【完結】最強魔力を隠したら、国外追放されて、隣国の王太子に求婚されたのですが、隠居生活を望むのでお断りします!

砂月かの

文字の大きさ
24 / 84

第24話「とんでもない役を引き受けてしまった」

しおりを挟む
どっからどうみても、質素。むしろ化け物よ。と、かなり残念な王太子様だと、私は抱きしめられた腕からそっと逃れる。

「アリアッ」
「無礼を承知で申し上げますが、眼鏡を調達した方がよろしいかと?」

ちょこっと頭を下げて私はアシュレイに、それを提言する。

「視力は周りよりも良い方だが?」

(なら、ご趣味が……)

そこまで考えた私だったが、さすがに頭の方を医者に診ていただいた方がいいなんて言えるはずもなく、にこやかに笑顔を作ってみた。

「王太子様から外交辞令をいただけるとは、有難き幸せでございます」

引きつく口元を精一杯抑えて、服を少しだけ摘まみ上げて、丁寧にお辞儀をすれば、アシュレイにまた手を掴まれた。

(なんなのこの人! 何でも掴めばいいってものじゃないのよッ)

王太子様じゃなかったら、殴っていたわ。きっと。

「本心だ」
「そのようにお気遣いしていただかなくとも」
「どうすれば、君に近づける?」

グイッと腕を引かれ、アシュレイが真剣な眼差しを向けてくる。

(何をそんなに焦っているの?)

馬車の中でもそうだったけど、アシュレイは何かを焦っている。しかも早急に相手が欲しいような素振り。
そして私は盛大な勘違いをした。

「好きでもない方とご結婚でもなさるのですか?」

適当な相手が欲しいというのなら、それしか考えられず、うっかり口にすれば、アシュレイは一瞬驚いた表情をしたが、すぐに両手で私の手を包んできた。
その顔はとても明るく、どこか吹っ切れたような姿だった。

「そうだ。俺は無理やり結婚させられそうなんだ」
「王太子様に選択の余地はないのでしょうか?」
「ない。父上が勝手に取り決めてしまい、俺は好きでもない女性と生涯をともにせねばならない」

だから力を貸してほしいと、なぜか物凄く元気になったアシュレイの瞳がキラキラと輝いていた。まるで水を得た魚。

「そんなに嫌なら、お断りすればいいではありませんか」

次期国王でもある王太子殿下にはその権利はあるでしょうと、目を細めれば、アシュレイは縋るような視線を向けてくる。

「両親を丸め込み、卑怯な手で俺との結婚を結んだ女だ」

さすがに国王からの命令には逆らえないと、アシュレイは助けて欲しいと求めてくる。このままでは猫を被った悪女と結婚させられてしまうのだと、アリアを婚約者に見立て、この結婚を破棄するとさえ言い出す。

「別に私じゃなくても……」
「俺に惚れてしまうような女性には頼めない」

変な勘違いをされたら困ると、アシュレイは私の手を強く強く握る。地位も金も、ましてやアシュレイにさえ興味のないアリアならば、全く問題ないと言い張る。
確かに、アシュレイに興味が持てなかった。あと腐れなく別れることが出来るということなら、適任? そこまで考えた私の脳裏に、素敵なスローライフのビジョンが描かれる。

(もしかしてこれって、ビジネスチャンス?!)

アシュレイに協力して、大金を貰えれば、隠居生活のための家が手に入りそう。小さくてもいいとはいえ、家を建てるとなれば、それなりの資金は必要で、引きこもり生活を送りたいなら、お金も必要で。

(おまけに土地ももらえたら、もう言うことなしじゃない)

夢にまで見た隠居生活目前?!
私の瞳は輝きに満ちて、王太子殿下だということなんかすっかり飛んじゃって、アシュレイの手をガシッと握り返す。

「つまり、私が偽の恋人になればよいのですね」
「ああ、仮の婚約者になってくれないか?」
「報酬は高いですよ」
「いくらでも構わないが、引き受けてくれるのか?」
「王太子様のためですもの、一肌脱ぎましょう」

夢の隠居生活のため、私はアシュレイに協力することを選び、アシュレイは高額報酬とアラステア国の土地を譲ってくれることを約束してくれた。

(これで隠居生活に、大きく進んだわ)

