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27.証人
しおりを挟むイオの町にはホテルは一つしかない。惑星リースの中でも、最も人が住むには困難とされる地域に位置するイオは人口も他の町に比べると一番少なく、観光も盛んではない為に旅行者も少ない。この地の人々も観光に力は入れておらず、昔は複数あったホテルも今ではひとつだけになっていた。
町にひとつしかない古いホテルの応接室の中で、ゼムリア連邦からやってきた司法省の役人であるヘラルド・バジョ次官補はデスクの上に置かれている書類と、大きめの端末のモニターに映し出された資料を見つめながら、ある人物の到着を心待ちにしていた。そのすぐ隣のデスクではゼムリア連邦宇宙軍のキリア・ラーレンが濃い青色の軍服に身を包み、ヘラルドと同じように端末のモニターに映し出された資料を無言で見つめていた。キリアの首はかっちりとした軍服の襟でほとんど隠れていたが、首を曲げるような姿勢を取ると、レノに首を絞められた時にできた紫色の跡がほんの僅かに顔を出していた。キリアと同じく、ヘラルドの護衛役として惑星リースに同行してきた軍人のギー・バルバストフ少佐は、少し離れたところに設置されたカメラの脇に置かれた椅子に腰をかけて、腕組みをしたまま応接室の床に敷かれている絨毯の染みを見つめていた。イオの町に一緒についてきたスレアの役人のヤック・バファノはこの応接室にはおらず、別の部屋に待機している。しばらくして、応接室のドアが控えめにノックされると、ドアがゆっくりと開かれた。
「失礼します」
「どうぞかけてください、リン・シェイド。そして付添い人のレノ・ファレンズもお座り下さい」
ヘラルドに促されて、ヘラルド達と向かい合うような形でリンとレノは深緑色の椅子に座るとリンは緊張の色を隠せず、辺りを見回した。自ら言い出したことで今日このホテルに来ることになったリンであったが、これからゼムリアにいた時のことを詳しく質問されると思うと今すぐにでもこの場所から逃げ出したい気持ちでいっぱいになっていた。心臓が意味もなく早まり、手に汗がにじみ出てくる。視線をどこに定めていいのか分らずしきりに染みのある床や小さな花柄模様の壁、窓の方へと絶えず動かしていた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。言えるところだけ言ってくだされば結構です。どうしても言いづらい時や、途中で恐くなってしまった場合はすぐに中断しますから、安心してください」
「はい」
初め事務的な口調であったヘラルドだったが、そんなリンの様子を見て僅かに目を細めると、リンの緊張を少しでも解くために温かみのある言葉を投げかける。この時初めてヘラルドを見て、リンは少しばかり驚いた。腰まである長い髪を一つにまとめ、なぜか眼鏡をかけたヘラルドは全くの別人のようにも思えた。
「それでは早速始めましょうか? バルバストフ少佐、記録をお願いします」
カメラのすぐ横に座っていたバルバストフ少佐はヘラルドから指示を受けると、サッと立ち上がりカメラのスイッチを入れてこれから始まる証言の記録を開始した。リンが証人になると告げた後、その足でリン達はヘラルドが宿泊しているホテルに向ったのだった。そして、リンが証人になることに対してヘラルドは喜んだが、リンの申し出を断ってきた。それまでヘラルドは執拗にリンに証人になってゼムリアへ来るよう強く希望していたにも関わらず、リンがいざ証人になると言い出すとなぜか断った。そして、その代わりに証言を記録して、それを裁判に提出すると言い出したのだった。初め、リンはそのことに対して動揺したが、レノはこの場で証言を取り、それを裁判に提出する方式のほうがよいとリンに言い聞かせた。余程の思いで裁判に証人として出ると決断していたリンは、ヘラルドの証言をここで記録するだけでいいという言葉にその場で座り込んでしまったが、考えた後、その方法を選ぶことになった。けれどもリンが人前で、自身の身の上に起った事を細かく話すことに変わりはなく、翌日再びヘラルド達を夕方に会うと証言で行われる規則や、どういった事を聞かれるかなど事前に詳しく説明を受けた。そして今日、リンは被害者として証言を記録するためホテルの応接室の中にいた。
「ゼムリア連邦裁判、第一七六五の裁判における被害者の証言を記録します。宇宙暦三八四年、一二月七日、場所、惑星リース、スレア国イオ。被害者リン・シェイド、付添い人レノ・ファレンズ、私ゼムリア連邦司法省、ヘラルド・バジョ次官補、立会人ゼムリア連邦宇宙軍キリア・ラーレン、記録者ゼムリア連邦宇宙軍ギー・バルバストフ少佐、我々はゼムリア連邦国の法に従い……」
バジョ次官補の宣誓が長い間続き、その間リンは呼吸をするのも忘れるほどこれから聞かれるであろう質問を頭の中で思い返しては、今すぐにここから逃げ出した衝動に駆られていた。
「リン、大丈夫だよ。私がついているから、言いたくないことは言わなくていいんだ。無理はしなくていい」
「…うん」
リンの緊張感を和らげようと、レノは小声で話しかけるとリンは無意識に手を伸ばしてレノの手を掴んでいた。レノは自身の手を掴んできたリンの小さな手の上からもう片方の手を乗せると、バジョ次官補の宣誓が終わるのを待っていた。
「あなたの名前と年齢、生年月日、生まれた場所を答えてください」
「は、はい。リン・シェイド、十四歳です。生まれは宇宙暦二七〇年二月十四日、惑星G7で生まれました」
「リン・シェイドさん、あなたは難民だったのですか?」
「はい、難民です」
リンは簡潔にバジョ次官補の質問に次々と答えていった。その様子を少し安心した表情で見つめていたレノは、キリアの視線を感じ、ふとキリアの方へと顔を向けるとキリアはほんのわずかにニヤリと笑ってみせた。その笑顔に悪意のようなものは感じられず、逆にリンは順調に話していることに対する笑顔のようにも感じられ、レノもまた僅かに表情を変えてみせた。リンはヘラルドの質問に緊張しながらも答えていく。事件に触れるまでの間、リンは質問に対して口ごもることもなくこのまま最後まで行くのかと思われた。
「それでは質問しますが、イヴァン・メレラから初めて性的暴行を受けたのはいつですか?」
惑星G7にいた時から惑星ゼムリアに連れてこられ、メレラの家で暮らし始めたばかりの頃の質問に淡々と答えていたリンは、とうとう確信に触れる部分の質問に入り、ここで始めて目の色が変わった。そして無意識に生唾を飲み込むと、これまでとは全く違う低い口調で小さく質問に答え始めた。
「きょ、去年の九月頃です」
「正確に日付は覚えていますか?」
「……あ、二日。いえ、九月一日です」
去年の九月の初めに家庭教師であるジェフと街に遊びに行く約束をしたことを思い出した。そして、レノに二人で会いに行くこともその予定に含まれていた。あの時はゼムリアでの生活が楽しくなり始めていた頃だったとリンは証言しながら、ぼんやりと思い出していた。
「宇宙暦三八三年九月一日のことでよろしいですね?」
「はい、間違いありません」
「場所はどこでしたか?」
「……メレラ邸の、地下室です」
「そこで、あなたはイヴァン・メレラから性的暴行を受けたのですね?」
「……」
「リン・シェイド? 質問に答えてください」
言おうとしているのに声が出なかった。昨日はこのような質問にすぐ答えることができた。公式の場で、バジョ次官補とキリアが目の前におり、部屋の横ではカメラが回っている。そしてそのすぐそばにはギー・バルバストフがジッとこちらを見つめていた。そして、昨日はその場にいなかったレノがすぐ横に座っている。リンはレノから手を離すと、再び答えようと口を開いた。
「…は、い。そうです…」
かろうじて声が出た。けれど、リンはこの場から今すぐに逃げ出したい衝動と必死に戦いながら、この先何度もこのような質問を受けることになると思うと目の前が瞬間的に真っ暗になっていた。
