売れない男娼は叶わない恋を諦められない

よしゆき

文字の大きさ
1 / 3

しおりを挟む






「ナルディさぁんんん……!!」

 イトハはドタドタと足音を立て、受け付けにいるナルディの元へ駆けていく。

「ナルディさん、ナルディさん、ナルディさん……!!」
「どうしました、イトハ? そんなに大きい声を出さなくても聞こえてますよ」
「またお客様に逃げられたぁ!!」
「そのようですね」

 イトハはカウンターに突っ伏し嘆いた。
 ここは人間の男娼が働く娼館。人間のイトハはここの男娼だ。
 十歳に満たない頃からここで働いているが、男娼デビューしたのは、男娼として働ける年齢になったつい数日前。
 しかし、まだ客に抱いてもらえていない。
 指名はされるから、部屋でドキドキしながら待っているのに、やって来た客はイトハを一目見た瞬間、思い切り顔を顰めるのだ。「うわ、なんだコイツ……」みたいな顔でイトハを見て、何もせずに引き返してしまう。
 そんな事が続いていて、一向に客がつかない。漸く男娼として働ける年齢になったというのに、これでは全く稼げない。

「ナルディさん、俺の写真撮り直して……」
「写真ですか?」
「きっと写真写りが良すぎるんだよ。だから実際に見た時、写真と違ってガッカリされちゃうんだ」

 客はカウンターで写真を見て男娼を選ぶ。
 イトハは結構、自分の容姿に自信があったのだ。整っている部類に入っていると自分では思っている。中性的な見た目で、男娼として働くに適していると。だから、売れっ子になっちゃうかも……なんて思ったりもしていたのだ。
 それなのに、客が一人もつかない現実にイトハは自信を失くしていた。

「そんな事はないと思いますが……。イトハがそうしたいのなら構いませんよ」

 ナルディは優しく頭を撫でてくれる。彼はこの娼館の店主でありオーナーだ。
 イトハが客を取れなかったら店にとっては損失でしかないのに。彼はイトハを責める事なく、穏やかな声音で慰めてくれるのだ。
 ナルディの優しさに胸がじんわりと熱くなる。

「あーあ……折角体綺麗にして、準備もしたのになー」

 彼の優しさに甘え、つい唇を尖らせ愚痴を零してしまう。
 客に抱かれてもいいように、綺麗に身なりを整え準備万端の状態で待っていたのに。無駄になってしまった。
 ナルディはクスリと笑みを漏らし、イトハの耳の内側を指先で擽る。
 擽ったさと微かな快感にイトハの背中がゾクッと震えた。

「っ……」
「じゃあ今日も、私と『練習』しますか?」
「…………いいの?」
「はい。他の子は全員売れちゃいましたし、今日はもう新しいお客様はお迎えしないので」

 店内に客はいるが、彼らは朝までそれぞれの男娼と楽しむ。なので店は既に閉まっている状態だった。

「じゃあ……『練習』、する……」
「わかりました」

 にこりと微笑み、ナルディはカウンターから出てくる。彼は蛇獣人だ。上半身は人間と変わらないが、下半身は蛇だ。ずるりと下肢を動かし移動する。

「それでは、部屋に行きましょう」
「わっ……」

 ナルディは自然な動作でイトハを抱き上げた。
 幼い頃からこの店で一緒に生活しているのだ。彼から見ればイトハはまだまだ子供なのだろう。
 子供扱いされるのは嫌だけど、抱っこされるのは嫌じゃない。寧ろ嬉しいと思ってしまう。
 複雑な気持ちのまま、イトハは地下にある彼の部屋へ運ばれた。
 蛇獣人のナルディがゆったり座れる、しっかりとした作りの大きな一人掛けの椅子。その椅子に腰掛けた彼の胴を向かい合う形で跨ぎ、キスをする。
 キスのし方も、客を喜ばせる方法も、イトハは全部彼に教わった。こうして何度も何度もナルディを相手に練習を繰り返してきた。
 今のところ、練習の成果を発揮できずにいるけれど。

