新人くんとやさしい隊長

suima

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番外編

はじめての、しっと3

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 持ち場へ戻ってしばらくすると、屋内会場にいた人達が続々と外に出てきて庭園はとても賑やかになった。ニコニコとこちらを見たりなぜか僕にお酒を勧めてくる人までいて、任務中だからと断るのに一苦労だった。
 隊長は相変わらず大人気で色々な人とお話ししているのが遠くに見えた。顔見知りの団長にバシバシと肩を叩かれたりしていて、さっきまでとはなんだか周りの雰囲気が違うような気がした。
 隊長と少しだけでも会えたおかげか、もう心がモヤモヤすることはなかった。あれはなんだったんだろう。物知りな隊長に後で聞いてみようと思った。


 
 *  *  *



「お疲れ様でした」

 2人揃って部屋のソファに落ち着いた時にはもうすっかり夜更けになっていた。隊長はパーティーの後も打ち合わせがあったし、僕はパーティー会場の片付けを手伝っていたからだ。
 いつも通りカッコよくガウンを着た隊長がここにいることに、なぜだかホッとした気持ちになる。ついギュッと抱きついてその胸に顔を擦り付けてしまった。
 
「疲れたか?」

「いいえ。隊長がここにいてくれるのが嬉しくなっただけです」

 そう言うと隊長は僕の頭を撫でて抱きしめてくれた。爽やかなのに濃厚な、初夏の森を思い出させる隊長の香りを胸に顔を埋めたままたっぷりと吸い込むと、心が温かくなった。
 そういえばモヤモヤしていた時は心がどんよりとして冷たかった気がする。あの時の不思議な感覚がなんだったのか知りたくて、「教えていただきたい事があります」と言葉を続けた。

「今日、お昼にライディって人に会ったんです。隊長を譲ってとか、自分の方が隊長と釣り合ってるって言われて、胸のあたりがモヤモヤしたんです」

「あいつ、チイにそんなことを言ったのか」

 いつもより低い声に驚いて顔を上げると、険しい表情をしていた隊長はすぐにいつものようにやさしく微笑んで話の続きを促した。

「パーティーの時は、隊長と知らない人が親しそうにお話ししてるのが見えただけでそのモヤモヤが出てきたんです。隊長とお会いした後はもう消えたんですけど、あれって何だかご存知ですか?」

「モヤモヤというのはどういう感じだったか、もう少し詳しく教えてくれるか?」

 目を細めてじっと僕を見つめた隊長が頬をそっと撫でてくれる。

「隊長は強いけどやさしくて、仕事には厳しいけど隊員と親しくしてくださるからみんな大ファンでしょ? それにカッコいい角をお持ちで、流れ星みたいに輝く髪と瞳が美しいし、お顔は厳しい時もやさしい時も素敵でしょ?」

「それは褒めすぎじゃないか……?」

「全然そんなことないです。だからたくさんの人が隊長のことを好きなのは知っているんです。でも…………ライディと話をした時に、初めて気がついちゃって」

 言っているうちになんだか涙が出そうになって、堪えようとすると唇の両端が下がってしまう。もっと隊長とくっついていたくなって、向かい合うように膝に乗って座った。いつもは隊長が僕を抱き上げてくれるから、自分からこうしたのは初めてかもしれない。

「ライディは隊長と恋人になりたかったようでした。僕と同じ気持ちで隊長のことを好きな人もいるんだって、その時に気がついたんです。他にも隊長の恋人になりたい人がいて、僕よりも隊長に釣り合うって言って交代しようとしてくるかもしれない。そしたら隊長に話しかけてくる人みんながそう思ってる気がして、まるで黒い雨雲が沸いたように心の中が寒くなってきたんです」

 隊長は僕のことをとても大切にしてくれて、たくさん好きだと伝えてくれる。それはよくわかってるから、心の中だけで「僕じゃない人を恋人にしないで。僕だけを好きなままでいて」ってお願いしながら、隊長にキスをした。
 いつも僕にしてくれているのと同じように、合わせた唇をやさしく咥える。はむはむと厚みを感じながら上下の唇を順番にほぐしていく。舌も使ってその柔らかさを味わってからチュッと吸った。
 隊長にこれをしてもらうと、とても気持ちがいいから僕はいつも待ちきれなくなって自分から舌を伸ばして誘ってしまう。でも隊長は僕のタイミングで進められるように待っていてくれた。

「大好きです隊長。僕の、僕の恋人」

 少し開いた隙間に舌を差し込み、やわらかな唇の裏側をするすると舐める。更に奥まで進むと待っていた熱い舌を丁寧に撫で、味わうようにしゃぶった。僕の動きに隊長も応えてくれる。時々「んっ」て隊長の喉奥が鳴るのがとても色っぽいから好きだ。この声が聞けるのは僕だけがいい。
 僕の方がたくさん声が出てしまっているし情けないくらい息が荒くなっているけど、そんな時でも「かわいいな」って言ってもらえるのは僕だけであって欲しい。

「それは嫉妬だな」



 
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