「大丈夫ですか? リン・シェイド。そこにある水を飲んでも差し支えありません、あと気分が悪くなったらすぐに言ってください」
「大丈夫…です」
そう言うとリンはすぐに目の前にある水の注がれたコップを持つと、一口だけ水を含んだ。
「リン、無理しなくていいんだ。つらければここで終わらせてもいい」
「……まだ平気」
その後、イヴァン・メレラから性的な部分は省き、どのような暴力を振るわれたのかをバジョ次官補は質問してきた。そして、ホスティアスに連れて行かれるまでの間、何度同じような事が起きたかを聞かれ、リンは浅い呼吸を繰り返しながらもなんとかそれらの質問に答えていった。
「バジョ次官補、リンはかなり疲れています。すこし休憩をいただけないでしょうか?」
リンの様子が明らかにおかしいことに気づいたレノは、バジョ次官補に向って休憩を挟むよう訴えた。
「そうですね。少し、休憩しましょうか。顔色がかなり悪いようですね」
「あ…あの、まだ大丈夫です。……続けてください」
「ですが、大丈夫ですか? 休憩を挟んでも大丈夫ですよ?」
「リン、少し休憩しよう。このままでは危ない」
「…大丈夫です。レノ、大丈夫だから。お願い、します。このまま続けて下さい」
真っ青な顔をしながら、どこかに痛みを感じるような仕草をしたリンはそれでも休憩を拒否して、このまま証言することを望んできた。
「分りました、それでは続けましょう。リン・シェイド、あなたが初めてホスティアスに連れて行かれたのは同年、十月三日で間違いありませんか?」
「…はい、間違いありません」
「その日の出来事を詳しく話してもらえますか?」
少しの間を置いて、リンが口を開いた。
「その日も一日、自分の部屋で過ごしていました。そして、夜九時位……あの、…チェセが部屋にきました。それで、どこに連れて行かれるのか分らないままエアカーに乗せられて……気づいたら暗い場所へ……地下の、地下都市の中にいました」
そのまま黙り込んだリンを見て、バジョ次官補が言った。
「夜にアンドロイドであるチェセに行き場所を知らされずにゼムリアの地下都市に連れて行かれたのですね?」
「はい…」
「地下都市のどこに連れて行かれたか、覚えていますか?」
「……ホスティアス」
「ホスティアス、会員制の秘密クラブ、違法なクラブのことですね?」
「そ、そういうのは…よく知りません。ゼムリアの旧地下都市にある、ホスティアスというところに、連れて行かれました」
「ありがとう、リン・シェイド。そこで、そのホスティアスであなたはどういう人物に出会いましたか?」
「…イヴァン・メレラ……と、キーラっていう女の人に会いました」
「他には?」
バジョ次官補に他に出会った人物を聞かれて、リンはそれきりとうとう何も話せなくなってしまった。
「リン、無理するな。休憩しよう」
レノがそっとリンの肩に手を置いて、静かに話しかけてきた。けれども、その言葉にも反応できないリンは黙ったまま俯いていた。
「バジョ次官補、休憩を要求します」
「……人」
レノがバジョ次官補に話しかけたと同時にリンのほうから声が聞こえた。
「リン・シェイド、もう一度言ってください」
「…仮面、……つけた人が、たくさん…・・・いました。僕、舞台の上にいて、そしたら目の前にたくさん仮面つけた人がいて、そしたら舞台の上にも仮面の……ひとが、いた」
「そうですか、あなたはその人達からも性的暴行を受けたのですか?」
「バジョ次官補! 休憩を要求します、リンにこれ以上答えさせるのは無理だ」
レノは、リンの心を代弁するかのように叫んだ。リンがこれ以上苦しむ姿をレノは見ていられなかった。こうまでしてリンを再び苦しめることになんの意味があるのか。証言をさせても、イヴァン・メレラは首相に目を掛けられている人物だ。裁判で下された判決などすぐ反故にされるであろう。そんな裁判でこんなにも苦しめられるリンの姿はレノにとって耐えられなかった。
