【完結】最強魔力を隠したら、国外追放されて、隣国の王太子に求婚されたのですが、隠居生活を望むのでお断りします!

砂月かの

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~【第2部】王太子殿下の最愛押しが強すぎる?!~

第15話 不法侵入は腕だけ

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足も遅く、体力がないのは知ってたけど、物凄い迷惑をかけたんじゃって、全身真っ青になって、私はその場で思いっきり頭を下げた。

「ごめんなさいッ」

10分で辿り着くところ、私がいたから倍以上歩かされているなんて、とんだお荷物じゃないと、下げた頭をあげられない。

「ど、どうしたのアリアちゃん!」
「私の足が遅いから、本当にごめんなさい」
「お散歩は好きよ。気にしないで」
「気にします!」

残り30キロなんて、3時間以上かかるわと、お散歩の域をとっくに超えていると益々顔色が青くなる。
しかも、30キロも歩ける自信もなく……。

「だったら、こうしましょう」
「ひゃ、ぁ……」

ルーフェスはアシュレイを片手で抱え、空いていたもう片方で私を抱えると、ウインクをしてきた。

「少し走るわよ」

可愛くそう言うと、ルーフェスは風のごとく走り出す。

(なんて早さなの?! 馬車より数倍も早いんですけどぉぉ)

景色が残像のように見えるし、髪は風に引っ張られるみたいに痛いし、呼吸もままならない。その上、アシュレイと私を抱えたままなのに、どうしてそんなに走れるのよぉ! って心底聞きたかった。





小脇に抱えられること、およそ7分。
よく分からないけど、「ここが境界線よ」と、案内された場所は岩場。その先には森が見えるけど、とても聖域と人間界の境界線とは思えないほど殺風景で、とくに変わったところはない場所。

「結界みたいなものは見えないのね」
「境界線と言っても、ここから別の世界になっているわけじゃないのよ」

ルーフェスはくすっと笑って、景色は繋がっていると説明してくれたけど、さっぱり分からない。
人間界も聖域も同じ景色だけど、ここに境界線があるってどういうことなの? と、首を傾げれば、ルーフェスがそっと私の背中を押した。

「外に出てみれば分かるわ」

そう言われて、私は何も見えない境界線と言われる場所から外へと出てみた。

「え、ええっ?? どうなってるの?」

振り返った景色は、森だった。しかも、そこにルーフェスの姿もない。
驚いて慌てた私は、来た道を戻るように森の中に足を踏み入れて、またまた衝撃に目を見開く。
だって、森が消えてさっきまでの岩場の景色に変わったから。

「ドラゴンに認められた者は、こちらの世界に、普通の人は森へ進んでいくだけよ」

どう? 驚いた? とルーフェスに声を掛けられても、仕組みが謎すぎて私は呆然と立ち尽くしてしまった。
つまり、聖域に入れるものは、ここからドラゴンの世界へと戻れ、普通の人間はただの森に向かうだけ。と、いうことは?

「アシュレイ王太子様は、ここから入れたってことなの?」
「腕だけね」
「腕……だけって?」
「ヴォルフちゃんの鬣とマーキングのせいで、ちょっとだけ入り込めたみたいなのよ」
「それでどうして気を失っているの?」

明らかに何らかの衝撃を受けて意識を失っているのは明白。腕だけ入り込んだというそれとどういう関係があるのかと、ルーフェスを見れば、担いでいたアシュレイをそっと地面に寝かせる。

「そもそもドラゴンの聖域にはね、ドラゴン以外の者の立ち入りが厳禁なのよ」

故にここが聖域と言われる場所なのだとルーフェスは説明しながら、私にも分かるように簡単に話をまとめてくれた。


ドラゴンは世界の頂点に君臨する神にも等しい存在であり、通常の世界とは別の世界が存在し、時間の流れも世界の回転も全く別次元であり、言葉の通り別世界に住んでいる。
ただし、ドラゴンが認め、血と肉、二物を与えた者のみ、この世界に入ることが許されている。
だから、マリアとその娘であるアリアは普通に聖域に入ることができるが、他の生物は決して足を踏み入れることなどない場所であり、そもそも聖域を知る者などいない。
しかし、ヴォルフガングの後を追ってきただろうアシュレイは、ドラゴンの長であるヴォルフガングのマーキングを受け、さらに鬣まで持っていたから、境界線に触れてしまった。
おそらく、この先に何かあると感じたアシュレイは、本来踏み込める場所ではない場所に無理やり侵入しようとして、禁忌を犯した罰を受けたのだろうと推測できると言われた。


(まって? ルーフェスさんの説明の中に、聞き捨てならない台詞が……)

大人しく説明を最後まで聞いていたけど、途中でとんでもないことを言われた気がすると、私はルーフェスさんにぐっと歩み寄る。

「お父さんって、ドラゴンの長なの?!」
「あら? 聞いてない?」
「聞いてませんっ」

長って、ドラゴンの頂点ってこと? お父さんがまさか一番上なんて初耳すぎて、私は眉間に皺を寄せてルーフェスに詰め寄った。
さすがにグッと顔を近づけられたルーフェスは、ちょっとだけ後ろに下がる。

「褒めるわけじゃないけど、ヴォルフちゃんに勝てるドラゴンなんていないのよ」

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