「んんっ……はっ……ぁうんっ」

 舌を伸ばして、ナルディの舌と絡め合う。彼の舌は人間のイトハの舌と比べると長くて、先が二股に割れている。
 舌を擦り合わせ、ちゅぱちゅぱと吸い付いた。

「んっ、はぁっ、んんっ……ナルディさんと、キスするの、好き……んっんっ、キス、きもちぃ、んんんっ」

 接客中は嘘でもいいから相手を喜ばせる事を言うのだと教えられていた。実際、彼とのキスは頭がくらくらするほど気持ちよくて、イトハは彼とキスするのが大好きだった。接客の練習という体で、本心を口にしているだけだ。

「ふふ……キスだけでそんなに蕩けた顔をして。キスがとっても上手になりましたね」
「ほんと……? ナルディさん、俺のキス、きもちい?」
「ええ。小さな舌を懸命に動かして夢中でキスをするのも可愛いですよ」

 頭を撫でられる。彼は店の責任者として、従業員の成長を褒めてくれているだけだ。それでも、彼に可愛いと言われると嬉しくなる。
 本当はもっとキスをしていたいが、あくまでこれは「練習」なのだ。自分のしたい事ではなく、相手を喜ばせる事をしなくてはならない。
 イトハはナルディの首筋に舌を這わせる。ぬるーっと舐め上げ、鎖骨に柔らかく歯を立てた。そうしながら、上半身に纏った彼の衣服を乱していく。
 ひんやりとしたナルディの肌に、ちゅっちゅっと音を立てて唇を落とす。彼に触れているだけでドキドキして、体温がどんどん上がっていく。
 徐々に下へと移動し、床に膝をついて下腹部を舐める。へそを辿り、その下に舌を滑らせる。彼の陰茎が収められたスリットを、ぴちゃぴちゃと舌先でねぶる。

「ナルディさん……おちんぽだひて? おちんぽもペロペロさせてぇ……」
「ふふ……いやらしくて可愛いおねだりが上手ですね。おちんぽ大好きなのが伝わってきてとてもいいですよ」

 彼は褒めてくれるが、これは相手がナルディだから本心からの言葉だ。客相手に同じようにできるかはわからない。
 スリットから、ぶるんっと二本の肉棒が弾けるように飛び出す。

「ふぁ……ナルディ、さんの……おちんぽ……」

 彼の欲望を目にしただけで、イトハの顔はだらしなく蕩ける。

「太くて……おっきいの……美味しそう……」
「舐めていいですよ」

 許可を得て、イトハは嬉々として肉棒へ舌を伸ばす。濡れた音を立てて、根本から先端まで丁寧に舐め上げる。

「はっ、ふぅ……んんっ」
「ん……上手、気持ちいいですよ、イトハ」

 頭を撫でられると嬉しくなって、口淫にも一層熱が入る。
 二本同時に口に咥える事はできないので、片方を口に含み、もう片方は手で扱く。
 最初は全然上手くできなかった。でも、何度も何度も練習させてもらって漸くそれなりの技巧を身につける事ができた。
 ナルディは下手でもそれを貶めるような事は言わない。優しくどうすればいいのかを導き、上手くできればそれを必ず褒めてくれる。
 そんな彼に指導されたから、イトハはめきめきと成長していった。

