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第8章 ◇波乱の 3rd WEEK
◆8 望まれているもの②
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「……逆に、俺が過保護で弱気だと、皇さんは思ったみたいです」
「君は、自分の事だと大胆なのに……ユキの事になると急に母親みたいに心配症になる。どうしてです?」
「俺、そんな風に見えてますか?」
「ええ。彼が傷付くことをとても怖がっている……そう見えます」
そう言われて、ようやく自分の気持ちが分かった気がした。
「……俺は――アイツに、ホストになりたての頃の自分を重ねて見てるのかもしれませんね」
母親に捨てられ高卒でこの世界に飛び込んで、誰にも頼らずに一人で生きるんだと、がむしゃらで、傷付くことも厭わずに無茶をしていた俺――
「ガキだったから……本当は守って欲しかった。誰かに守られていたかったって――心のどこかで思っていたから。ユキの事に過剰に反応するのかも」
「……少し分かります。彼は世間に染まっていない感じがするんですよね。誰よりも他人の無遠慮な視線に晒されて来ている筈なのに……不思議な透明感がある」
「だから皇さんみたいに、ユキの犠牲を当然のように受け入れることが――出来ない。苦しいんです」
「君の、そういう感情も分かりますよ。だけど――ここまで来てしまった以上、皇が言うように、ユキくんが望んでいることを一番に考えてあげるべきじゃないですか?」
「ユキの望み……ユキが望む俺、ですか。それが分からなくて困ってるんですけどね」
俺が苦笑すると、葵さんは静かに微笑む。
「……皇はね。君に夢を見ているんです。自分と同じように、羨望と、憧れと、情熱を捧げられる特別な存在……そういう存在に、君ならなれると思っていたから」
「……!」
多分、と言葉を区切って。
「ユキくんも、そうなんじゃないですか?」
「……え」
「『他の誰にもない、自分を魅了する特別な輝きがこの人にはある』――そういう存在を。我を忘れるほど圧倒的にそう信じさせてくれる、夢を見させてくれる。自分だけの特別な存在を……夜の世界に惹かれる人間は、心の奥のどこかで、皆、求めているんだと思います」
――夢を、見させることが出来る。
仮初めでも、一夜限りでも。
それが出来るのが……多くの人に求められるホストなのだろうか。
ときめかせてくれる存在に、なりきる。
それが出来る限られた存在を――この世界では、誰もが求めている……?
……そうだ。俺も、そうだった筈だ。
輝いている存在に憧れて、この世界に足を踏み入れた……
「だから好きな人ができて燻ぶっている君を見ていたくない――それならいっそ、自分の前から早くいなくなって欲しい……過激で複雑なファン心理ですね」
「!?」
葵さんの口ぶりは、まるでユキの心を全て分かっているかのようで。俺には少し意外だった。いつも、誰からも一歩引いているような葵さんが、思いの外、ユキのことを良く見ているということが伝わってきたからだ。
「……まるで、自分のことみたいに言うんですね」
「そうですね。確かに、一部自分の感情でもありますから」
「?」
「君を前にして、手放すことも手を出すことも出来ない皇を見ていると……少しそんな気分になるんですよ」
「えっ?」
「人の感情は複雑で厄介で……実に面白いものだなと」
「――手を出すことも出来ない、って、どういう意味ですか?」
フフッと、葵さんは妖艶に微笑んだ。
「君は身近な人の感情には、案外鈍感ですね」
謎めいた微笑を浮かべたまま、そのまま立ち去ってしまう。
皇さんも本音が読めない人だけど……葵さんはそれ以上に心の裡が読めないない。俺は煙に巻かれたような気分になる。
冷たい部分と優しい部分が同居していて――こちらの何もかもを全部見透かしているような。
……不思議な人だと思った。
「君は、自分の事だと大胆なのに……ユキの事になると急に母親みたいに心配症になる。どうしてです?」
「俺、そんな風に見えてますか?」
「ええ。彼が傷付くことをとても怖がっている……そう見えます」
そう言われて、ようやく自分の気持ちが分かった気がした。
「……俺は――アイツに、ホストになりたての頃の自分を重ねて見てるのかもしれませんね」
母親に捨てられ高卒でこの世界に飛び込んで、誰にも頼らずに一人で生きるんだと、がむしゃらで、傷付くことも厭わずに無茶をしていた俺――
「ガキだったから……本当は守って欲しかった。誰かに守られていたかったって――心のどこかで思っていたから。ユキの事に過剰に反応するのかも」
「……少し分かります。彼は世間に染まっていない感じがするんですよね。誰よりも他人の無遠慮な視線に晒されて来ている筈なのに……不思議な透明感がある」
「だから皇さんみたいに、ユキの犠牲を当然のように受け入れることが――出来ない。苦しいんです」
「君の、そういう感情も分かりますよ。だけど――ここまで来てしまった以上、皇が言うように、ユキくんが望んでいることを一番に考えてあげるべきじゃないですか?」
「ユキの望み……ユキが望む俺、ですか。それが分からなくて困ってるんですけどね」
俺が苦笑すると、葵さんは静かに微笑む。
「……皇はね。君に夢を見ているんです。自分と同じように、羨望と、憧れと、情熱を捧げられる特別な存在……そういう存在に、君ならなれると思っていたから」
「……!」
多分、と言葉を区切って。
「ユキくんも、そうなんじゃないですか?」
「……え」
「『他の誰にもない、自分を魅了する特別な輝きがこの人にはある』――そういう存在を。我を忘れるほど圧倒的にそう信じさせてくれる、夢を見させてくれる。自分だけの特別な存在を……夜の世界に惹かれる人間は、心の奥のどこかで、皆、求めているんだと思います」
――夢を、見させることが出来る。
仮初めでも、一夜限りでも。
それが出来るのが……多くの人に求められるホストなのだろうか。
ときめかせてくれる存在に、なりきる。
それが出来る限られた存在を――この世界では、誰もが求めている……?
……そうだ。俺も、そうだった筈だ。
輝いている存在に憧れて、この世界に足を踏み入れた……
「だから好きな人ができて燻ぶっている君を見ていたくない――それならいっそ、自分の前から早くいなくなって欲しい……過激で複雑なファン心理ですね」
「!?」
葵さんの口ぶりは、まるでユキの心を全て分かっているかのようで。俺には少し意外だった。いつも、誰からも一歩引いているような葵さんが、思いの外、ユキのことを良く見ているということが伝わってきたからだ。
「……まるで、自分のことみたいに言うんですね」
「そうですね。確かに、一部自分の感情でもありますから」
「?」
「君を前にして、手放すことも手を出すことも出来ない皇を見ていると……少しそんな気分になるんですよ」
「えっ?」
「人の感情は複雑で厄介で……実に面白いものだなと」
「――手を出すことも出来ない、って、どういう意味ですか?」
フフッと、葵さんは妖艶に微笑んだ。
「君は身近な人の感情には、案外鈍感ですね」
謎めいた微笑を浮かべたまま、そのまま立ち去ってしまう。
皇さんも本音が読めない人だけど……葵さんはそれ以上に心の裡が読めないない。俺は煙に巻かれたような気分になる。
冷たい部分と優しい部分が同居していて――こちらの何もかもを全部見透かしているような。
……不思議な人だと思った。
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