55 / 120
第5章 ◇怒涛の 1st WEEK
◆11 オーナーの想い
しおりを挟む
「オーナー!ちょっとお話しがあるんですが」
「あら、連夜さん」
「店前に開店を待っているお客様が4名いらっしゃるんですが、5分くらい早く中に入れてあげる訳にはいきませんか?」
「まあ!早速上々なスタートですね、構いませんよ。葵さん、宜しくお願いします」
「分かりました」
オーナーの指示で、葵さんが動く。準備を進めていたフロアスタッフに、すぐに中に入れるよう指示を出してくれた。
「ありがとうございます」
「お客様を最大限もてなすのが『オブリビオン』ですからね」
「ところで……しばらく俺からの連絡を完全に無視してましたよね?」
「あらー?何のことかしらー??」
俺がずっと訴えたかった文句をここぞとばかりにぶつけると、全く記憶にないわねー?と言いながら小首を傾げている。高城さん同様、百戦錬磨の食えない人だけど……嘘の吐き方はとても下手だなと思う。
「……ごめんなさい。貴方が辞めるのは、まだまだ先だと思っていたから……皇さんが、執着するのも分かるの。だから少しでも先延ばしに出来ないかしらと思っていたのは確かよ」
「!」
とぼけるのを途中であきらめた叶恵さんは、あっさりと本音を溢した。
「正直、本当に残念。皇さんと2人でもっと『オブリビオン』を盛り上げて欲しかったわ」
突然、オーナーが寂しそうな声を出し、真剣な瞳を俺に向けて来た。自分を求めてくれているのは分かる。だから、思わず言葉に詰まる。
「オーナー、俺は――」
「蓮夜さん、この世界で大勢の男性を見てきた私の眼にもね、貴方は此方側の世界で輝く人、という風に映っているの。だから、本当は引き留めたいけれど……この勝負に結果を委ねることにしたわ。貴方もそれで良いのね?」
「はい、絶対負けませんから」
俺が強気にそう言えば、オーナーの声にも真剣さが増す。
「貴方の周りの人が、『川嶋蓮』を求めているのか『蓮夜』を求めているのか――分かりやすい話よね?ある意味、貴方にとっては、これまでの自分と向き合うことになるのかもしれないけど」
俺を見詰めて、そっと頬を撫でた。それが母親のような仕種だったので、俺の胸は余計に痛んだ。
「とにかく!店全体でこのイベントを盛り上げたいと思っているから。電話を無視し続けたのはそれで赦してね?」
「あ!ついでと言ってはなんですが……もうひとつお願いが」
「なぁに?弱みにつけ込もうとしてるわね?」
***
「……ふぅん。それはそれで面白い試みかも」
俺の話を聞いた叶恵さんは、そう言って指でOKサインを作り、うふふと笑って。じゃあ詳しいことはまた後でねと背を向けた。
いつもお茶目で可愛らしく、俺たちプレイヤーを気にかけてくれる。我儘なところもあるけど憎めない人……なんだよな。帯に舞う白い蝶を見送っていたら、もう怒る気持ちもふわりと消えてしまっていた。
それから、チーフマネージャーで高城さんの相方でもある葵さんに、改めて挨拶をしにいく。この勝負の話しが持ち上がってから、きちんと話せるタイミングがずっとなかったのだ。
葵さんはいつものように淡い微笑みを浮かべ、穏やかな雰囲気のまま俺に話しかけてくる。
「……蓮夜くん、君――この勝負で負けたら下僕なんだって?」
「はは、ですね。そういう賭けに乗っかりました」
苦笑しながら答える。
「そう……まあ私はオーナーと違って、君が辞めたいならそれで良いと思うんだけど……でも申し訳ない。皇が、君を望むなら話は違ってくる」
そう言って、涼しい表情で俺を見詰めるその瞳には、射竦めるような光が宿って。
そして『皇』と、高城さんを呼び捨てにする。葵さんは『オブリビオン』でそれが許されている唯一の人だ。
「――この店の王様がそれを望むなら、私はそれを叶える義務がある。彼に君を差し出せる様に、全力を尽くすよ」
ニッコリと、とても優しい微笑みを浮かべながら――握手を求めて右手を差し出してくる。
実に恐ろしい台詞をにこやかに言われ、俺は笑顔を引き攣らせながらも、その手を力強く握りかえした。
(実に爽やかに清々しく、凄んでくるよなぁー!)
