【第二部】恋するホストと溺れる人魚と、多分、愛の話

凍星

文字の大きさ
19 / 120
第2章 溺れる人魚は揺れ惑う

◆8 泉水Side:幸せ過ぎて…

しおりを挟む
「ああ、ごめんなさい。今、準備しますから――」
「いや!やっぱり今日は大丈夫だ。またにするよ」
「え?いいんですか?」
「泉水くん、その………今、幸せなんだね……?」
「!!」

その言葉から、さっきの会話を聞かれていたと気が付いた。
恥ずかしくて思わず顔が熱くなる。
何と答えたものか返事に困り、目を泳がせた僕を見て、嬉しそうな悲しそうな、眉をしかめた微笑みを浮かべた右京さんは――うんうん、と小さく頷き、自分の口許を手で覆い……うっ、と涙にむせぶような仕種をする。

「君が幸せなら――私はそれで、っ……!」
「えっ?右京さん、あのっ!?」

昭和の少女漫画の主人公のように、涙がキラキラと流れていく……のが見えたような気がした。
そうして、右京さんは逃げるように、店から走り去ってしまった。

「……いや、乙女かよ。アイツ、段々不憫に思えて来たな」
「…………」

まだ諦めてないのか……というアキさんの呟きが追い討ちをかける。右京さんが走り去った方向を、2人揃って遠い目で見詰めてしまった。

「今の聞かれちゃったとか――恥ずかし過ぎる……!」

がくりとカウンターに突っ伏す僕に対して、アキさんは、ははっと笑い飛ばした。

「ま、アイツにも必要なんじゃないか?未練を断ち切る為のきっかけみたいなもんが、まだまださ。お前と蓮の関係が上手くいってるってちょっとずつ伝われば――少しは吹っ切りやすくなるだろ」
「ん……」
「にしても。人間変われば変わるもんだよなぁー?お前の口から、さっきみたいな台詞を聞くことになるとは」

「実に感慨深い」と呟いてニヤニヤされ、がばっと身体を起こした。

「さっきのは忘れていいから……!あれは、その……譫言うわごと!ちょっと先走り過ぎた心配っていうか……別にそうなるとか、本気で思った訳じゃなくて――」
「別に、そんなに慌てて否定しなくていいじゃねーか。お前に必要なのは、自分の気持ちに正直になることだって、よーく分かってんだろ?」
「……っ」

それは確かに、そうだ。
性的な行為が苦手だと思って苦しんでいた時は、自分の心の声を無視していたから、そうなってしまったのであって……
今の、蓮くんとの幸せな現状を、僕はきちんと大切にしなくちゃいけない。

だけど――

「えっと、その……ついでと言っては何だけど、身体の相性が良すぎることにも、困ってるんだけど。そういうのって、どうしたら……?」
「ぶっ」

飲みかけたコーヒーにアキさんがせ返り、ぐったりと項垂れた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アイドルですがピュアな恋をしています。~お付き合い始めました~

雪 いつき
BL
人気アイドルユニットに所属する見た目はクールな隼音は、たまたま入った店のパティシエ、花楓に恋をしてしまった。 見た目はクール、中身はフレンドリーな隼音は、持ち前の緩さで距離を縮めていく。 毎週ケーキを買うだけで、話をするだけで、幸せだから……な筈が、紆余曲折あり晴れて恋人同士に! 周りを巻き込みがちな、初恋同士のふたりのピュアでゆるゆるな恋のお話。 ―二十歳イケメンアイドル×年上パティシエの、恋人編!― ※こちらからでも読めるかと思いますが、前作は下↓のフリースペースからリンクを繋いでおります。

染まらない花

煙々茸
BL
――六年前、突然兄弟が増えた。 その中で、四歳年上のあなたに恋をした。 戸籍上では兄だったとしても、 俺の中では赤の他人で、 好きになった人。 かわいくて、綺麗で、優しくて、 その辺にいる女より魅力的に映る。 どんなにライバルがいても、 あなたが他の色に染まることはない。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

想いの名残は淡雪に溶けて

叶けい
BL
大阪から東京本社の営業部に異動になって三年目になる佐伯怜二。付き合っていたはずの"カレシ"は音信不通、なのに職場に溢れるのは幸せなカップルの話ばかり。 そんな時、入社時から面倒を見ている新人の三浦匠海に、ふとしたきっかけでご飯を作ってあげるように。発言も行動も何もかも直球な匠海に振り回されるうち、望みなんて無いのに芽生えた恋心。…もう、傷つきたくなんかないのに。

インフルエンサー

うた
BL
イケメン同級生の大衡は、なぜか俺にだけ異様なほど塩対応をする。修学旅行でも大衡と同じ班になってしまって憂鬱な俺だったが、大衡の正体がSNSフォロワー5万人超えの憧れのインフルエンサーだと気づいてしまい……。 ※pixivにも投稿しています

冬は寒いから

青埜澄
BL
誰かの一番になれなくても、そばにいたいと思ってしまう。 片想いのまま時間だけが過ぎていく冬。 そんな僕の前に現れたのは、誰よりも強引で、優しい人だった。 「二番目でもいいから、好きになって」 忘れたふりをしていた気持ちが、少しずつ溶けていく。 冬のラブストーリー。 『主な登場人物』 橋平司 九条冬馬 浜本浩二 ※すみません、最初アップしていたものをもう一度加筆修正しアップしなおしました。大まかなストーリー、登場人物は変更ありません。

コメント欄の向こう側

西野おぐ
BL
動画サイトで料理動画を配信している紺野夏月は、ある日、自分の動画に人気ゲーム実況配信者の冬海からコメントをもらったことがきっかけで、彼とお互いの動画のコメント欄でやり取りをするようになった。人気配信者同士のやり取りが、いつの間にかリスナーたちの目に止まって話題となっていく。 攻め:人気ゲーム実況配信者、受け:人気料理動画配信者です。両方の視点で進みます。動画サイトはYouTube、SNSはXがモチーフです。 本編は全30話 番外編(後日談)は他サイトにて公開しています! 表紙画像はXでいただきました♫

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

処理中です...