ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった

海道一人

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第1章:チュートリアル

13.ダンジョン第3階層黒エリア - 2 -

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「…本当に勝っちゃった…」

 ナナが驚きの声を漏らした。

 地面には動かなくなったギガントカマキリが転がっている。

「カケルって…何者なの?」

「えぇ…と、と、とりあえず今は勝てたんだから良いじゃないか!さあ早いところキュアリングハーブを刈り取っちゃわないと!」

 翔琉はナナのもっともすぎる問いを無理やり誤魔化してキュアリングハーブの収獲に取り掛かった。

(まさか体の中にレベル999の天使がいますなんて言えないもんなあ…)

(俺は別に構わねえけどな)

(うるさい、そっちは良くてもこっちは問題大ありなんだよ。まったく、これから先どうしたらいいんだ?)

(細かいこと言うなよ。あいつを倒したのだって俺が憑依してたお陰なんだぜ?)

「う…」

 リングの言葉に翔琉は口ごもった。

 確かにその通りなのだ。

 リングが憑依したことによって翔琉は感覚拡張、体力向上、俊敏性向上のスキルを手に入れ、それによってギガントカマキリを倒すことができたのだから。

(確かに助かったことは助かった。それは礼を言う。でもいい加減出ていってくれないか?あ、いや、俺たちがアズライトタウンに帰るまではいてもいいから、それから先は出ていってくれよ)

(そうは言ってもなあ…俺も出る方法は知らないんだよなあ)

「そんなのってありかよ!」

「きゃあっ!」

 いきなり叫んだ翔琉にナナが悲鳴を上げた。

「あ、ごめん。ちょっとぼんやりしてた」

「驚かさないでよね。なんかカケルってちょっと変じゃない?一回鑑定士に診てもらったら?」

「ハ、ハハ…」

 翔琉は笑ってごまかすとハーブ刈りに没頭し、小一時間で持ってきたバックパックはキュアリングハーブでいっぱいになった。

「さて、そろそろ帰りますか。これだけ採れば充分でしょ」

 ナナはそう言いながらバックパックの上にギガントカマキリの足を束ねて括りつけた。

「それも持っていくんだ?」

「モンスターの素材は町でも地上でも売れるからね。そうだ、はいこれ」

 そう言ってナナが手に持っていたものを翔琉に投げてよこした。

 それは手のひらサイズ程の真珠のような光沢をもった球体だった。

「なにこれ?」

「なにって、モンスターの体内にある魔石に決まってるでしょ。モンスター退治では魔石が一番の収穫物なんだから」

「そうなのか?」

「そんなことも知らないなんて、なんでそんな人がギガントカマキリを倒せるわけ?魔石は地上だったらレアメタル以上の高値で取引されてる超高級素材なんだよ」

「でも俺がもらっちゃってもいいの?」

「当たり前でしょ、あなたが倒したんだから!こっそり懐に入れるほど落ちぶれちゃいないっての!」

「そ、そうか、じゃあ遠慮なくもらっていくとするよ。それじゃあさっさと帰ってオットシさんを治してもらおう」

 翔琉はギガントカマキリの魔石を懐にしまうと二人分のバックパックを背負い、ナナを抱え上げた。


「ちょ、ちょっと何すんのよ!」

「何って、早く帰りたいからこうするしかないだろ。ナナだけ置いていくわけにもいかないし」


「そ、それはそうかもしれないけど、せめて一言言ってからにしてよね!」

「ごめんごめん、それじゃあ行くよ!」

 言うなり翔琉は走り出した。





「ねえ、カケルとあのオットシって人はどういう関係なの?」

 帰る道すがら腕の中でナナがそう尋ねてきた。

「どういうって…あの人は俺のガイドだよ。異港で初めて出会って一緒にダンジョンに潜ることになったんだ」

「それは聞いたけど…なんでその程度の知り合いなのにここまで危険を冒して助けようとしてるの?普通だったら気の毒ではあるけど自分とは関係ないってことにならない?ダンジョンでは自己責任が普通のことなんだし」

「うーん…確かにそれはそうなんだけど…」

 翔琉は唸りながら足を止めずに言葉を続けた。

「それでもやっぱりあの人にはお世話になったしね。何にも知らない自分にダンジョンでの探索の仕方を一から教えてくれたんだ。そういう人を放ってはおけないよ。それに自分に何かできるのに何もしないのは嫌なんだ」

「…あんたって…かなりのお人よしだよね。そういう人はダンジョンじゃ長生きできないよ」

「自覚はしてる」

 呆れたようにため息をつくナナに翔琉は苦笑を返した。


「そういう人は嫌いじゃないけど一緒に冒険するのはちょっとごめんかな。損しかしなさそう」

「耳が痛いね」

「嫌いではないけどね」

「ひょっとして慰めてくれてる?」

「ご想像にお任せします」

 二人はそんなことを話しながらダンジョンの中を走り抜けていった。




    ◆




「ほ、本当に持って帰ってくるとは…しかもこんなに早く」

 町長が驚きを通り越して呆れたような顔で吐息をついた。

「約束通りキュアリングハーブを持ってきました。これで治してくれるんですよね」

「も、もちろんですとも。こんなにたくさんのキュアリングハーブがあるとは…」

 町長はそう言うと一つかみのキュアリングハーブを取り出した。

「採れたてのキュアリングハーブがあるならこれで治せるでしょう」

 そう言いながら充電式のフードプロセッサーにハーブ、砂糖、水を入れて細かくすり潰した。

「漫画に出てくるような手でゴリゴリする奴じゃないんですね」

「それはまあ、ソーラーパネルがあればダンジョン内の光で充電もできますから」

 そうしてスムージーになったキュアリングハーブをオットシに飲ませる。

「ま、不味い…」

 血の気のないオットシの顔がそれを通り越して青黒くなっていった。

「文句を言いなさんな。死ぬよりはマシでしょう。レベル8完全治癒、対象はオットシ」

 町長はそう言いながらオットシの傷口を手でさすった。

 ギガントカマキリにつけられた傷が光を放ち、やがてその光が消えていくと同時に傷が薄れていく。

「凄い…本当に治っている…」

 驚く翔琉が見守る中、オットシの傷は完全に消え失せていった。
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