「あら、連夜さん」
「店前に開店を待っているお客様が4名いらっしゃるんですが、5分くらい早く中に入れてあげる訳にはいきませんか?」
「まあ!早速上々なスタートですね、構いませんよ。葵さん、宜しくお願いします」
「分かりました」
オーナーの指示で、葵さんが動く。準備を進めていたフロアスタッフに、すぐに中に入れるよう指示を出してくれた。
「ありがとうございます」
「お客様を最大限もてなすのが『オブリビオン』ですからね」
「ところで……しばらく俺からの連絡を完全に無視してましたよね?」
「あらー?何のことかしらー??」
俺がずっと訴えたかった文句をここぞとばかりにぶつけると、全く記憶にないわねー?と言いながら小首を傾げている。高城さん同様、百戦錬磨の食えない人だけど……嘘の吐き方はとても下手だなと思う。
「……ごめんなさい。貴方が辞めるのは、まだまだ先だと思っていたから……皇さんが、執着するのも分かるの。だから少しでも先延ばしに出来ないかしらと思っていたのは確かよ」
「!」
とぼけるのを途中であきらめた叶恵さんは、あっさりと本音を溢した。
「正直、本当に残念。皇さんと2人でもっと『オブリビオン』を盛り上げて欲しかったわ」
突然、オーナーが寂しそうな声を出し、真剣な瞳を俺に向けて来た。自分を求めてくれているのは分かる。だから、思わず言葉に詰まる。
「オーナー、俺は――」
「蓮夜さん、この世界で大勢の男性を見てきた私の眼にもね、貴方は此方側の世界で輝く人、という風に映っているの。だから、本当は引き留めたいけれど……この勝負に結果を委ねることにしたわ。貴方もそれで良いのね?」
「はい、絶対負けませんから」
俺が強気にそう言えば、オーナーの声にも真剣さが増す。
「貴方の周りの人が、『川嶋蓮』を求めているのか『蓮夜』を求めているのか――分かりやすい話よね?ある意味、貴方にとっては、これまでの自分と向き合うことになるのかもしれないけど」
俺を見詰めて、そっと頬を撫でた。それが母親のような仕種だったので、俺の胸は余計に痛んだ。
「とにかく!店全体でこのイベントを盛り上げたいと思っているから。電話を無視し続けたのはそれで赦してね?」
「あ!ついでと言ってはなんですが……もうひとつお願いが」
「なぁに?弱みにつけ込もうとしてるわね?」
***
「……ふぅん。それはそれで面白い試みかも」
俺の話を聞いた叶恵さんは、そう言って指でOKサインを作り、うふふと笑って。じゃあ詳しいことはまた後でねと背を向けた。
いつもお茶目で可愛らしく、俺たちプレイヤーを気にかけてくれる。我儘なところもあるけど憎めない人……なんだよな。帯に舞う白い蝶を見送っていたら、もう怒る気持ちもふわりと消えてしまっていた。
それから、チーフマネージャーで高城さんの相方でもある葵さんに、改めて挨拶をしにいく。この勝負の話しが持ち上がってから、きちんと話せるタイミングがずっとなかったのだ。
葵さんはいつものように淡い微笑みを浮かべ、穏やかな雰囲気のまま俺に話しかけてくる。
「……蓮夜くん、君――この勝負で負けたら下僕なんだって?」
「はは、ですね。そういう賭けに乗っかりました」
苦笑しながら答える。
「そう……まあ私はオーナーと違って、君が辞めたいならそれで良いと思うんだけど……でも申し訳ない。皇が、君を望むなら話は違ってくる」
そう言って、涼しい表情で俺を見詰めるその瞳には、射竦めるような光が宿って。
そして『皇』と、高城さんを呼び捨てにする。葵さんは『オブリビオン』でそれが許されている唯一の人だ。
「――この店の王様がそれを望むなら、私はそれを叶える義務がある。彼に君を差し出せる様に、全力を尽くすよ」
ニッコリと、とても優しい微笑みを浮かべながら――握手を求めて右手を差し出してくる。
実に恐ろしい台詞をにこやかに言われ、俺は笑顔を引き攣らせながらも、その手を力強く握りかえした。
(実に爽やかに清々しく、凄んでくるよなぁー!)
20
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
愛のかたち
すずかけあおい
BL
彼女にフラれた久遠が居酒屋でヤケ酒をしていたら、隣で飲む男性もペースが速い。
男性(史呉)も彼女にフラれたと話して…。
〔攻め〕長内 史呉(おさない しぐれ)
〔受け〕浦 久遠(うら くおん)
※執着ENDと甘口ENDがあります。どちらもハッピーエンドです。(執着攻めor甘口攻め)
※性描写はないですが、ふたりでシャワーを浴びる場面があります。※
表紙の画像はスグリです。
花言葉は「あなたを喜ばせる」、「あなたに嫌われたら私は死にます」、「あなたの不機嫌が私を苦しめる」です。
外部サイトでも同作品を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる