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28. 監禁される俺
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馬車は走り続けている。
ミカエルは目を閉じたまま、馬車の振動を感じていた。
そろそろ夜になる頃合いだった。
カーテンは閉められているのだろう、瞼に感じる光はなく、真っ暗だった。
馬車内に明かりもつけていないのだろうかと思いつつ、まだ目を開ける勇気は持てなかった。
愛人が寝返りを打っているのに倣って少し腕を動かし、顔を隠すように身体を傾けはしたものの、気配を感じない存在がずっと気になっていた。
『殿下に悟られるようじゃ、護衛失格です』
と、騎士は言った。
訓練を積めば気配は消せるのだろうから、馬車内に残っていても不思議はなかった。
馬車は、走り始めは整地された道路を走っていたが、今は砂利道を走っているようだった。
がたがたと揺れ、身体も揺れる。
どこまで行くのだろう。
誘拐の対象は、ミカエルだと思われた。
愛人はついでのような扱いをされていたが、疑っている。
カフェで、やけに騎士達を店内に入れたがっていた。
直後の昏倒。
睡眠魔術だろうと、見当はついていた。
高レベル帯で使える、闇属性魔術だった。
聖属性魔術と対をなす希少な属性であり、公国の聖騎士団が有名であるのは、その希少性からもある。
誘拐犯の一味に、高レベルの術者がいる、という状況を考える。
黒幕は権力者か富豪かな、と思う。
で、俺を誘拐してどうするの?
嫌な予感しか、しなかった。
また売られるのだろうか。
ヤリチンビッチ人生は、嫌なんですが?
イージーモード人生だ、なんて喜んでいた時期もありました。
勘弁して欲しい。
がたがた揺れていた馬車が、速度を落とした。
急速に速度が落ちた為、完全に脱力していた身体に重力がかかり、座席から転げ落ちた。
…と、思ったが、落ちなかった。
誰かに身体を支えられ、座席へと戻された。
やはり気配は、感じなかった。
いるじゃないかー!!
目を開けなくて良かった!
ホントに良かった!!
敵は刺激してはいけないのだ!
馬車が停止し、御者席から男が話しかけてくる。
「この辺でいっか。起こしてもらっていいッスかー?」
「うーん…」
愛人が呻き、ごそごそと動く音が聞こえた。
そっちを起こすのか。
どうするつもりなのだろう。
様子を窺っていると、身体を起こしたらしき愛人が、「よく寝たぁ」と言いながら、伸びをしているようだった。
え、余裕だな?
こちらは先程から動悸が激しいというのに。
何が起こるのか、どうなるのか。
「え、うわ、こわっ…暗っ…え、人?うわ、こわっ」
愛人が何かを言っているが、おそらく床部分に座り込んでいると思われる、気配のない誰かに気づいて驚いている。
馬車の扉が開く音がして、御者が言った。
「ここでいいだろ。さっさと降りてくれや」
「え、あ…てかここ、どこ?」
「後ろにまっすぐ戻れば、民家あるっス」
「ふーん…何にも見えないんだけどぉ」
「いいからさっさと降りろや。引きずり落ろすぞ」
御者の凄みに、愛人が怯んだ。
「わ、わかったよぉ」
立ち上がる気配がし、扉が揺れる音がした。
そっと、薄目を開けて見る。
すぐ至近に、黒のフードがあった。
思わず声を出しそうになるが、耐える。
愛人の方を見ているようで、見えているのは後頭部だった。
扉の外は日が落ち、晴れた夜空に赤と白の月が二つ浮かんでいるのが見え、遠くに森のような木々の影が見えた。
おそらく、日が落ちてまだ間もない。
地平線の近くが薄くオレンジに染まっており、夜になりきっていなかった。
馬車の中に多少の光が入り、闇に慣れた目には明るく映った。
愛人が降りようと足を踏み出したが、バランスを崩したらしくよろめいた。
「あ」
愛人が小さく声を上げたが、黒フードの推定男が、瞬きする間に立ち上がり、愛人の身体を支えていた。
動きが見えなかった。
愛人は支えてもらえるとは思わなかったのか、両手をばたつかせ、男のフードをはね除けた。
目にも鮮やかな、プラチナブロンドの髪が見えた。
おそらく長さは肩下以上はあるだろう、まっすぐの髪が外套に隠れていた。
「あっご、ごめんなさぁい……、……ざんねん…」
一瞬期待したように男を見上げた愛人だが、すぐに表情が陰り、失礼なことを言っていた。
自分の足で立ち上がり、そして愛人がこちらを見ようとしたので、慌てて目を閉じる。
「元気でねぇ、ミカクン!」
やはり、愛人も共犯だった。
本当に、ふざけないで欲しい。
馬車を降りた愛人の姿が消え、男が扉を閉めようと手を伸ばす。
白く美しい、手だった。
扉を閉め終わる直前、フードをかぶり直そうと手を伸ばしてフードを掴む為、顔がこちらを向いた。
びっくりする程、美形の男がそこにいた。
……は?
