ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった

海道一人

文字の大きさ
4 / 48
第1章:チュートリアル

4.ダンジョン第1階層緑エリア - 3 -

しおりを挟む
「7割!?」

 突然の言葉に翔琉は素っ頓狂な声をあげた。


「おいおい、当然だろ。私がボランティアでここまでしたと思っていたのか?」

 オットシが呆れたように息を吐いた。

「ダンジョン初体験のカケル君に入り方からナビの使い方まで全部教えたんだ。これは当然の報酬だよ。それにカケル君も私がガイドすることを了承したじゃないか」

「そ、それは確かにその通りですけど…」

 確かにオットシのガイドを受け入れたのは翔琉自身だ。

 それにしても7割とは…

「納得できないのならそれでもいいけどね。その場合ここで契約終了だ。その場合カケル君は自力で戻ってもらうことになる。マーカー石は持っているのかい?」

「う…」

 オットシの言葉に翔琉は言葉を詰まらせた。

 もちろんマーカー石など持ってるわけもない。


「ひょっとして、オットシさんってそのために僕に声をかけたんですか?」

「その通り。初心者のためのガイドは需要が高いし安全で確実だからね。でもカケル君は私についてきて正解なんだぞ。中にはガイドと騙して身ぐるみ剥いでダンジョンに置き去りにする質の悪い連中もいるんだから」

 オットシの言葉に翔琉は身震いした。

 もしここで一人取り残されなんかしたら…


「…わかりました。それでいいです」

 翔琉はため息とともに頷いた。


「それでいいんだ!まあ今回は授業料だと思って、次に頑張るといいよ」

 オットシはそう言うとジュエルを2つに分けて自分の分を懐にしまい、マーカー石を取り出した。

「じゃあ帰ろうか」

「もう帰るんですか?」

「ああ、もうそろそろ日没の時間だ。不思議なことにこのダンジョンは地球上の時間と連動していて日没後はモンスターが凶暴になるんだ。このダンジョンの七不思議の一つだね。まあこのダンジョン自体が不思議そのものだから何があってもおかしくないんだけど」

 オットシの言葉に翔琉の背筋が寒くなった。

 ますますこんな所に一人でいるわけにはいかない。


 翔琉が肩を掴むとオットシがマーカー石を地面に叩きつけた。。

 マーカー石が明るく輝き二人の周囲が光に包まれ、気付いた時には入国ゲートの中に立っていた。

 入国ゲートは巨大なホールのような空間になっていて、あちこちに冒険者たちが点在している。

 ある者たちは声高に話し合い、他の冒険者に何かを売りつけようとしている者もいる。

 出国ゲートとは違ってにぎやかなお祭り会場のような雰囲気だ。


「これで今日の冒険はお終いだ。あそこにある買取窓口でさっきのジュエルを買い取ってもらえるよ」

 オットシの指差した先には買取窓口と書かれたアクリルで区切られた窓口があり、ダンジョンで獲得したものを手にした冒険者が列をなしていた。

「ついでにさっきの包丁も処分した方が良いだろうね。入国ゲートを出たら危険物所持で捕まってしまうぞ」

「そうなんですか?」

「ゲートの向こうは日本だからね。点数稼ぎの私服警官がそこら中にいるから荷物の中に刃物なんかあったらあっという間にしょっ引かれるぞ。だからナイフなんかは買取保証付きで売ってるんだけど、包丁はまあ処分価格で売るしかないだろうな」

「マジですか…」

 何から何まで知らないことばかりだった。

 こんなことは講義でも教えてくれなかった気がする。

 翔琉とオットシは買取窓口の列へと並んだ。

 第一階層の買取窓口は一番人が多いけどその分窓口の数も多く、ほどなくして翔琉たちの番が来た。

 オットシが大きめのジュエルをサービスしてくれたのが効いたらしく、翔琉の持っていたジュエルの売値は4万円だった。

 結構な額だがスマートウォッチの弁償額にはまだまだ足りない。


「ダンジョン探索初日でそこまで稼げるのは滅多にないことなんだぞ。それだけあれば異港の外にある安宿には充分泊まれるはずだ。明日また頑張ればいいんだよ。それじゃ、お疲れ様」

 オットシは慰めるようにそう言うと去っていった。

 こうして翔琉のダンジョン初体験は終わったのだった。




    ◆




 翌日早朝、オットシが異港のカフェで朝食を食べていると目の前に人がやってくる気配がした。

「おはようございます」

 それは翔琉だった。

「な、なんだ?言っておくけど昨日のあれは正当な報酬だぞ。今更足りないと言われても通じないからな」

「いえ、それはいいんです」

 身構えるオットシに翔琉は首を振った。

「あれからよく考えてみたんですけど、確かにオットシさんの言うことはもっともでした。オットシさんがいなかったらきっと何も得られなかったと思います。それどころか無事に帰られたかどうか…」

 翔琉はそう言うとオットシを見つめた。

「だから今日は正式にお願いに来たんです。今日も僕のガイドをしてくれませんか?報酬は昨日と同じく獲得物の7割。ただし申し訳ないんですけど何も得られなかった場合は報酬なし、これでお願いできないでしょうか?」

 翔琉の言葉に目をぱちくりさせていたオットシだったが、やがてその口元がほころぶと大きな声で笑いだした。。

「やっぱり君は私が見込んだ通りだな!冒険者の素質があるぞ!もちろんその条件でいいとも!責任もってガイドさせてもらおうじゃないの!」

 オットシはひとしきり笑うと立ち上がって右手を差し出してきた。

 翔琉がその手を強く握り返す。

「こちらこそ、よろしくお願いします!」

「じゃあ早速行こうか。今日はひとつ第2階層に足を伸ばしてみようか!」

 オットシが声高く宣言した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

処理中です...