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第2章 溺れる人魚は揺れ惑う
◆8 泉水Side:幸せ過ぎて…
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「ああ、ごめんなさい。今、準備しますから――」
「いや!やっぱり今日は大丈夫だ。またにするよ」
「え?いいんですか?」
「泉水くん、その………今、幸せなんだね……?」
「!!」
その言葉から、さっきの会話を聞かれていたと気が付いた。
恥ずかしくて思わず顔が熱くなる。
何と答えたものか返事に困り、目を泳がせた僕を見て、嬉しそうな悲しそうな、眉をしかめた微笑みを浮かべた右京さんは――うんうん、と小さく頷き、自分の口許を手で覆い……うっ、と涙に咽ぶような仕種をする。
「君が幸せなら――私はそれで、っ……!」
「えっ?右京さん、あのっ!?」
昭和の少女漫画の主人公のように、涙がキラキラと流れていく……のが見えたような気がした。
そうして、右京さんは逃げるように、店から走り去ってしまった。
「……いや、乙女かよ。アイツ、段々不憫に思えて来たな」
「…………」
まだ諦めてないのか……というアキさんの呟きが追い討ちをかける。右京さんが走り去った方向を、2人揃って遠い目で見詰めてしまった。
「今の聞かれちゃったとか――恥ずかし過ぎる……!」
がくりとカウンターに突っ伏す僕に対して、アキさんは、ははっと笑い飛ばした。
「ま、アイツにも必要なんじゃないか?未練を断ち切る為のきっかけみたいなもんが、まだまださ。お前と蓮の関係が上手くいってるってちょっとずつ伝われば――少しは吹っ切りやすくなるだろ」
「ん……」
「にしても。人間変われば変わるもんだよなぁー?お前の口から、さっきみたいな台詞を聞くことになるとは」
「実に感慨深い」と呟いてニヤニヤされ、がばっと身体を起こした。
「さっきのは忘れていいから……!あれは、その……譫言!ちょっと先走り過ぎた心配っていうか……別にそうなるとか、本気で思った訳じゃなくて――」
「別に、そんなに慌てて否定しなくていいじゃねーか。お前に必要なのは、自分の気持ちに正直になることだって、よーく分かってんだろ?」
「……っ」
それは確かに、そうだ。
性的な行為が苦手だと思って苦しんでいた時は、自分の心の声を無視していたから、そうなってしまったのであって……
今の、蓮くんとの幸せな現状を、僕はきちんと大切にしなくちゃいけない。
だけど――
「えっと、その……ついでと言っては何だけど、身体の相性が良すぎることにも、困ってるんだけど。そういうのって、どうしたら……?」
「ぶっ」
飲みかけたコーヒーにアキさんが咽せ返り、ぐったりと項垂れた。
「いや!やっぱり今日は大丈夫だ。またにするよ」
「え?いいんですか?」
「泉水くん、その………今、幸せなんだね……?」
「!!」
その言葉から、さっきの会話を聞かれていたと気が付いた。
恥ずかしくて思わず顔が熱くなる。
何と答えたものか返事に困り、目を泳がせた僕を見て、嬉しそうな悲しそうな、眉をしかめた微笑みを浮かべた右京さんは――うんうん、と小さく頷き、自分の口許を手で覆い……うっ、と涙に咽ぶような仕種をする。
「君が幸せなら――私はそれで、っ……!」
「えっ?右京さん、あのっ!?」
昭和の少女漫画の主人公のように、涙がキラキラと流れていく……のが見えたような気がした。
そうして、右京さんは逃げるように、店から走り去ってしまった。
「……いや、乙女かよ。アイツ、段々不憫に思えて来たな」
「…………」
まだ諦めてないのか……というアキさんの呟きが追い討ちをかける。右京さんが走り去った方向を、2人揃って遠い目で見詰めてしまった。
「今の聞かれちゃったとか――恥ずかし過ぎる……!」
がくりとカウンターに突っ伏す僕に対して、アキさんは、ははっと笑い飛ばした。
「ま、アイツにも必要なんじゃないか?未練を断ち切る為のきっかけみたいなもんが、まだまださ。お前と蓮の関係が上手くいってるってちょっとずつ伝われば――少しは吹っ切りやすくなるだろ」
「ん……」
「にしても。人間変われば変わるもんだよなぁー?お前の口から、さっきみたいな台詞を聞くことになるとは」
「実に感慨深い」と呟いてニヤニヤされ、がばっと身体を起こした。
「さっきのは忘れていいから……!あれは、その……譫言!ちょっと先走り過ぎた心配っていうか……別にそうなるとか、本気で思った訳じゃなくて――」
「別に、そんなに慌てて否定しなくていいじゃねーか。お前に必要なのは、自分の気持ちに正直になることだって、よーく分かってんだろ?」
「……っ」
それは確かに、そうだ。
性的な行為が苦手だと思って苦しんでいた時は、自分の心の声を無視していたから、そうなってしまったのであって……
今の、蓮くんとの幸せな現状を、僕はきちんと大切にしなくちゃいけない。
だけど――
「えっと、その……ついでと言っては何だけど、身体の相性が良すぎることにも、困ってるんだけど。そういうのって、どうしたら……?」
「ぶっ」
飲みかけたコーヒーにアキさんが咽せ返り、ぐったりと項垂れた。
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