「受けました。舞台にいた仮面をつけた人から……その後も、違う部屋に移されて……知らない人達から同じようなことを、されたっ……」
リンの瞳は真っ直ぐにバジョ次官補を見つめた。涙が幾筋も流れて頬を濡らしている。一粒の涙がとリンの服の上に落ちて、そこで初めてリンは自分が泣いていることに気がつき動揺した。リンはどうして自分が泣いているのか不思議だった。その時、かろうじて残っていた理性が感情の波に押し流された。
「どうして? ど、うしてあんな、ことするの? ……どうして? 僕が、難民だから? 僕は、ゼムリアじゃ人間じゃないから? ただの、物だから!? 僕が悪いから!? どっ…して?…」
感情が昂ぶったリンは、嗚咽交じりに声を出して目の前にいるバジョ次官補に訴えた。これまで必死に奥底に押しやっていたものが一気に溢れていた。あの出来事を心の中で殺して、必死に殺して殺して、殺し続けていたものが突然巨大な力を持ち、リンの心を蹂躙していく。いつの間にか立ち上がって泣き続けるリンをレノが急いで両手で抱きしめると、再び鋭い口調で言った。
「次官補、休憩を!」
「そうしましょう。それでは三十分の休憩を挟みます。証人は退廷してください」
溢れ出る涙をそのままにリンはレノに抱きかかえられるようにして、ホテルの応接室をでると事前に用意されていた隣の部屋へと移った。
「リン、もういい。もう止めよう、うちに帰ろう」
「で、でも……まだ終わってないっ」
泣きながらリンは、背中を擦ってくるレノに言った。心を深い闇に覆い尽くされながらも、リンはそれでも必死に証言の続行を望んできた。
「駄目だ。これ以上証言を行えば、またリンに大きな負担が圧し掛かる。リン、私と一緒に帰ろう」
「……やだ、やだよっ……まだ続けれる、続けれるからお願い! このままじゃ、駄目なんだ。このままだと駄目なんだよ。今言わないと、僕は一人だけ生き残ってしまったんだ。僕には、生き残った僕には、責任がある……だからっ」
涙で濡れた目で顔をクシャクシャにしながらも、リンは帰ろうと言うレノに続けさせて欲しいと懇願してくる。レノは悩んだ、このまま中途半端な状態で終わらせてしまえば、いずれこのこともまたリンの負担になる、けれどもこのまま続行すれば今以上にリンは苦しむことになるだろうと。どちらが一番リンにとって負担が少なくて済むのだろうか。レノは自分ではとても想像のつかないリンの心の闇を消し去りたい一身で強く抱きしめた。
「リン……わかった。落ち着いたらまた証言を続けよう。でも、またこのような状態に陥ったときは、どんなにリンが嫌がっても家に連れて帰る。いいかい?」
途中で終わらせて、さらにリンの傷が深くなるのを恐れたレノは、リンの希望を優先させた。
「…わかった」
タスケテ。
夢の中でみた顔のない子供達の声が、ふっと思い出された。名前も顔も知らない子供達、"人間"ではなかった子供達。リンは暫くレノに抱かれたまま呼吸を落ち着かせると、少しだけレノの身体を押して離れた。
「もう、大丈夫」
「…まだ休憩の時間は残っている、いいのか?」
「うん…、大丈夫」
休憩を十五分程で終えたリンは、再びバジョ次官補達にいる応接室に戻ると証言を再開させた。涙はすっかり消えていたが、赤い目をしたままのリンはそれでも恐怖と緊張と人前で語らなければならない羞恥とで情けなく思う自分と必死で戦った。バジョ次官補の質問に途中何度も言葉を詰らせながらも、リンはそれでも答えていく。隣で座り、ただ静かに聞いていることしかできないレノは衝撃を受けていた。リンの口から出てくる事実は想像していたよりも、遥かに悲惨なものであり、目を覆いたくなるような気分になっていく。軍人として、数々の紛争地域で任務についていた頃、彼は多くの人間を殺してきた。時には助けを求める者もいた。だが戦場においてレノは忠実に自分の使命を果すため、命乞いをする者達も躊躇なく殺してきた。そのことにおいてアンドロイドであっても、人間とほとんど変わらぬ感情を持ち合わせているレノにとって多少の罪悪を感じる場面もあった。けれどもリンの話を聞きながら、これまで自分が殺してきた人間とリンを重ね合わせて彼の心は張り裂けそうな感覚に陥っていた。そして、リンが助けを求めてきた時なぜあの時もっと行動を起こせなかったのかと自分を責めていた。