「んんっ……はっ、ふ、んっ、ぅんんっ」

 ぢゅぽぢゅぽと唾液を絡ませ口に出し入れしながら、もう片方も両手で握ってぐちゅぐちゅと上下に擦る。

「とっても上手ですよ、イトハ。気持ちいいところをちゃんと覚えて、上手にできてますね。いい子、いい子」
「んふぅっ……んっんっ」

 イトハは陶酔したような顔で彼の声を聞く。
 ナルディに褒めてほしくて、彼に気持ちいいと思ってほしくて、その一心で努力を続けている。

「もういいですよ、イトハ」
「っあ……」

 口から陰茎を抜かれて、思わず名残惜しむような声が漏れた。もっと味わっていたい。でも、これは「練習」だから我慢する。

「さあ、今度は別の方法で気持ちよくして下さい」「ひゃい……」

 床に膝をついた状態でイトハはくるりと体を反転させ、ナルディに背を向ける。そして彼に向かってぐっと腰を突き出した。
 イトハが身につけているのは、露出の多い男娼用の制服だ。すけすけのランジェリーに、下は紐パンTバック。
 こんな事をすれば臀部はほぼ丸見えだ。イトハは尻臀を鷲掴み、アナルを晒す。
 そこにはアナルプラグが入っている。すぐに挿入されてもいいように、準備段階でローションを仕込んでプラグで慣らしているのだ。

「見てくらしゃい……俺の、おまんこ……。おちんぽ欲しくて、プラグもぐもぐしてるの」
「ああ、上手に咥え込んでいますね。いやらしいおまんこ、しっかり見えていますよ」

 アナルプラグを挿入したそこをナルディに見られている。その事実に気持ちが高揚し、体が疼いた。羞恥と興奮に腹の奥がじんじんする。

「俺のおまんこ、ナルディさんのおちんぽ欲しがって、きゅんきゅんしてるの……」
「ふふ、可愛い……。煽るのも上手ですね。すぐに入れたくなりますよ」
「んっ……早く入れて、ほしいから……プラグ抜いて、ください……」

 イトハが抜いてほしいとねだるのは、自分だと上手く抜けないからだ。入れるのはできるのだが、抜こうとするとぎゅっとアナルに力が入ってしまう。力いっぱい引っ張れば抜けるのだろうが、自分で無理やり引き抜くのが怖い。
 それをナルディに相談したら、客に抜いてほしいと上手に頼めばいいのだと教えられた。

「お願い……プラグじゃなくて、おちんぽ欲しいの……。プラグじゃ届かない、奥まで……俺のおまんこおちんぽでいっぱいにしてください……」

 両手で尻臀を掴み、アナルを見せつけるようにする。
 ナルディは今、どんな顔で自分の痴態を見ているのだろう。背を向けているイトハにはわからない。少しは興奮してくれているだろうか。それとも商品として、冷静な目で見据えているのだろうか。

「ふふふ……そんなに一生懸命頼まれたら断れませんね」

 柔らかい笑い声と共に、プラグの持ち手を掴まれた。

「抜きますよ、イトハ」
「ひゃい……」

 ぐっとプラグが引っ張られると、反射的にアナルに力を入れてしまう。ぎゅうっと締まったそこから、強い力でプラグが抜かれていく。

「ひうっ、んっ、ん゛~~っ」
「そんなに力を入れたら抜けませんよ?」
「ごめ、なひゃ……」
「まあ、抜いちゃいますけどね」
「っんあ゛あ゛……!!」

 ぎゅぽんっとプラグを抜かれる感触に、イトハは目を見開き背中を仰け反らせる。強い刺激を受け、体がぶるぶると震える。

「よしよし、よく頑張りましたね」

 ナルディが労るように腰を撫でてくれる。嬉しくて、やる気も漲る。
 イトハは震える体を動かして、再び椅子に座る彼の胴に向かい合う形で跨がった。そそり立つナルディの陰茎の上に臀部を寄せる。

「ナルディさんの、おちんぽ……俺のおまんこに入れていい……?」
「ええ、いいですよ」

 ナルディは笑顔を浮かべ頷く。
 彼の陰茎は縦に二本並んで生えている。上にある方の陰茎を、ひくつく後孔に宛がった。
 プラグで解れたそこへ、ゆっくりと肉塊を押し込んでいく。

「ひっ、あっ……ナルディ、さんの、太いおちんぽ、入ってくる、ううぅっ」

 獣人の陰茎は、人間と比べて大きいらしい。イトハはまだ彼のものしか知らないが。プラグで慣らしていても埋め込むのが大変だ。
 気持ちいいところをごりごり擦られて、強い快感に襲われながらも懸命に腰を落としていく。

「ん……いいですよ、イトハ……。イトハの小さいおまんこが、健気におちんぽを飲み込んでいって……とても上手にできてますよ……」
「んあっ、あっ、うれし……ナルディさんのふといので、おまんこいっぱいになってくの……きもちいいっ」
「ふふ。可愛い……私もイトハのおまんこでぎゅうぎゅう締め付けられて気持ちいいですよ」

 単に商品として優れているという意味だとしても、彼に気持ちいいと言ってもらえる事が堪らなく嬉しい。

「もっと……もっと気持ちよくなって……っ」

 腰を上下に振り、埋め込まれた陰茎を肉筒で扱く。太い雄蘂に腸壁全体を擦り回され、気持ちよすぎて腰が止まりそうになる。

「んひっ、うっ、んっんっ、あっ、きもちいっ、んあぁっ、ナルディ、さ、の、おちんぽ、きもちいいぃっ、ふとくて、おまんここすれてぇっ……あっあっ、きもちいいっ」

 腰を上下に動かすのに合わせて、下着からはみ出したぺニスがぷるぷる揺れる。そこは触れられてもいないのに勃起し、たらたらと先走りを漏らしていた。

「ああ……とっても可愛くていいですよ、イトハ」
「ひあっ、あっ、ナルディさぁんっ」

 ナルディの視線はずっとイトハに注がれている。これは練習で、彼はただイトハの接客態度を確認しているだけだ。それでも彼の視線に感じてしまい、ぞくぞくっと震えが走る。
 恥ずかしいのに、もっと見てほしいと思う。自分だけを見てほしいと。

「ああぁっ、ナルディさん、んんっ、あっあっ、あーっ」
「ふっ……ん……イトハのおまんこ、すごく気持ちいいですよ。はあっ……もうイッてしまいそうです」
「あっあっ、いって、出して、俺の中にっ、おまんこに、種付けしてぇっ」

 イトハは一層激しく腰を振る。彼の子種を求めて直腸がきゅんきゅんと収縮する。

「はっ……ああ、すごい、締め付け……」
「ナルディさ、ああっ、ナルディさぁんっ」
「んっ……出しますよ、イトハ。あなたの、おまんこに種付けします……っ」
「んあぁっ、でてるっ、びゅーびゅーされて、俺もいくぅっ……~~~~っ」

 腹の奥にナルディの精液を注がれ、イトハもまたぺニスから精を吐き出す。
 蕩けた顔を晒し、絶頂の余韻に浸る。

「あっ、きもちぃ……ナルディさんに、種付けされるの、好きぃ……」
「ふふふ……可愛い事を言いますね。そんな事を言われたらどんなお客様も喜んで、きっとイトハの常連になって下さいますよ」

 イトハが何を言っても客へのリップサービスの練習だと思われる。でもナルディが相手の練習で、イトハは本当に思った事を口にしているだけだ。
 それを知られたら彼を困らせるだけだから、イトハは彼の勘違いを否定しない。
 ゆっくりと腰を上げて、ナルディの陰茎を抜いていく。