愛人の反応と、合致しない。
だが見えた顔は、中性的な美しさを持つ男だった。
また馬車が、動き出す。
男は愛人が寝ていた座席に腰掛けたようだったが、相変わらず気配はなかった。
それからまたしばらく走り続け、潮の臭いを感じ始める。
…海…?
身体が震えそうになるのを抑えるのに、苦労した。
どうしよう、と思う。
船に乗せられたら、終わりなのでは?
馬車が停まって男に横抱きされ、降りた先はやはり海のようだった。
潮騒が聞こえ、塩分を含んだ風が吹いている。
「とりあえず、起こしてもらっていいすか?」
すぐそばでダミ声が聞こえ、魔力が身体を通っていく感覚があった。
ゆっくりと目を開けると、紺色の髪に三白眼、頬に傷のある男と、フードを目深にかぶり顔のわからない男が覗き込んでおり、身体が硬直する。
三白眼の男が、にやりと笑った。
「おい王子サマ、その可愛い顔に傷つけたくなきゃ、大人しくしてろや」
そう脅され、船へと乗せられたのだった。
ミカエルは目を閉じたまま、馬車の振動を感じていた。
そろそろ夜になる頃合いだった。
カーテンは閉められているのだろう、瞼に感じる光はなく、真っ暗だった。
馬車内に明かりもつけていないのだろうかと思いつつ、まだ目を開ける勇気は持てなかった。
愛人が寝返りを打っているのに倣って少し腕を動かし、顔を隠すように身体を傾けはしたものの、気配を感じない存在がずっと気になっていた。
『殿下に悟られるようじゃ、護衛失格です』
と、騎士は言った。
訓練を積めば気配は消せるのだろうから、馬車内に残っていても不思議はなかった。
馬車は、走り始めは整地された道路を走っていたが、今は砂利道を走っているようだった。
がたがたと揺れ、身体も揺れる。
どこまで行くのだろう。
誘拐の対象は、ミカエルだと思われた。
愛人はついでのような扱いをされていたが、疑っている。
カフェで、やけに騎士達を店内に入れたがっていた。
直後の昏倒。
睡眠魔術だろうと、見当はついていた。
高レベル帯で使える、闇属性魔術だった。
聖属性魔術と対をなす希少な属性であり、公国の聖騎士団が有名であるのは、その希少性からもある。
誘拐犯の一味に、高レベルの術者がいる、という状況を考える。
黒幕は権力者か富豪かな、と思う。
で、俺を誘拐してどうするの?
嫌な予感しか、しなかった。
また売られるのだろうか。
ヤリチンビッチ人生は、嫌なんですが?
イージーモード人生だ、なんて喜んでいた時期もありました。
勘弁して欲しい。
がたがた揺れていた馬車が、速度を落とした。
急速に速度が落ちた為、完全に脱力していた身体に重力がかかり、座席から転げ落ちた。
…と、思ったが、落ちなかった。
誰かに身体を支えられ、座席へと戻された。
やはり気配は、感じなかった。
いるじゃないかー!!
目を開けなくて良かった!
ホントに良かった!!
