ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった

海道一人

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第3章:新たな冒険

39.第8階層青エリア - 第8清水町 -

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「あんたたちがオットシの代理かい?よく来てくれたね!」

 恰幅の良い中年女性が迎えてくれたそこは『青の湯』というなの温泉だった。


「しっかし凄い量を持ってきてくれたもんだね。重くないのかい?」

 青の湯の女主人―名前はモクレンというらしい―は翔琉の背負っている荷物を見て目を丸くした。

 翔琉の背中には相撲取りくらいの大きさの荷物が乗っている。

 その重量はおそらく百キロ以上あるはずなのだが翔琉には全く重さを感じなかった。

「とりあえず寒かったろう。まだ営業前だけど入ってちょうだい!」

 モクレンの言葉に甘えて翔琉たちは青の湯へと入っていった。

 青の湯の中は不思議と温かだった。

 まずは温泉に入ってくるといいよ、というモクレンの言葉にナナと灯美は一目散に向かっていった。

「ひのふのみと…いやほんとに大した量だね。まさかこんなに持ってきてくれるなんて思いもしなかったよ」

 翔琉の持ってきた荷物を数えながらモクレンが目を丸くしている。

「持ってきすぎでしたか?オットシさんからは幾らでも持っていっていいといわれてたので…」

「いやいやそんなことないよ!ちょうど在庫が切れかかってた所だから大助かりだよ!」

 心配そうに尋ねる翔琉にモクレンは豪快に笑いながら手を振ってみせる。

 その言葉に翔琉はほっと胸をなでおろした。

(重量がそのまま稼ぎになってそのうちの半分を手数料でもらえることになってるから、とは言わない方がいいかな)

「それにしてもダンジョンの中に温泉が湧いてるなんて意外ですね。しかもこんなに寒いエリアに」

「それには秘密があるんだよ」

 翔琉の言葉にモクレンは部屋の外からプラスチックのコンテナを持ってきた。

 その中には真っ白な石がぎっしり入っている。

「こいつが吸熱石、エントロとも呼ばれてる第8層青エリアの特産品だよ」

「へえ~これが…冷たっ!」

 吸熱石を手に取った翔琉はその冷たさに驚いて手を引っ込めた。

 まるで氷のようにひんやりとしている。

「あはは、気を付けないと駄目だよ。こいつは氷点下になることだってあるんだからね」
 それを見てモクレンがおかしそうに笑う。

「こいつはね、熱を吸い取ることができるんだ。しかも信じられないくらい大量にね。この吸熱石の側にあるものは熱を吸い取られてしまうんだよ」


「そ、それじゃあ…」

「そう、この青エリアは吸熱石を多く含んでいるからこんなに寒いんだよ」

 モクレンは微笑みながら頷いた。

「吸熱石は熱を吸い取ると同時に貯蔵することもできるんだ。しかも圧力や電力で吸熱と排熱を自由にコントロールできる。だからあらゆる産業で引っ張りだこなんだよ」

「確かにこれがあればエアコンも暖房も全部賄えますね」

「それだけじゃないよ。あんたの使ってるスマホにだって使われてるんだ。これだけ高性能の機器が動かせるのも吸熱石のおかげだよ」

 モクレンはそう言いながら秤に吸熱石を乗せていく。

「オットシとの商いもこの吸熱石との交換なんだ。レートは1:100。あんたが持ってきた商品の総重量が180キロだったから交換する吸熱石は1800グラムだね。まったくこいつは一財産だよ」

 翔琉はそれを横目で見ながら素早くスマホで吸熱石の情報を調べた。

(つまり俺の報酬は900グラム分の吸熱石ということか。現在の吸熱石のレートは…5000円か)

「言っとくけどそれはグラム単価だからね」

 モクレンが翔琉の顔を見て言葉を挟んだ。

「は…?グラム当たり?つ、つまり……900グラムだったら…よ…よんひゃくまんえん?」

 モクレンの言葉に翔琉は耳を疑った。

 1キロしない石がそれほどの価値を持つなんて。


「当然だよ!今や吸熱石は工業において欠かすことのできない素材だからね。いずれ価格で金を抜くとも言われてる位なんだから」

「い、いいのかな?ていうかオットシさんはふだんこんなことをしていたのか…」


「オットシにこんなにでかい商いはできないって!あんたの体力が異常なんだよ!普段はせいぜい1回につき吸熱石100グラムってとこだね」

(つまり持ってくる商品は10キロ、でもダンジョン用の装備を考えたらそれも当然か)

 モクレンの言葉に翔琉は納得した。

「で、でもこれだけ価値があるんだったらもっと大規模に取引したらもっと大儲けできるんじゃ?」

「それがそうもいかないんだよ」

 モクレンはため息をついた。

「この辺はモンスターが強力でねえ。単純に採掘できるという訳じゃないんだよ。それにもっと別の問題もあって…」

「ふあぁ~、良いお湯だったぁ~」

 モクレンが更に続けようとした時にナナと灯美が帰ってきた。

 湯上りで上気した顔が満足そうに輝いている。

「モクレンさん、温泉ありがとうございます!ほんっと、良いお湯でした!」

「あ、ありがとう…ございます」

「そいつは良かった。8層に来たら何はなくともうちの温泉に入ってもらわないとね。喜んでもらえてこっちも嬉しいよ」

 濡れた髪をタオルで拭きながら喜色満面の笑みを浮かべる二人にモクレンが嬉しそうに頷く。


「じゃああんたも入ってきたらどうだい?今日はもう遅いからうちで泊まっていくといいよ。ご飯だってあるからね」

 翔琉はその言葉に甘えて温泉に行くことにした。

 青の湯はダンジョンをくりぬいて作った岩風呂で確かに例えようもないくらい素晴らしい温泉だった。

(こいつは良いな。お前んところのしょぼいユニットバスとは大違いだ)

 温泉に浸かるとリングが嬉しそうな声をあげる。

(しょぼくて悪かったな。でもこれはたしかに体の芯から温まるな。それにしてもこんな寒いところになんで温泉が湧いてるんだ?)

(そいつはさっき言ってた吸熱石のせいだろうな。この辺一帯だけ吸熱石が熱をため込んでるみたいだ。そのせいで流れる水が温まってるんだろう)

(なるほどな。あの石にはそういう使い道もあるのか)

(それだけじゃねえ、こいつは気力体力を回復する効能もあるな。くう~、俺たちの住む999層にも欲しいくらいだぜ!)

 そんなこんなで翔琉とリングは心ゆくまで温泉を堪能したのだった。
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