ぱぁぁ~と目の前が明るくなったような気がして、私はアシュレイの手をとってめちゃくちゃ浮かれる。
その様子は、今まで見てきた令嬢にはない浮かれようで、無邪気にはしゃぐアリアの姿は、素直に可愛いとさえ見えた。子供のようにはしゃぐ女性は、こんなにも可愛らしいのかと、アシュレイは戸惑いながらアリアを見るが、同時に罪悪感も生まれる。
アラステア国に縛り付けるために、偽装結婚を申し出てしまった。アリアが聖女であると決めつけた自分の身勝手な判断だと知りながらも、国を守るためにはこれしかないのだと、アシュレイはそっと奥歯を噛み締める。
自分の命を救ってくれたアリアを騙すようなことをして、本当に良かったのか? 勘違いしてくれたおかげで当初の計画通りにはなったが、このまま結婚まで持っていけるのか、互いの気持ちが添わないままでいいのか、アシュレイは締め付けられる心を抱えたまま、ふと、奇妙なものが視界に入り、まじまじと見つめてしまう。

「ローレンは、なぜあのような恰好で寝ている?」

甲冑を着たまま、上半身だけベッドに乗り、足は床すれすれで浮いている状態。どんなに疲れていたとしても、ローレンがあのような姿で寝るなどありえないと、アシュレイは驚きとともになぜ? と、疑問が浮かぶ。

「あ、……あれは、魔物討伐でかなりお疲れだったみたいで、いきなり倒れ込んだと思ったら、そのまま眠ってしまったみたいなの」
「寝ているのか?」
「え、ええ……、少し寝るとおっしゃっていたわ」

師団長ともあろうお方があんな姿で寝ていたら、当然不自然よね。と、私の口元は引き攣る。どうしよう、魔法をかけたなんて言い出せないし、そもそも魔法を使いすぎているのだから、さすがにもう魔力は残っていないと思わせないといけない。
朝になってしまったので、魔力は全回復してるけど。
村を救うための水魔法に、アシュレイを助けた治癒魔法、おまけに結界魔法まで……。もう空っぽだと思ってほしいから、これ以上の魔法使用は絶対に言えない。

「……生きているのか?」

どうしようかと、大量の汗をかいていたら、唐突にアシュレイが生死の確認をしてきた。騎士ともあろう人が、あんな状態で眠っていたら、確かに不安になる。しかも、アシュレイはローレンたちに何があったのか知らないわけで、あの魔物と対峙しただろうと推測しかできないわけで、確実に討伐できたかどうかも知らない状態だ。
変な汗まで出てきて、私は「大丈夫、生きてはいます」と返事を返す。すると、アシュレイは突然辺りを見回し始める。

「アレフはどうした?」

ローレンの姿しか見えないことに不信感を持ったアシュレイは、まさか魔物にと、顔色を青くする。

「医者を呼びに行っています」
「医者?」
「アシュレイ王太子殿下の治療のためです」

アリアの魔法のおかげで今はすっかり元気になったが、確かに負傷していたことを思い出し、アレフの行動は正当だろうと、アシュレイはホッとした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

「醜い」と婚約破棄された銀鱗の令嬢、氷の悪竜辺境伯に嫁いだら、呪いを癒やす聖女として溺愛されました

黒崎隼人
恋愛
「醜い銀の鱗を持つ呪われた女など、王妃にはふさわしくない!」 衆人環視の夜会で、婚約者の王太子にそう罵られ、アナベルは捨てられた。 実家である公爵家からも疎まれ、孤独に生きてきた彼女に下されたのは、「氷の悪竜」と恐れられる辺境伯・レオニールのもとへ嫁げという非情な王命だった。 彼の体に触れた者は黒い呪いに蝕まれ、死に至るという。それは事実上の死刑宣告。 全てを諦め、死に場所を求めて辺境の地へと赴いたアナベルだったが、そこで待っていたのは冷徹な魔王――ではなく、不器用で誠実な、ひとりの青年だった。 さらに、アナベルが忌み嫌っていた「銀の鱗」には、レオニールの呪いを癒やす聖なる力が秘められていて……?

「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。

腐ったバナナ
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、魔力を持たないという理由で、夫である侯爵エドガーから無能な妻と蔑まれる日々を送っていた。 魔力至上主義の貴族社会で価値を見いだされないことに絶望したアリアンナは、ついに離婚を決断。 多額の慰謝料と引き換えに、無能な妻という足枷を捨て、自由な平民として辺境へと旅立つ。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

冷遇され続けた私、悪魔公爵と結婚して社交界の花形になりました~妹と継母の陰謀は全てお見通しです~

深山きらら
恋愛
名門貴族フォンティーヌ家の長女エリアナは、継母と美しい義妹リリアーナに虐げられ、自分の価値を見失っていた。ある日、「悪魔公爵」と恐れられるアレクシス・ヴァルモントとの縁談が持ち込まれる。厄介者を押し付けたい家族の思惑により、エリアナは北の城へ嫁ぐことに。 灰色だった薔薇が、愛によって真紅に咲く物語。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

処理中です...