「あなたが最後にホスティアスへ連れて行かれたときの事を話してください」
「……その時の事はよく覚えていません」
非常に小さな声でリンが言った。あまりにも小さすぎる声だった。かろうじて聞き取れたヘラルドは再度返答を求めず、話を進める。
「覚えている範囲でかまいません。メレラ邸の地下にあった牢に閉じ込められた後、またホスティアスに連れて行かれたんですよね?」
「はい、でも…ほんとうによく覚えてなくて。地下から、自分の部屋で着替えたことはなんとなく…覚えてます。でも…」
「なんでも構いません、記憶に残ってる場面を断片的にでも話してください」
バジョ次官補は、ゆっくりとした口調でリンに話すよう促した。
「…そのあと、……丸くて刃のついたものが上にあって」
一際表情を歪めると、リンは苦しそうに息を吸い込んだ。リンの手が振るえ、肩が小刻みに震えている。それに気づいたレノは苦しみを少しでも癒そうと、リンの背中を擦った。
「それが、僕のほうに落ちてきた。すごく、すごく痛くて……」
「丸い形の刃が二つ降りてきて…、あとは分かりません。そのあと気づいたら、白い部屋にいました」
言い終えて、リンは無意識に両手を交差させて、自身の両腕の付け根に当てた。どこか痛むような顔をしながらそれでもバジョ次官補を見つめた。
「その丸い形をした刃というのは、円盤形の鋸ですか?」
「はい、そうだと思います」
「これを見ていただきたい」
バジョ次官補は端的に言うと、端末を使って彼とリンとの間にある空間に、円盤形の鋸が取り付けられた台のホログラムを映し出した。それを見た瞬間、リンはヒュッと息を飲んだ。
「これはホスティアスで押収した証拠品だ。あなたはこの台に寝かされ、そして鋸で両腕を切り落とされたのですか?」
リンは黙ったまま口を開かない。レノは何か言いたそうにしていたが、ただリンのそばで見守るしかなかった。レノもまたリンの言葉を待った。多分、バジョ次官補の質問は事実であろう、レノはそう思っていた。だから、リンが言わなくてもいいことだ、聞かなくてもわかっていると思った。けれどもその時のことは信じたくない事実であり、もし叶うならばリンから否定の言葉を聞きたかった。
「その場にいた何人もの人々が証言しています。それにあなたの切り落とされた両腕は廃棄場を通じて研究医療機関へと実験材料として流されたことをこちらは把握しています。どうですか? この道具であなたの腕は切り落とされたのですか?」
「…似てます。その、鋸はそっくりです。多分、そうだと…思います」
「それは、あなたの腕はこの鋸によって切断されたということですか?」
長い沈黙が部屋の中の時間を止めた。リンは映し出された映像を目を見開いたままじっと見つめている。呼吸が苦しいのか両肩が息を吸うたびに上に上がっていた。そして、リンは唇を僅かに動かした。
「はい、その鋸で……僕の両腕は切断されました」
沈黙を破りやっとの思いで答えたリンは、言い終えると同時に体がグニャリと曲がり、椅子から落ちた。隣にいたレノが地面に倒れる寸前で気を失ったリンの身体を抱き抱えてた。
「バジョ次官補、ここまでです。これ以上リンに証言させるのは無理だ」
「そのようですね。それではこれにてリン・シェイドの証言を終わります」
意識を失ったリンを抱き上げたレノは、バジョ次官補、キリアに対して悲しげな表情を浮かべるとリンを連れて退室した。
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