【完結】最強魔力を隠したら、国外追放されて、隣国の王太子に求婚されたのですが、隠居生活を望むのでお断りします!

砂月かの

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~【第2部】王太子殿下の最愛押しが強すぎる?!~

第24話 憤怒にわななく

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4人が無事にその場を離れ、私は急いでヴォルフガングの元へと走る。肩から流れる血が大地を赤く染め、先ほどの雷霆により、腕にも火傷を負ったのか、肌が黒く焼けており、早く治療しないとお父さんが死んじゃうと、心臓が止まりそうだった。

「儂だけ除け者かッ」

高く足をあげ、レンブラントがヴォルフガングを踏み潰そうとしたが、その足を片腕で押しのけ、今度はヴォルフガングがレンブラントを大地に倒す。

「先ほどから貴様は何を話しておるのだ」
「この国にいるのは分かっておる。さっさと返せ」
「貴様の物を奪った覚えはない」

何かを返せと言われ、ヴォルフガングはレンブラントから貰ったものなどないと、はっきりと言い切れば、「儂を年寄り扱いしおって、まだ呆けてはおらぬわッ」と、さらに激怒したレンブラントが立ち上がり、ヴォルフガングに体当たりを喰らわす。
ぶつかった衝撃で傷口から血液が噴き出す。その光景に私は本当に心臓が止まりそうになる。今すぐにでも治癒魔法を施したいけど、距離が遠すぎてさすがに届かない。

「大丈夫か、アリア」

ショック過ぎて足を止めてしまった私に、アシュレイが声をかけてくれたけど、耳に入らない。目の前で争うドラゴンたちを止める術を探すので精一杯だった。
どの魔法なら止められるの? 何を唱えればいいの? と脳内はパニックを引き起こし、冷静な判断が出来ない状態だった。

「アリアっ、しっかりしろ」

目の前にやってきたアシュレイが肩を揺すって、私はようやく我に返る。

「ア、……シュレイ王太子、……様?」
「大丈夫だ、ヴォルフガング殿は強い」

そう言いながら、アシュレイが強く抱きしめてきた。負けるはずがない、死んだりはしないと、強く強く何度も私に言い聞かせてくれた。

「……そうよね、お父さんは最強だもの」

溢れてくる涙を止められないまま、私はアシュレイにしがみつく。
その時だった、手が出せず傍観していたはずのルーフェスが近くに戻ってきたのは。

「大切な人を泣かせて、何やってんのよ!!」

耳を塞ぎたくなるほどの大きな声を出したルーフェスは、ヴォルフガングとレンブラントに向かって怒鳴り声をあげた。

「ルーフェス……?」
「誰が泣いておるじゃと?」

ヴォルフガングの左足に、鋭い爪を突き刺したレンブラントも、動きをとめルーフェスに視線を向ける。
足元に誰かいる? レンブラントは目を凝らすが、酔っているせいかなかなか視点が合わない。それにくらべ、ヴォルフガングははっきりとアリアの姿が見えた。
アシュレイに抱きしめられながら、大量の涙を流しており、胸が激しく痛む。

「――ッ、アリア!」

娘が泣いている。それがどうにも我慢できず、ヴォルフガングが名を叫べば、レンブラントが琥珀色の眼を最大まで見開く。
酔っているとはいえ、凝視すればその姿が目に映る。
そこにいたのは、愛しくて可愛くて、どうしようもなく会いたかった人物で、レンブラントは瞬時にその姿を消す。
突然視界から消えたレンブラントに、アシュレイもヴォルフガングも困惑したが、すぐに行方は分かった。

っ、会いたかったぞ」

凄まじい勢いで走ってきた金色の髭を生やした老人が、突進してきた。たぶん、レンブラントで間違いないと思うけど、怖い、怖すぎると、体を震わせたら、アシュレイが私の前に立ちはだかった。

「止まれ!」

剣を構えて、老人に寄るなと一喝。当然足を止めたレンブラントは、それが面白くない。
しかし、そのアシュレイの隣に、人型になったルーフェスも剣を構えてゆく手を阻む。

「酔っ払いは、とっとと帰りなさい」
「ルーフェス殿?」
「渡しちゃダメよ、酔っぱらうと手がつけられないから」

絶対にアリアを渡してはいけないと、アシュレイに忠告したルーフェスは、ここは通さないというように、氷の剣先をレンブラントに向ける。

「若造が邪魔をするか……」
「残念だけど、あなたの推しじゃないわよ」

見た目はそっくりだけど、別人だと言ったルーフェスに、レンブラントの瞳が細くなる。

「騙されんぞ」

ルーフェスの言葉は信じられないと、レンブラントは腕まくりをする。打撃攻撃を仕掛けてくるつもりだと、アシュレイが重心を落として攻撃に備えれば、

「お父さんッ!!」

と、背後から声がし、次の瞬間アリアは走り出していた。
レンブラントの後ろから歩いてきたヴォルフガングは、若干足を引きずりながら、全身を血に染め、腕が焦げていた。
ドラゴンの姿で受けた怪我は、そのまま人型になっても同じままで、肩は抉れ、左足には爪で刺された穴が残り、傷口から大量の血が流れ、腕も足も打撲や切り傷が酷く、皮膚が引きちぎられている場所すらあった。

「今、治すからっ」

早く早くと焦れば焦るほど、ブレスレッドが外れない。

「この程度、大したことではない」

泣きながら必死にブレスレッドを外していたら、ヴォルフガングは安心させるようにそう言ってくれたけど、私はやっと外れたブレスレッドを大地に捨てると、急いで治癒魔法を唱える。
そうすれば、ヴォルフガングの怪我は嘘のように治っていく。

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