〉の冠番組だもの、ね。
「仕方ない、サクヤに連絡するか」
本人は舞台本場中だから、他のスタッフに連絡して、幕間に伝えてもらうしかないか。サクヤはMCもできて機転が利くから、ぶっつけ本番でも、上手くこなしてくれるだろう。
でも、その前に。コウキへ連絡してみる。
『もしもし?』
でた。ものすごく、不機嫌そうな声で。
「やっと出たわね」
『運転中からずーーーーと着信あったよね』
「気づいたなら出て欲しいわ」
『悪いけど、こっちも自分の幸せがかかってるから』
「はい?」
『メッセージは見たけど、一応、聞くね。サクヤがなんとかできない?』
とりあえず、連絡が取れない理由はトラブルや事故でなくて安堵する。
「なんとかならなければ、なんとかするわ」
『なにそれ、謎かけ?』
出会って10年くらいの付き合いだもの。もう、本当は分かってる。電話に出た時点で答えは決まってるんでしょう。
『俺の一大決心だったのに、フラれたら葉山さんを恨むよ』
フラれる?コウキが、誰に?国宝級イケメンなんて言われているくせに。
『貸しひとつってことにして。次にオフ希望出したときは、絶対ジャマしないでよ』
「分かった。そのときはケイタにやらせる」
『30分後にスタジオ入りする』
「助かるわ!私も今からスタジオに向かうから」
電話を切ると、汐見に何とかなったことを伝えると、すぐにラジオの担当者へ、コウキが代打になることを連絡しはじめた。
◆◆◆
「みなさん、こんばんわ!今夜の『どぅする?ドゥルキス?』生放送スペシャルは、コウキが担当します。番組公式サイトでは質問を受け付けているので、時間が許す限り回答します」
本番1時間前にスタジオ入りができたことと、慣れたスタッフの多い現場だったことから、コウキの進行はスムーズで、見ていて安心できた。
早めの受診が功をなし、ケイタの熱も下がったようだ。事務所のすぐ近くのマンションだから、明日は様子を見に行こう。
アラタは無事に帰国し今夜は自宅へ直帰。長いフライトの後だ、ゆっくりしてほしい。
サクヤも舞台を終えて、今夜は出演者と飲みに行くという。まぁ、羽目を外さず適度に飲んでくれればいいだろう。
ジュンは明日の昼には東京駅に着き、午後の音楽番組のスタジオに直行すると、連絡が入っている。
はぁ、やれやれ。可愛い我が子のような5人とはいえ、全員をまとめるのは大変だわ。
「続いての質問です。マミちゃん、小学5年生の女の子からです。片思いをしている好きな人に、度すれば気持ちが届きますか?緊張してうまく話せないまま、春にはクラス替えで離れてしまうかもしれません」
ガラスの向こう、キレイな横顔が見える。
「わかるよ、すごく。今日こそって何度も思っても、なかなか声をかけれなくて、情けないなって反省するんだよね」
さっきまでクールに無難に質問を答えていたのに、急に、リアルな雰囲気が漂う。
「俺なんて27才だけど、大人になった今でも、好きな人に話しかけるのは緊張するし、うまくいかないこともあるよ」
おいおいおいおい。ちょっと待て。
一応、アイドル、ファンが恋人という設定でいて欲しい。
「だから、マミちゃんの気持ちはすごくわかる。勇気を出して、一言でいいから、好きな人に声をかけみてね。何かがはじまるきっかけは、自分からつかまないと、ね」
番組のコメント欄は『コウキ、好きな人いるの?』『答えが妙にリアルで驚く』『コウキまさかの片思い?』といった内容であふれ出した。
バレバレじゃない。
ずっと優等生だと思っていけれど、そうだ。コウキは俳優なのに、嘘が大っ嫌いだったわね。
勤務先のアイドル事務所、MICOプロダクションのオフィスに戻ると、
「葉山さん、コウキさんいました?」
後輩の汐見が心配そうにやって来た。
「植物園には来たみたいだけど、もう帰った後だった」
受付の女の子が、そう答えてくれた。素直な真面目そうな子だったから、ウソはないだろう。
「ラジオの生放送、20時からですよね」
dulcis〈ドゥルキス〉のメンバーが、週替わりでパーソナリティを務める冠番組。普段は収録だが、今夜は生放送だ。電話で直接ファンからのメッセージや質問に答えるという企画だ。
「ケイタさんの具合はどうです?」
「亀ちゃんが付き添ってるから、まぁ、大丈夫でしょう。若いから体力もあるし」
午前中はバラエティーのロケに同行していたが、途中から顔色が悪くなり、なんとか終えた後に病院へ連れて行くと、案の定インフルエンザだった。
1月中旬、ニュースでも大流行していると、連日報道されている。
毎晩フラフラと飲み歩いているからだと、説教をしたい気持ちは押さえ、とにかく早く回復してもらう外はない。
とにかく、代わりのメンバーをなんとかしないと、生放送に穴が空く。
