【完結】最強魔力を隠したら、国外追放されて、隣国の王太子に求婚されたのですが、隠居生活を望むのでお断りします!

砂月かの

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~【第2部】王太子殿下の最愛押しが強すぎる?!~

第17話 美形が怒ると怖い!

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どこからどうみても女性に見えた人が、実は男性だと知り、口が半開きになってしまったが、よくよく見れば胸がなさすぎた。ゆったりとした服を纏ってはいるが、膨らみが全くなのは不自然。

「す、すまない」

失礼な失言をしてしまったと、アシュレイが謝罪をしたが、ルーフェスは「女性に間違われるのは本望だから、気にしないで」と、むしろ女性だと思ってくれたら嬉しいとさえ言い出す。

「話の途中で申し訳ないのだけど、アシュレイ王太子殿下にお聞きしたいことが……」
「それは俺も同じだ」

私がそっと声を掛ければ、苛立ちを露にしたアシュレイに軽く睨まれる。

(黙って婚約を破棄したことを怒っているのかしら? それとも……)

私から破棄したことを咎めるつもりかもしれない、と、肩がガックリと落ちる。でも、そんなことより、もっと重要なことがあるのよっ、って、私は身を乗り出す。

「元王太子殿下って、どういう意味なのですか!」

先に口を開かれる前に、私は大きな声でそれを問う。それじゃあ、次期国王の座を下ろされたって聞こえるでしょうと。
どう考えたって、そんなことあり得ないし、あってはならない事態でしょう。
それを聞き、アシュレイは私の腕を掴む。

(だ、か、ら、その掴み癖、なんとかならないの?!)

いい加減にしてよと振りほどこうとしたけど、アシュレイの表情が苦痛に歪んでいて、私はその腕を振りほどくことが出来なくなった。
奥歯を噛んで、喉の奥から出されたその言葉は、愛の告白だったから。

「アリアと一緒になるため、俺は王太子の地位を捨ててきた」

王太子であるために、聖女セリーナと結婚しなければならないのなら、その地位はいらないと、置手紙を置いてきたと話した。

「それって……」
「俺はアリア以外と結婚する気はない」

はっきりと告げたその瞳は真っすぐに、ただ私だけを映す。

(待って、待って、話しが見えないんだけどぉ)

それってつまり、私と結婚したくてアラステア国を捨ててきたってこと? 

(馬鹿なの! この人、何考えてるのよ!!)

王太子殿下に向かって言っていい言葉じゃないけど、「馬鹿なんでしょう」って、本気で叫びたくなる。
聖女でも令嬢でもなく、化け物並みの魔力しかない私を選ぶ? ほんとどうかしてるわと、呆れて言葉も出ない。


―― パチンッ ――


「ぇ、……何、何これ?」
「アリアッ!」
「アシュちゃんは動かないで」

人差し指でアシュレイの動きを制したルーフェスは、先ほどまでの柔らかな表情とは打って変わり、鋭く光らせた瞳に氷のような冷気を纏わせていた。
思わず唾を飲み込んだアシュレイは、その気迫に全身が動かない。

「ルーフェスさん、これはどういうことなの?」

指を鳴らす音がしたかと思ったら、私は水のような氷の中に閉じ込められてしまっていた。とはいえ、水の膜で覆われているようなものだから、中は空洞で空気もあるけど。

「少しそこで大人しくしててね、アリアちゃん」
「大人しくって……」
「水龍の結界を破ったら、アシュちゃんの命はないわよ」

ふふふ、と無邪気に笑ってくれたルーフェスだが、その瞳は絶対零度の空気を纏っていて、ドラゴンとしての気迫が凄まじかった。
この氷の結界を破ることはたぶんできるけど、ルーフェスに言われた言葉が怖すぎて動けない。

(アシュレイの命がないって、どういうことなの)

と、揺れる瞳でルーフェスを見れば、真剣な表情でアシュレイと向き合っていた。

「……アリアをどうするつもりだ」
「どうもしないわ。見物してもらうだけよ」
「見物?」

ルーフェスの言葉の意味が理解できず、アシュレイも真っすぐにルーフェスを見つめる。


―― パチンッ ――


再度指が鳴らされ、大地に氷でできた細い剣のようなものが二本出現した。

「国を捨てる覚悟を試す。剣を取れ」

声がぐっと下がった。まるでルーフェスじゃないみたいな、低く重たい男性の声が発せられ、どこから取り出したのか、蒼く美しい紐で長い髪を一括りにまとめ上げた。
その姿は、美剣士。さっきまでの美しい女性の姿とはまるで別人。

(ルーフェスさんって、こんなに低い声もでるのね)

と、思わず感心してしまったけど、場に漂う空気は緊迫感が凄まじい。

「どうした」

何が起こったのか理解できないアシュレイは、声も発せず、ただただルーフェスを見る。

「状況が分からない」
「お前の軽挙妄動けいきょもうどうを断つ、それだけのこと」
「軽挙だと」
「女の為に国を捨てるなど、戯言以外の何に聞こえる」

その声も、言葉ももはやルーフェスではなかった。それはまるでヴォルフガングを思い出させ、ドラゴンなのだと知らされる。

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