敵は刺激してはいけないのだ!
馬車が停止し、御者席から男が話しかけてくる。
「この辺でいっか。起こしてもらっていいッスかー?」
「うーん…」
愛人が呻き、ごそごそと動く音が聞こえた。
そっちを起こすのか。
どうするつもりなのだろう。
様子を窺っていると、身体を起こしたらしき愛人が、「よく寝たぁ」と言いながら、伸びをしているようだった。
え、余裕だな?
こちらは先程から動悸が激しいというのに。
何が起こるのか、どうなるのか。
「え、うわ、こわっ…暗っ…え、人?うわ、こわっ」
愛人が何かを言っているが、おそらく床部分に座り込んでいると思われる、気配のない誰かに気づいて驚いている。
馬車の扉が開く音がして、御者が言った。
「ここでいいだろ。さっさと降りてくれや」
「え、あ…てかここ、どこ?」
「後ろにまっすぐ戻れば、民家あるっス」
「ふーん…何にも見えないんだけどぉ」
「いいからさっさと降りろや。引きずり落ろすぞ」
御者の凄みに、愛人が怯んだ。
「わ、わかったよぉ」
立ち上がる気配がし、扉が揺れる音がした。
そっと、薄目を開けて見る。
すぐ至近に、黒のフードがあった。
思わず声を出しそうになるが、耐える。
愛人の方を見ているようで、見えているのは後頭部だった。
扉の外は日が落ち、晴れた夜空に赤と白の月が二つ浮かんでいるのが見え、遠くに森のような木々の影が見えた。
おそらく、日が落ちてまだ間もない。
地平線の近くが薄くオレンジに染まっており、夜になりきっていなかった。
馬車の中に多少の光が入り、闇に慣れた目には明るく映った。
愛人が降りようと足を踏み出したが、バランスを崩したらしくよろめいた。
「あ」
愛人が小さく声を上げたが、黒フードの推定男が、瞬きする間に立ち上がり、愛人の身体を支えていた。
動きが見えなかった。
愛人は支えてもらえるとは思わなかったのか、両手をばたつかせ、男のフードをはね除けた。
目にも鮮やかな、プラチナブロンドの髪が見えた。
おそらく長さは肩下以上はあるだろう、まっすぐの髪が外套に隠れていた。
「あっご、ごめんなさぁい……、……ざんねん…」
一瞬期待したように男を見上げた愛人だが、すぐに表情が陰り、失礼なことを言っていた。
自分の足で立ち上がり、そして愛人がこちらを見ようとしたので、慌てて目を閉じる。
「元気でねぇ、ミカクン!」
やはり、愛人も共犯だった。
本当に、ふざけないで欲しい。
馬車を降りた愛人の姿が消え、男が扉を閉めようと手を伸ばす。
白く美しい、手だった。
扉を閉め終わる直前、フードをかぶり直そうと手を伸ばしてフードを掴む為、顔がこちらを向いた。
びっくりする程、美形の男がそこにいた。
……は?
愛人の反応と、合致しない。
だが見えた顔は、中性的な美しさを持つ男だった。
また馬車が、動き出す。
男は愛人が寝ていた座席に腰掛けたようだったが、相変わらず気配はなかった。
それからまたしばらく走り続け、潮の臭いを感じ始める。
…海…?
身体が震えそうになるのを抑えるのに、苦労した。
どうしよう、と思う。
船に乗せられたら、終わりなのでは?
馬車が停まって男に横抱きされ、降りた先はやはり海のようだった。
潮騒が聞こえ、塩分を含んだ風が吹いている。
「とりあえず、起こしてもらっていいすか?」
すぐそばでダミ声が聞こえ、魔力が身体を通っていく感覚があった。
ゆっくりと目を開けると、紺色の髪に三白眼、頬に傷のある男と、フードを目深にかぶり顔のわからない男が覗き込んでおり、身体が硬直する。
三白眼の男が、にやりと笑った。
「おい王子サマ、その可愛い顔に傷つけたくなきゃ、大人しくしてろや」
そう脅され、船へと乗せられたのだった。
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