ジュンはオフだが、地元の東北に帰省中。祖父の三回忌らしい。ものすごい田舎なので、今から呼び出しても間に合わない。
アラタはフランス。アンバサダーに就任したブランドのイベントで、今夜20時に羽田空港着の飛行機で帰国予定。予定より早く飛行機が到着したとして、いや、考えても現実的ではない。
サクヤは都内の劇場で舞台がある。19時半には終幕だから、終わり次第スタジオにタクシーを飛ばせば、時間はなんとか間に合うか。
「コウキさん、都内にいるんでしょうか。オフだから、どこか日帰り旅行とか、遠出してるんじゃないですか?」
それは無いと確信している。
プライベートであっても、遠出する際は駆らなず私に報告がある。誰とどこへ行くか、その交通手段さえも伝えてくる。マネージャーから見て、本当に手のかからない優秀なアイドルなのだ。
だからこそ、めずらしい。
経緯はすでにメッセージを送っているし、既読にもなっているのに、返信も折り返しの電話もない。何かトラブルや事故でないならいいのだが。
「他のグループで、動けそうな子をピックアップしました。すぐ動けそうです」
「ありがとう」
リストに目を滑らせる。残念だけど、誰もパッとしない。dulcis〈ドゥルキス〉の冠番組だもの、ね。
「仕方ない、サクヤに連絡するか」
本人は舞台本場中だから、他のスタッフに連絡して、幕間に伝えてもらうしかないか。サクヤはMCもできて機転が利くから、ぶっつけ本番でも、上手くこなしてくれるだろう。
でも、その前に。コウキへ連絡してみる。
『もしもし?』
でた。ものすごく、不機嫌そうな声で。
「やっと出たわね」
『運転中からずーーーーと着信あったよね』
「気づいたなら出て欲しいわ」
『悪いけど、こっちも自分の幸せがかかってるから』
「はい?」
『メッセージは見たけど、一応、聞くね。サクヤがなんとかできない?』
とりあえず、連絡が取れない理由はトラブルや事故でなくて安堵する。
「なんとかならなければ、なんとかするわ」
『なにそれ、謎かけ?』
出会って10年くらいの付き合いだもの。もう、本当は分かってる。電話に出た時点で答えは決まってるんでしょう。
『俺の一大決心だったのに、フラれたら葉山さんを恨むよ』
フラれる?コウキが、誰に?国宝級イケメンなんて言われているくせに。
『貸しひとつってことにして。次にオフ希望出したときは、絶対ジャマしないでよ』
「分かった。そのときはケイタにやらせる」
『30分後にスタジオ入りする』
「助かるわ!私も今からスタジオに向かうから」
電話を切ると、汐見に何とかなったことを伝えると、すぐにラジオの担当者へ、コウキが代打になることを連絡しはじめた。
◆◆◆
「みなさん、こんばんわ!今夜の『どぅする?ドゥルキス?』生放送スペシャルは、コウキが担当します。番組公式サイトでは質問を受け付けているので、時間が許す限り回答します」
本番1時間前にスタジオ入りができたことと、慣れたスタッフの多い現場だったことから、コウキの進行はスムーズで、見ていて安心できた。
早めの受診が功をなし、ケイタの熱も下がったようだ。事務所のすぐ近くのマンションだから、明日は様子を見に行こう。
アラタは無事に帰国し今夜は自宅へ直帰。長いフライトの後だ、ゆっくりしてほしい。
サクヤも舞台を終えて、今夜は出演者と飲みに行くという。まぁ、羽目を外さず適度に飲んでくれればいいだろう。
ジュンは明日の昼には東京駅に着き、午後の音楽番組のスタジオに直行すると、連絡が入っている。
はぁ、やれやれ。可愛い我が子のような5人とはいえ、全員をまとめるのは大変だわ。
「続いての質問です。マミちゃん、小学5年生の女の子からです。片思いをしている好きな人に、度すれば気持ちが届きますか?緊張してうまく話せないまま、春にはクラス替えで離れてしまうかもしれません」
ガラスの向こう、キレイな横顔が見える。
「わかるよ、すごく。今日こそって何度も思っても、なかなか声をかけれなくて、情けないなって反省するんだよね」
さっきまでクールに無難に質問を答えていたのに、急に、リアルな雰囲気が漂う。
「俺なんて27才だけど、大人になった今でも、好きな人に話しかけるのは緊張するし、うまくいかないこともあるよ」
おいおいおいおい。ちょっと待て。
一応、アイドル、ファンが恋人という設定でいて欲しい。
「だから、マミちゃんの気持ちはすごくわかる。勇気を出して、一言でいいから、好きな人に声をかけみてね。何かがはじまるきっかけは、自分からつかまないと、ね」
番組のコメント欄は『コウキ、好きな人いるの?』『答えが妙にリアルで驚く』『コウキまさかの片思い?』といった内容であふれ出した。
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