【完結】最強魔力を隠したら、国外追放されて、隣国の王太子に求婚されたのですが、隠居生活を望むのでお断りします!

砂月かの

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第20話「最強魔力保持は、絶対に話せない」

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真っ先に先頭にでて、村人たちを守ったのはアシュレイで、魔物の目を狙うために自らの腕を犠牲にして攻撃を与えたため、片目の視力を失った魔物は、バランス感覚を失い、命中力も失ったため、時間はかかったが何度も切り込むことで、ようやく討伐できたのだと説明してくれた。

「ところで、アシュレイは無事なのか?」
「村にある毒消し用の薬草は飲ませてもらったけど、一刻も早く医者に診せた方がいいわ」
「馬車に乗せるのは反対だ」

私がローレンに早く医者にと促したら、アレフが割り込むように口を出してきた。

「アレフ、その意図はなんだ」
「道中の道は穏やかではない。主君の身体が激しく揺れることで、毒のまわりが早まる」

それは死に近づくだろうと、アレフの顔が曇る。確かに体内に毒が入り込んでいるのだから、変に動かしたら、身体中に毒が回ってしまう危険性もある。
かといって、このままにしておくことも出来ない。ローレンとアレフは難しい顔をしたまま静止する。
そして導き出した答えは……。

「村に医者を連れてくる」

ローレンは少しでも助かる可能性として、それを口にした。今アシュレイを動かすことは止め、一刻も早く医者を連れてくると決断した。
その意見に皆が賛同した。

「カーティス師団長、その役目、私にご命令を」

突然しゃがみ込んだアレフは、片膝を地面につくとローレンに申し出る。医者を連れてくる任務を自分に託して欲しいと。

「分かった、頼むぞアレフ」
「直ちに」

短く返事を返したアレフは、急ぎ馬車へと走り去っていく。
それから私とローレンは、アシュレイの元へと足を運んだ。
おじさんが話してくれたように、呼吸は随分楽になったように見えた。それでも顔色は真っ青で体温も低いような気がした。

「くそッ、俺がついていながら……」

小さなベッドに横たわるアシュレイを見下ろして、ローレンは拳を壁に叩きつけた。この状況を生み出した原因が、私にあると考えれば考えるほど、私は罪の重みを味わう。
頭を下げて、土下座して許されるなら、喜んでするけど、許される事態じゃない。人の命がかかっているのだ、それも王太子殿下の。

「……アルミス」
「ッ、なんだ?!」
「ごめんなさい。今は魔力が減っていて、完全回復はさせてあげられないけど、傷口位なら治せるから」

朝になればきっと全魔力が戻るはずだけど、今はこれが精いっぱいだと、私は少しでも罪滅ぼしがしたくて、ローレンの傷を治す。

「治癒魔法も使えるのか?」

驚いたように目を見開いたローレンが振り返る。
そういえば、ローレンに攻撃魔法を使うところを見られていた……、つまり、二種の魔法が使用できることをここでバラしてしまったのだ。
治癒魔法と攻撃魔法の両方をまともに使いこなせる者は、世界に数人しかいないとさえ言われている。しかも当然上位魔術師クラス。
治癒魔法を使えるものはあまり多くはない。それも一人治療するのがわりと精一杯な程度だし、高度な治癒魔法は聖女様しか扱えない。魔力量が断然足りないためだ。
切り傷、擦り傷程度ならば治せる魔術師も多いが、切断された部分を繋ぎ合わせたり、穴が開いた体を塞ぐような魔法を使用できるものは、数えるほどしかいないだろう。ゆえに国家魔術師と呼ばれる人たちが存在するのだ。

(ばかぁぁ~! 言い訳、そう、何か言わないと……)

「ええっと、聖女様が使用していた魔法に憧れて……」
「聖女の?」
「そう、そうなの。私も聖女様になりたぁ~いとか夢見て、練習なんかしちゃったりして……」

おほほ……、と、引き攣った笑みを浮かべて、「でも、私にはかすり傷程度しか治せそうもないわ」と、苦しい言い訳を並べてみる。
結界で大量の魔力を消費したせいで、思いっきり魔力量が減っていて幸いだったと、少しだけほっとする。
訓練して魔法を習得する人もいるけど、やっぱり生まれ持っていない魔法を使うとなれば、威力は弱い。それでも治癒魔法は希少価値が高く、専門の学校があるくらい皆が欲しがる魔法。それを生まれ持っているなんて絶対に知られてはいけないと、私は女の子ならみんな聖女様に憧れるのは当然でしょうと、口元を引き攣らせて笑って見せる。
それを見たローレンは、なぜか呆れた表情を見せた。

「聖女になりたいのなら、アシュレイが誘っただろう」

(う゛、そこまで知っているのね)

ライアール国に聖女が二人、だから私にアラステア国の聖女になってほしいと言われたような気もするけど、私は聖女じゃないって言ってるでしょうがぁぁ、と叫びたくなる。
攻撃魔法が得意で、祈りで結界を張らない、どう考えても聖女じゃないのよ。と、声を大にして叫びたいけど、魔法が使えて結界が作れるなんて、こんなところで暴露する馬鹿なことはできないと、私は肩を縮めて小さくなる。

「レイリーン様の魔法を目の当たりにしたら、私では到底及ばないと分かりました」


二度と口にしたくなかった名前を、震える唇から吐き出して、私は引き攣る口角をなんとか押さえ込む。
聖女様になりたいだなんて、恐れ多かったと見せつけられたと、落ち込む振りさえして見せる。

「レイリーン? ああ、ライアール国の聖女か」
「ええ、それはもうお綺麗な方で、治癒魔法も完璧でした」
「それは本心で言っているのか?」

レイリーンが聖女を名乗り出たから、偽聖女と国外追放を言い渡されたんだろうと、ローレンが冷たい視線を向ける。
憧れじゃなくて、憎むべき相手だろうと。
ぐうの音も出ないとはまさにコレ。……こうなったのは全てレイリーンの登場によるものなのだから、憎むことはあっても称賛するのはお門違いだ。
ローレンにまたまた嘘がバレて、私は苦笑することしかできない。
あのままレイリーンが現れなければ、憧れの聖女になれたはずだろうと、ローレンが何を言いだすんだと、冷たい視線を送ってきた。


―― シャキンッ ――


「な、なにッ」

冷たい目をしたローレンが、突然剣を抜くと私に剣先を向けた。

「お前は、何者だ」
「普通の女性です」
「まだ嘘を重ねるか」

剣先を服に触れさせ、ローレンはそのまま剣で突き刺すような仕草を見せる。正体を明かさねば刺すと言わんばかりの、冷酷な瞳。

(どうして、こうなるのよ)

自分だってどうして魔法が使えるのかも分からないのに、答えなんか分からないのにと、涙が出そうになる。
両親は至って普通の庶民。攻撃魔法なんか使えず、もちろん治癒魔法なんか微塵も使えないのに、私は高魔力持ち。かといって、聖女様に値するようなことはできない。
幼い頃両親が聖女様なのではと、こっそり教会へ連れて行ってくれたけど、祈りを捧げても何も起きなかった。本物の聖女様ならば教会で祈りを捧げることで、光が溢れ、その光が結界へと姿を変えるはずなのに、光どころか魔力も出ず、しーんと静まり返った教会がひたすら虚しく感じ、神父様もかける言葉が見つからなかったのか、「神のご加護がありますように」と、優しく微笑んで送り出してくれたのを思い出した。

(あの時の両親の悲し気な表情は、今でも忘れられないわ)

聖女様で間違いないと疑っていなかった両親を、落胆させる瞬間だったのだから。

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