「んっ、はぁ、んっ……今度は、こっち……」

 イトハは体の向きを変える。ナルディに背中を向け、今度は下の方に生えている陰茎を後孔に押し当てた。

「ふっ、あっ……こっちの、おちんぽでも、種付け、して……っ」

 息も整わぬ内に、猛った肉棒を押し込んでいく。

「っ、そんなに、立て続けにする事はありませんよ、イトハ……」
「んあっ、だって、ほしいっ……ナルディさんの、おちんぽ、どっちもほしいの、我慢できなっ……ああっ」

 臀部を押し付け、ぐうっと陰茎を埋め込む。

「ナルディさ、あっあっ、ナルディさぁんっ」
「本当に、イトハは可愛いですね……っ」
「ひああぁっ」

 両手首をナルディに掴まれ、後ろに引っ張られるようにどちゅんっと腰を打ち付けられた。そのまま激しく内奥を突き上げられる。

「ひっあっあっ、しゅごっ、おっ、くひっああぁっ、はげしっ、んあっ、あっあっあ~~っ」

 イトハの腰振りとは比べものにならない。雄としての欲望をぶつけるように強く中を穿たれ、イトハはもうされるがまま喘ぐ事しかできなくなる。

「あひっ、んっあっ、いく、いくっ、ごちゅごちゅされて、おまんこいくぅっ、んぅうう゛~~っ」

 ごりゅごりゅと前立腺を抉るように擦られ、何度も奥を突き上げられ、イトハは容易く絶頂へと追い上げられた。
 腕を後ろに引かれながら、ばちゅんっばちゅんっと肉塊を叩きつけられる。

「ひぐっ、ううぅっ、いくっ、いって、あっあっ、いくの、とまらな、──~~~~っ、ひっ、ああぁっ」
「ふふ……イきっぱなしになっちゃいましたね。すごいですよ、イトハのおまんこ。痙攣して、私のおちんぽを美味しそうに咥え込んで……」

 蠢動する肉筒の締め付けを楽しむように、ナルディは抽挿を繰り返す。
 強烈な快楽に目の前がチカチカする。恐怖を覚えるほどの快感を与えられ、それでもイトハは悦んでいた。
 たとえ練習だとしても、こうしてナルディに抱いてもらえる事が何よりも嬉しい。
 ごちゅんっと最奥を貫かれ、強い刺激にイトハのぺニスから潮が噴き出す。

「ひはぁあっ、あひぁああっ、きもちいっ、あっあっ、あ~~~~~~っ」
「もう、すっかり奥を犯されるのが好きになりましたね、イトハ。奥をぐぽぐぽされて潮まで噴くなんて……イトハはとっても優秀な従業員です。私も嬉しいですよ」
「んひっ、あっ、ナルディしゃ、あっあっあっんぁあああっ」
「ご褒美をあげましょうね、イトハ。何が欲しいですか? 私にしてほしい事はありますか?」
「ひっ、ぉっおっ、ほしい、ナルディしゃんっ、んんんっ、ナルディ、さんのっ、せいえき、おくにっ、おくに、いっぱい種付けしてくらしゃいぃっ」
「ふふふ……ご褒美に種付けをおねだりするなんて……本当にいやらしくて可愛い……。交尾が大好きなんですね、イトハは」
「すき、すき、だいしゅきっ」

 ナルディが。ナルディだから。ナルディだけが。
 本当の気持ちは隠したまま、練習のフリをして彼の子種をねだる。

「じゃあ、奥に、いっぱい注いであげましょうね……っ」
「んぉお……っ」

 激しく最奥を穿たれ、意識が飛びそうなほどの快感に襲われる。ガクガクと痙攣するイトハの腹の奥に、大量の精液が放たれた。脈打つ雄蘂から、どぷどぷどぷ……っと熱い体液が注ぎ込まれる。

「へぁっ、あっ、あはぁ……」

 愉悦に口を緩めただらしない顔で彼の熱を受け止める。ナルディの体液で腹の奥が満たされる感覚に、身も心も多幸感に包まれる。
 ふと気づくと、臀部に触れるもう一方のナルディの陰茎が再び固く張り詰めていた。
 イトハは後ろへ手を回し、すりすりとそれを摩った。

「ナルディさんの、おちんぽ……またおっきくなってる……」
「ええ。イトハの中が気持ちよくて、そちらもまた反応してしまいましたね」
「おちんぽ、両方いっぺんに入れたらダメ……?」
「ダメ……というか、入らないと思いますよ。時間をかけて拡張すれば入るようになるかもしれませんが」

 確かに、ナルディの肉棒はどちらも太くて長いのだ。もっと入念に準備をしなければ挿入は難しいだろう。
 でも、入れたい。二本同時に。

「無理をする事はありませんよ。そんな無茶をするようなお客様に従業員の相手はさせませんから」

 違う。イトハはナルディだからそうしたいと思うのだ。彼のものだから二本同時に受け入れたいと。
 頑張って更に拡張してみようか。でも、やり過ぎるとガバガバになってしまうだろうか。そうしたら他の客が楽しめなくなって、本当にイトハは売れない男娼になってしまう。ナルディに迷惑をかけるのは嫌だ。
 やはり諦めるしかなさそうだ。
 その結論に至り、イトハはしょんぼりと肩を落とす。
 落ち込むイトハを見て、ナルディが優しく頭を撫でてくれる。

「そんなに頑張らなくても大丈夫ですよ。イトハはもう充分、この店の男娼に相応しい人材なんですから」

 見当違いの慰めに、イトハは複雑な気持ちになる。
 どう頑張っても自分は、彼にただの従業員としか見てもらえないのだろう。
 わかっている。だから気持ちを伝えるつもりはない。
 彼の役に立ちたい。迷惑になるような事はしたくない。
 そんな思いで男娼デビューしたのに。
 バリバリ稼いで、店にお金を返して、後腐れなく綺麗にナルディと別れようと思っているのに。
 そんなイトハの思惑とは裏腹に、全く客がつかないのだ。厳密にはつかないわけではなく、客はイトハを見た瞬間に指一本触れる事なく回れ右するのだ。
 切なくなり、イトハはナルディの胸に身を寄せて甘えた。そうすれば、彼は優しく甘やかしてくれる。
 従業員としてなら、彼に触れられる。触れてもらえる。
 それだけで、充分だ。
 だからイトハは彼への想いを胸に秘める。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

人気俳優に拾われてペットにされた件

米山のら
BL
地味で平凡な社畜、オレ――三池豆太郎。 そんなオレを拾ったのは、超絶人気俳優・白瀬洸だった。 「ミケ」って呼ばれて、なぜか猫扱いされて、執着されて。 「ミケにはそろそろ“躾”が必要かな」――洸の優しい笑顔の裏には、底なしの狂気が潜んでいた。 これは、オレが洸の変態的な愛情と執着に、容赦なく絡め取られて、逃げ道を失っていく話。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

気づいたらスパダリの部屋で繭になってた話

米山のら
BL
鎌倉で静かにリモート生活を送る俺は、極度のあがり症。 子どものころ高い声をからかわれたトラウマが原因で、人と話すのが苦手だ。 そんな俺が、月に一度の出社日に出会ったのは、仕事も見た目も完璧なのに、なぜか異常に距離が近い謎のスパダリ。 気づけば荷物ごとドナドナされて、たどり着いたのは最上階の部屋。 「おいで」 ……その優しさ、むしろ怖いんですけど!? これは、殻に閉じこもっていた俺が、“繭”という名の執着にじわじわと絡め取られていく話。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

距離を取ったら、氷のエースに捕獲された件

米山のら
BL
無口でクール、誰も寄せつけないバレー部の“氷のエース”隼。 そんな完璧な隼が追いかけてくる相手が―― よりによって、才能ゼロで平凡な幼馴染の俺(直央)。 バレー部を辞めようとした日から、 距離を置こうとするほど逃げ道を塞がれ、気づけば抱え上げられてて……いや、何で!? 氷の瞳の奥に潜んでいたのは、静かな狂気と、俺だけへの独占欲。 逃げたいのに逃げられない。 “氷のエース”に愛され続ける、青春ど真ん中(?)の恋物語。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

処理中です...